トアルコ・ジャヤ社のもうひとつの事業が、自社で経営するパダマラン農場の開発です。東京ドーム約113個分(530ヘクタール)という広大な敷地に、約35万本のコーヒーの木が生育。トアルコ トラジャの全生産量のうちの20%がここで栽培されています。
18世紀は「セレベス(スラウェシ)の名品」と謳われ、盛んに栽培・生産されていたトラジャコーヒー。第二次世界大戦以前、インドネシアはオランダ領だったため、オランダ人がコーヒーづくりに適した山に住むトラジャ族にコーヒーを生産させていたのだとか。しかし大戦の混乱で市場から姿を消し、コーヒー産業は衰退。1970年に荒れ果てた農場を再生したのが、日本のキーコーヒーでした。
「最初の赴任者がトラジャに来たのが40年前。当時は農場へ行く道もなく、ゼロからのスタートだったと聞いています。以降、後継して日本からの赴任者が来ていますが、私もそのひとり。慣れない地での生活はたいへんさもありますが、日々カップテストを行っていくなかで、良い品質の豆を購入できた日には達成感があります」
2016年はコーヒーチェリーが赤く熟しはじめたのが6月半ば。それからの2カ月は収穫最盛期となり、パダマラン農場は繁忙期を迎えます。
「最も忙しい時期は500名以上の日雇い労働者を雇っています。コーヒーづくりには地域の方々の協力が欠かせません。トラジャの人々とともに地域一体型事業をモットーとしています。日本とは異なり、イスラム教徒はお祈りの時間をもつ、キリスト教徒は日曜日の朝に教会へ行くなど、現地の生活や文化を尊重することも大切だと考えています」
パダマラン農場では正社員・契約社員を含めて約100名の従業員がいるのだとか。コーヒーづくりは農場経営、集買事業を通じて、雇用創出とコーヒー栽培の発展というふたつの意味があり、この地域の経済復興に役立っているのです。
収穫したコーヒーチェリーは農場内の精選工場に移し、機械で脱肉し水洗いする。ここではコーヒーの水洗作業に、パダマラン山からの天然の湧き水を利用していました。水洗が不十分だと、その後の豆の品質に関わるため、丁寧に精選し、軽い豆や不純物を取り除くのだそうです。
水洗した豆は、その後、天日と機械でしっかりと乾燥。機械で大きさごとに選別した後は、ハンドピックによって欠点豆を徹底的に除去します。虫喰いやカビ、発酵した豆など味に影響する豆を徹底的に取り除くことで、雑味のない美味しいコーヒーになるのだとか。この後、厳しい基準のカップテストを最低4回クリアした豆だけが、出荷されていくそうで……。この徹底した管理には驚きです。
「インドネシアの山奥で収穫した高品質の豆を使って、日本人のクオリティで生産管理していることが、トアルコ トラジャが評価されている理由のひとつだと思います。以前、アメリカから視察がいらした際も、たいへん驚かれていました」
時間の感覚や、労働への姿勢、宗教(インドネシア全体ではイスラム教徒、トラジャはキリスト教徒が多い)など、インドネシア人と日本人では異なることが多いのが現状です。そんな状況でも、現地の人々と一丸となってコーヒーの品質向上に努めている姿が印象的でした。
トアルコ トラジャのコーヒー豆は日本でも購入が可能です。遠く離れたインドネシアの地でつくられた、吉原さんをはじめ日本人の努力の結晶とも言えるコーヒー。世界では、まだまだ日本人が活躍している場所があるんですね! ぜひ一度試してみてください。
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(取材・文/大野麻里)
おおのまり/エディター・ライター
美術大学卒業後、出版社勤務を経て2006年よりフリーランス。雑誌や書籍、広告、ウェブなどで企画・編集・執筆を手がけている。得意ジャンルは住まいやインテリアなどの暮らしまわり、旅行、デザイン関係など。シンプルで機能的なものが好き。働く主婦の目線で提案。