潮目が変わった…。そう感じたのは、ホンダからレーサーレプリカの「RC213V-S」が市販された時のこと。価格は消費税込みで2190万円。クルマに例えるなら、これ、F1マシンにウインカーを付けて「お待たせしました!」というような代物。レプリカとはいってますが、ほぼ“リアル”レーシングマシン。簡単に乗りこなせるものでもありませんが、市販されたというワクワク感は、ハンパありませんでした。
さかのぼれば2011年のこと。ホンダの開発を担う本田技術研究所の取締役常務執行役員が、以下のような発言をして話題になりました。
「基本的に、乗りにくいものを作ってもしょうがない。ハーレーダビッドソンやBMW、ドカティみたいに、他の人に見せる“盆栽のようなもの”を作るのは、ホンダには無理。だから、少なくとも実用面、乗ってどうのこうのという部分は絶対負けないようにしろ、と社内の皆にはいってます。見せてどうだとか、飾ってどうだとかっていう部分はあきらめても構わないから、走りに関してはきちんとやれ、と」
かなり反響があったので、バイクに興味のある方ならご記憶のことと思います。決してインポートバイクを揶揄するつもりはなかったでしょうし、「乗ってどうか」という部分で勝負するのもアリでしょう。ホンダ独自の新しい突き抜け方に期待したものです。
そして2012年。“ニューミッドコンセプトシリーズ”と銘打って、エンジン、フレーム、足まわりなどを共通化し、ジャンルの異なる兄弟バイク3車種を発売したのです。4輪の世界でも進んでいるモジュール化をバイクの世界でも豪快に決めてみせたわけ。結果、低燃費で扱いやすく、お値段も安い(コスト安い)モデルが誕生しました。
でもね、これには正直、お茶を吹き出しそうになりました。16歳でバイク乗り始めるずっと前から、憧れの存在だったホンダのバイク。そんな同社がやりたかったことって、これなのか? そもそも、大型バイクを実用性で選ぶライダーって誰なんだろう? いまや、50ccの「スーパーカブ」だって趣味で選ぶ人がたくさんいるというのに…。
大型バイクは必然性ではなく、エモーションで乗るもの。少々、燃費が悪かろうが、扱いにくかろうが、お値段が高かろうが、ハートビートが高まるモデルを選ぶものですよね。
そんな途方もないガッカリ感を完全に払拭してくれたのが、RC213V-Sだったわけです。買えませんし、売ってもらえませんし、乗りこなせません。でも、いいんです! バイクにはこれくらい夢がないと!!
そして個人的には、RC213V-S以上の衝撃的な事件が! ついに帰ってきたのです。ニッポンのヘリテイジ、アフリカツインが。
■デュアルクラッチトランスミッションで変速は一瞬!