以前、知人に「3シリーズってどうなの?」と聞かれた際、私はこう答えました。「フツーですね」。
「フツー?」…。これだけだと誤解されそうだったので、後から詳しく説明したのですが、実は“フツーのクルマ”って、あるようでいてなかなかないと思うのです。
例えば「アクセルを踏んだ分だけ加速する」、「ステアリングホイールを切った分だけ曲がる」、「ブレーキを踏んだだけ止まる」…。
物理の法則を超えて加速したり、曲がったり、止まったりできないのは当然として、3シリーズはそれら当たり前のことが、キッチリできるクルマなのです。
意外に多いんです。(パワフルに見せようと)アクセルを少し踏んだだけで意図した以上にグッと加速するよう、セッティングだけで印象の底上げを図っているクルマが…。少し強引ながら料理に例えると、化学調味料を大量に使い、美味しく感じさせているかのようなイメージ。
その点、パワートレインが一新された320dに乗って真っ先に感じたのが、偉大なる“フツー”っぷり。
少し太めのステアリングをスッと回し始めると、タイヤのトレッドパターンが路面へ接しているのを、まるで手のひらで感じられるようです。とってもダイレクト。反応を確かめながらの、自然なハンドリングが楽しい!
ちなみに、タイヤはパンクしてもしばらくは走れるよう、サイドウォールを硬くしたランフラットタイプ。このタイヤをいち早く標準装備品とし、長年採用し続けてきたBMW車らしく、他メーカーの車種のように、サスペンションのしなやかさとタイヤの硬さがチグハグで、安っぽく足下がバタつくこともありません。いなし方が上手。
中でも、秀逸なのはブレーキです。BMWは闇雲にブレーキキャリパーの多ポット化(ブレーキディスクをブレーキパッドで挟むためのピストン数を多くすること)といった、スペックをいたずらに追うのではなく、制動力の高さと同様、ブレーキのコントロール性を重視してきました。
ブレーキペダルを踏むと、踏む力に合わせて直線的にストッピングパワーが高まっていきます。圧巻は、その力を抜いた時。踏む力を緩めると、リニアにストッピングパワーが減っていくフィーリング。前後の重量バランスを50対50とするBMWらしく、ブレーキで荷重の変化を積極的にコントロールできるようになっています。見事ですね。
そういう意味で、新しくなったディーゼルエンジンも、いかにも3シリーズらしいというか、実にBMWらしいキャラクターです。
発進から非常にトルクフルでありながら、アクセルを踏むと、意図した以上に回転数やパワーが駆け上がっていくようなことはありません。足の裏の踏力の強弱で、ジワリと加速を支配下に置いておくことができます。
ただし率直にいえば、従来のディーゼルユニットもそうだったので、この点に関しては、さほど変化はありません。
新エンジンの進化を最も感じたのは、その静かさ。従来のそれは、例えば停止状態から発進する時など、パワフルな反面、エンジンサウンドがやや大きめ。速度が上がるにつれて収束していくイメージでした。
エンジンの下半身ともいえるクランクケースをアルミニウム合金製とした新ユニットは、従来のそれに比較して、最初から静か。加速しても静か。ディーゼルエンジンであることを意識させません。高速道路の巡行時は、エンジン回転ではなくトルクで走る印象も手伝い、ガソリンエンジンよりも静かに感じられたほど。
また、この新エンジンは、従来に比べて燃費も1割ほど良くなっており、カタログに記載される燃料消費率は、21.4km/L(JC08モード)。そんな経済性の良さも相まって、同じエンジンを積むステーションワゴン「320dツーリング」を中心に、これまで以上に人気が加速していくのではないでしょうか。
3シリーズは中核モデルだけあって、いかにも“BMWらしさ”でいっぱいです。化学調味料など使わなくても、素材の美味さで勝負できるのは、これまでと変わりません。
偉大なる“フツーのクルマ”、それが3シリーズだと思うのです。いい換えれば、それは“永遠のスタンダード”ということになるのかもしれません。
<SPECIFICATIONS>
☆320d セダン Mスポーツ
ボディサイズ:L4645×W1800×H1430mm
車重:1550kg
駆動方式:FR
エンジン:1995cc 直列4気筒 DOHC ディーゼル ターボ
トランスミッション:8速AT
最高出力:190馬力/4000回転
最大トルク:40.8kg-m/1750〜2500回転
価格:512万円
(文/ブンタ、写真/グラブ)
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