【乗ってみた】新感覚の3輪車!SPYDER F3-Sに乗ってみた

ドリュン!

右手のグリップをひねると、ロータックスの3気筒エンジンが力強く吹け上がる。軽い車体が後ろから蹴られたようにアスファルトの上を弾かれる。この感覚は何かに似ている。あれだ、スノーモービルだ。

カナダ企業のBRPは航空機部門としてボンバルディアをもつほか、世界初(!)のスノーモービルをはじめ、水上オートバイやATV(オールテレーンビークル:四輪バギー)などを送り出してきた“レジャー”系乗り物メーカーとして有名。CAN-AMブランドはATVでも使われてきたブランドだ。

空(航空機)、海(水上バイク)、雪山(スノーモービル)、荒野(ATV)を制したBRPが、残されたフロンティアとしてオンロードを目指した。それがCAN-AM SPYDERだ。バイクを作ろうかとも思案したそうなのだが、すでに競合他社が多かったのと、せっかくなら新しいジャンルの乗り物を作ろうということになったらしい。

スノーモービルにどこか通じるものがある。フロント左右のソリとリアのキャタピラをタイヤにしたようなスタイルがそう思わせる。ただし、設計は別物。跨るとライディングポジションもアイポイントもスノーモービルより高い。

SPYDERには発進までの手順に約束事がある。イグニッションをONに回し、左グリップにあるモードスイッチを押してから、右グリップスターターボタンでセルを回す。このモードスイッチを押し忘れて「あれ? かからない…」ということがよくあるようだ。エンジンが息をしたら、パーキングブレーキ解除ボタンを押してからギアをローに入れる。

ガコン

今回乗ったCAN-AM SPYDER F3はセミオートマチック。左グリップの根元にパドルシフトが付いており、奥へ押すとシフトアップ。手前へ引くとシフトダウン。セミオートマチックとしているのは、シフトアップにはパドル操作が必要だが、車速が落ちると自動的にシフトダウンする仕組みになっているから。また、各ギアの指定の車速以上にならないとシフトアップしないようになっている。ちょっと複雑なように思えるが、すぐに慣れた。

バイクと決定的に違うのは、ブレーキがフットペダルだけということ。右足でペダルを踏むと前後ブレーキが同時にかかるようになっている。ちなみにフロントキャリパーはブレンボ製。試乗前にクローズドエリアでフルブレーキングを試す機会があったのでガツンと踏んでみた。タイヤが“キュッ”と鳴って“ガンッ”と利く。その割に怖さがない。フロント2輪なので転倒する心配が少ないからだろう。

さて、試乗は箱根ターンパイク。濃霧で視界が悪い。法規上はヘルメットの必要はないものの、メーカーはヘルメット装着を強く推奨している。もちろん被る。駐車場から出て右手でグリップをひねる。

ドリューーーン

パンチのある3気筒エンジンが気持ち良い。トルクフルで小気味よくシフトアップしていくとグイグイ車速が伸びる。なにせ車重386kgに対して最高出力115馬力あるのだ。グリップを戻すとほどよくエンジンブレーキが利いてコントローラブル。その気になれば、かなりハイアベレージで走れてしまうので、後ろから来た乗用車にあおられることもない。気分良くオープンエアドライブが楽しめる。

際立っているのは、ダイレクトなハンドリングだ。タイヤが路面から受ける反力がダイレクトに手へ伝わってくる。振動が伝わるという意味ではなく、タイヤがシッカリとグリップしているとか、コーナリング中にタイヤが変形しているといったインフォメーションが遠慮なく伝わってくる。これは乗用車にはないフィーリング。

コーナーで曲がるのにバイクのように車体を傾ける必要はない。というか傾かない。タイヤを見るとわかるが、バイクのそれのようにショルダーが丸くない。車体を傾けることを前提にしていないのだ。基本的に必要なのはハンドル操作だけ。体重移動さえ求められないが、積極的にインサイドへ体重を乗せると、気分が乗ってくる。カラダを動かしながらアクティブに乗るのが楽しい。

シートはかなり大きめ。長時間のライディングでもお尻が痛くなることはなさそうだ。これはタンデムシートも同じ。試乗に居合わせたグッズプレス編集部の池上氏に無理を言って後ろに乗せてもらう。座面が広く、両サイドにグリップが備わっているので、ライダーにしがみつかなくても安心して座っていられる。ただし座面の広さの割にクッションはやや薄め。乗り味はややソリッドな印象だった。

うん、これは楽しい。開放感はまんまバイクのそれだが、バイクのように“転倒”の二文字がチラつくこともないし、リバースギアまで付いている。ライディングテクニックに習熟しなくても気軽に乗りこなせる(もちろん習熟すればより安全かつ楽しい)。それでいながら普通免許で乗れる敷居の低さもある。

僕はオープンツーシーターも、バイクも大好きだ。BRPの狙い通り、SPYDERはそれらとはまったく別。乗用車に乗る感覚で、バイク並みのオープンモータリングが楽しめる。こんなのを待っていたという方、多いのではないだろうか。

(文/ブンタ)
【SPYDER F3-S】
ボディサイズ:L2642×W1497×H1099mm
車重:386kg
駆動方式:MR
エンジン:直列3気筒1330cc
トランスミッション:6速セミオートマチック(後退ギア付き)
最高出力:115馬力/7250回転
最大トルク:130Nm/5000回転
価格:232万2000円

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