■RODEとSHUREを屋内・屋外で収録テスト
まず、コンセプトも似ているiPhone用の外付けマイク2製品のプロフィールから紹介。
RODE「VLOGVMML Vlogger Kit iOS edition Vlog撮影キット」(以下、VLOGVMML)は、Lightning端子に直挿しできるマイク(このマイク部は「VideoMic Me-L」として販売中)に自撮りにも使えるミニ三脚、マイクロLEDなどが付いたキットになっています。マイクは正面からの音に感度が高いカーディオイド仕様。モニタリング端子も付属しています。
SHURE「MV88+DIG-VIDKIT」は、自撮りにも使えるミニ三脚とスマホを接続・固定するパーツが揃ったビデオキットです。iPhoneとの接続は付属Lightningコネクタ用ケーブルを利用。最大の特徴は指向性選択で、2つのマイクカプセルでステレオ幅選択、さらにはモノカーディオイド、モノ双方向性、Rawミッドサイドなど用途に応じた専門的なカスタマイズが可能。
決定的な違いとしては、直差しでシンプルなRODE「VLOGVMML」に対して、SHURE「MV88+DIG-VIDKIT」は接続にケーブルが必要だけどアプリカスタマイズが入って多機能というところです。
使い勝手はこれくらいにして、いつも行っているYouTube撮影に近い画角になるようにiPhoneを三脚に立ててセッティング(iPhone 12 Proのインカメラで撮影)してみます。
マイク距離はiPhone単体の状態で約80cm、RODE「VLOGVMML」、SHURE「MV88+DIG-VIDKIT」はマイク自体が少し飛び出るので約70cmでした。カメラ位置は画角を優先しているため、マイクを置く位置が、高音質に収録できる口から50cm以内を少しオーバーしています。
ではこのいつもの撮影環境で、内蔵マイク含め3パターンで撮影してみます。
iPhone内蔵マイクは若干響きが付いているけどギリ許容かなという程度。
RODEはiPhone内蔵マイクより声に厚みがあって音質アップしています。でも若干響きはある。
そんななか、SHUREは声のクリアさが明らかに優秀。音質評価はSHUREがトップです。ただし響きは少し残っています。ちなみに指向性を135度まで広げていくと順当に音の響きも広がっていきます。
次に比較的静かな屋外の庭で収録。
RODE「VLOGVMML」、Shure「MV88+DIG-VIDKIT」とも付属のミニ三脚を自撮り棒にして、マイク距離は約40~50cm。
これで自撮り撮影をしてみたのですが、正直言ってiPhone内蔵マイクでも厚みある音を拾えて音自体は結構いい。これはマイク距離が口から50cm以内にギリギリ収まっているからです。ただ、iPhoneマイクは周囲の環境音をやや多めに拾います。
続いてRODEをチェック。
こいつはカーディオイド(前方指向性)で、周囲の音はわずか。声だけを的確に拾うクリアさが優秀です。声のニュアンスまで伝わります。
そしてSHURE。
特に人の声の帯域がクッキリしていて、僕みたいな喋り用には合っていますね。指向性もステレオ60度なら問題なく、ステレオ135度まで広げていくと周囲の環境音もかなり拾えます。
では雑踏の状態ではどうなるのか。同じくiPhone内蔵マイク含めて3パターン、自撮り約40~50cmで比較してみます。。
iPhoneは声自体は拾えるけど、周囲の音も盛大に拾います。これは、YouTubeにアップする際に字幕を付けないと厳しそうかな。
RODEの音質は相変わらずナチュラル系で、情報重視だけど周囲の音の押さえ具合が優秀。そのままYouTubeにアップできるギリギリ程度です。
SHUREは、僕の話す声、雑踏で流れていたBGMも中高域の音の粒立ちが良くクッキリ。YouTube公開時、字幕なしでいけるでしょう。指向性をステレオ135度にすると周囲の音も広がるけど、声がクッキリしているので一応字幕ナシでも通用するはず。
■重要なポイントはマイクと口との距離
内蔵マイク含めて3機種を3シチェーションで検証して見えてきたのは、まずiPhone内蔵マイク最大の弱点は、無指向性で周囲の音を拾い過ぎだということ。ただし比較的静か、かつ口から50cm以内なら内蔵マイクも音質面では通用します。RODEはナチュラル系の高音質で指向性が狭く、僕みたいな自撮り用には相性が良さそうです。そしてSHUREは、そもそもマイクで音を拾う周波数バランスが人の声の帯域に強く、喋り収録には相性良し。そこからアプリを通して指向性をカスタマイズできるところがマニアックで、自撮り以外の収録でも活躍してくれそう。
音質重視でいくとSHUREが一番ではありますが、屋外に持ち出すとなると使い勝手で気になるところがありました。SHURE「MV88+DIG-VIDKIT」ってiPhoneとケーブル接続になるんですよね。そしてマイクも固定する必要があるので付属のミニ三脚含めて必須だし、屋外でサッと出して収録するには面倒です。
その点、RODE「VLOGVMML」はLightning端子に挿すだけで取り回しも超シンプル。ミニ三脚も必須ではありません。指向性がやや狭いカーディオイド固定というところを、どう考えるか次第でしょう。
さて冒頭で掲げた「iPhoneに外付けマイク付ければYouTube動画撮影を全部できちゃうんじゃないか」ですが、マイク音質で最も重要なポイントはマイクと口との距離なので、静かな場所かつ50cm以内で収録すれば正直内蔵マイクでもYouTube収録は可能です。自撮り撮影であれば50cm以内という条件は満たせるでしょう。外付けマイクを使うと距離が50cmをちょっと離れても音質面で頑張ってくれることはありますが、まずは距離を近づけましょう。
ただ、うるさい場所でiPhoneの内蔵マイクで収録すると周囲の音を拾い過ぎるところが問題。喋りメインなら指向性を狭める目的で外付けマイクというオプションも用意しておくと、iPhone一本でYouTube用動画撮影で全部できちゃうんじゃないかと思いました。
いや、むしろ僕のような喋りメインならスマホ撮影でもピンマイクを使うべきかも…? いやいや、僕のYouTubeチャンネルだと、「騒音のある場所で収録しているのは、騒音があってうるさいシチェーションを視聴者に伝えるため」だし、むしろ周囲の音を拾うiPhone内蔵マイクこそが正しいのかも。こうなるともう、マイク選びってクリエイティブの問題になってきますね。
<取材・文/折原一也>
折原一也|1979年生まれ。PC系出版社の編集職を経て、オーディオ・ビジュアルライター/AV評論家として専門誌、Web、雑誌などで取材・執筆。国内、海外イベント取材によるトレンド解説はもちろん、実機取材による高画質・高音質の評価も行う。2009年によりオーディオビジュアルアワード「VGP」審査員/ライフスタイル分科会副座長。YouTube「オリチャンネル」
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