同店のコンセプトづくり、企画のすべてを担うのは「松崎煎餅」八代目・松崎宗平さん。まだ若き八代目が目指したのは「地域密着」「原点回帰」をテーマにした“街のせんべい屋さん”だという。
店内では「松崎煎餅」の看板商品でもある瓦煎餅や草加煎餅、あられ、おかきなどを販売すると同時に、カフェスペースでは甘味などのメニューだけでなく「ハンドドリップコーヒーと瓦煎餅」といった新しい食べ合わせを提案。また、ランチタイムには若手料理家がプロデュースするヘルシーな定食をメニューにラインナップするなど、八代目ならではの新しい発想をふんだんに取り入れながら、いわゆる“せんべい屋さん”に対する固定概念を打ち破るようなコンテンツを展開する。
あえて昔ながらの風情を感じる商店街に出店し、中に一歩踏み込めば驚きの展開が待っている。今まであるようでなかった「街のせんべいスタンド」のルーツは1804年創業の「松崎煎餅」にある。
江戸の華やかかりし頃、芝魚藍坂に創業。三代目によって現在の地・銀座に店を移したが、ゆうに200年以上の歴史を長きにわたり脈々と紡ぎ続けている、言うまでもなくせんべい店としては老舗中の老舗である。
「菓子業界が驚くようなスピードで多様化する今だからこそ、創業当時と同じ在り方、原点でもある〈街に根付いた店〉を提案したかった」と語るのは八代目・松崎宗平さん。
老舗が伝統を守りながらもあえて枠を壊し、新たに提案する「街のせんべい屋さん」。ここでは、物販・飲食だけでなく「体験」も提供する。
また、同店では、お酒に合う大人仕様にこだわった揚餅など、老舗においては実験的な新作も次々投入。これらは他の商品とパッケージも異なる同店限定商品になるのだが、オープン以降好評につき7月末にはまたあらたな新作「小揚丸(胡麻)」「八穀おこげ」「ざらめひとくち煎餅」が登場した。どれも“ひとくちサイズ”でつまみやすく、クセになる味わい。発想は新しいが、老舗ならではのクオリティはその風味・食感から十分に体感できる。
「伝統を次世代へ繋ぐための新しい提案」、「受け継がれるべき老舗ならではの職人技」などをベースにしながら、「もちろんそれ以上の体験を提供する場にしたい」という気概を感じさせる八代目・宗平さん。実は素顔ではプロのミュージシャンとしても活躍する今どきの38歳だ。もしかするとだが、いつかそのパフォーマンスを店で見れる日がくるかもしれない? とあらぬ期待をふくらませながら、ぜひともぶらりと通いたい店である。
【松崎煎餅 松陰神社前店】
東京都世田谷区若林3-17-9
(松陰神社通り商店街内)
03-6884-3296
11時30分~19時(カフェ L.O.18時30分)
ランチは数量限定 水曜日定休
http://1804.matsuzaki-senbei.com
(文/松浦 明)
英国・ロンドン「Sotheby's Institute of Art」で西洋美術史を学び、帰国後は美術図録の編集に携わる。ギャップ出版入社後、ライフスタイルマガジン『gap』や数々の書籍の企画・編集を手がけ2003年に独立。現在は雑誌・ウェブマガジンでの記事執筆、食ブランドや企業のフリーペーパーなどの企画・編集等を手がけている。
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