農具は当初、この家の持ち主の方が残していったサビだらけの鍬や鋤(スキ)を使わせてもらっていました。しかし、いかんせん柄の部分の木が痩せて割れてしまったりしていたので、このまま使い続けるの は難しそうな代物でした。柄の部分だけすげ替えることも考えましたが、ちゃんと自分で揃えるべきだな、と考え直し、麓の街に買い出しに行って手に入れたのがこのマルチ草刈り鍬でした。
それはホームセンターの農具コーナーに居並ぶ鍬然とした鍬とは異なる雰囲気を放っていました。
鉄製のヘッドと木製のハンドルで構成された一般的な鍬とは異なり、スコップのような薄いステンレス鋼のヘッドに同じくステンレスの基部を溶接し、アルミ製の楕円のハンドルを基部にボルト留めしたものでした。鉄製の鍬に比べて軽量で、重さは約800g。鉄製のヘッドに比べると約2/3以下の重さです。
鉄製の鍬は重たい分、少ない力で深く土に刺さり、効率的に耕すことができます。しっかりと耕すことを目的とするなら、ある程度重たい鍬の方が使いやすいと思います。
では、どんな時にマルチ草刈り鍬は役立つのか?
ずばり、草刈り! そして手軽な鍬。まさにマルチツール。
もちろん、普通の鍬でも草刈りはできると思いますが、いかんせん1.5キロ前後のものをブンブンと繰り返し振るのは疲れます。雑草を根から切って掻き出すだけであれば、軽く長い柄のものが便利です。
ホームセンターの農具コーナーを見ていて不思議に思ったのですが、柄の長さが1050mmのものが多いように思えました。身長175cmの私にとっては少し柄が短いと感じました。対して、このマルチ草刈り鍬は1200mmと長く、実に握りやすかったのです。
柄が短いと握りにくいし力も入り辛い…。どうして1050mmばかりなんだろうと考えると、農業に就労している方々を見渡せば、やはり高齢者が多く、身長は私よりも低い方が多いわけです。マスマーケットを考慮すると1050mmというサイズは理にかなったものなんですね。
ステルスチックな形状のヘッドには、この鍬ならではの特徴があります。
土寄せとは植えている野菜の株元に根っこが露出しないよう土を盛ること。土を寄せるだけでなく、押したり圧したりするのにも便利な形状。
鉄製の鍬がその重さで土に刺さるのに対して、この「マルチ草刈り鍬」は、薄い先端部がスコップのように土に刺さり、切っ先のフォークが根に絡んで掘り起こしやすくします。
雑草を掘り起こしてできた穴に土を戻して均すのも簡単。鍬を横に向けて掘り返した土を押して戻すだけ。一連の作業を姿勢を大きく変えることなくスムーズに行えるのがこのツールの良いところです。
畝立て(畝を作ること)をする時、周囲の土を盛りやすい。通常の鍬でもできますが、一度に盛れる土の量は確かに多いと思います。
伸びてから刈ったり抜いたりするのも良いですが、鍬の側面にあるギザギザの部分で削ると、効率的に雑草の新芽を削れます。地面を平らに均す際も役立つ部分です。
グリップエンドにはゴム製のスリーブが付いています。握り易く力が込めやすいですが、何度か力強く振っていると緩んできます。緩みが嫌な方は、一度外して接着剤などを内側に薄く塗布して再度装着することをおすすめします。
後ろ側の三叉スパイク状の部分は、壁際など際どい部分の雑草の根を切るのに便利。前側の角度では刺しにくい箇所を攻めるのに最適です。
ただし、鉄製の鍬に比べると軽すぎるので、土を耕すのには不向きですが、雑草取り用としては窓ホーよりは使えるんじゃないかな、と思いました。もちろん、使う場所の土の硬さにもよると思いますが、ステンレス製のヘッドは錆びにくく、丈夫なので気にすることなくガンガン雑草を取り除いていけます。
ヘッドと基部をつなぐ部分は溶接されているので、溶接部で折れてしまうと残念なことになります。木製の柄のようにリペアーし難いので、将来的な耐久性への不安を感じる人には避けられるかもしれません。
個人的には軽いことが非常に気に入りました。
広い範囲の草刈りでは、草刈り機をメインで使います。草刈り機を持ち出すまでもない程度や、作物の出来具合を確認するついでに雑草を取り除いたり、土寄せしたりする時は、この軽さと柄の長さが役立ちます。
これ一本で鍬の仕事をすることは難しいですが、日々の作業をこなす中で、確かにマルチな働きをしてくれますよ。
<取材・文/GOL>
GOL|現在、東京近郊の山村と都会で二拠点生活をしています。ライター業がメインですが、地方の魅力発信にも力を入れています。実地でのレビューがしやすい環境を活かしてアイテムを紹介していきます。
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