■車体やバッテリー、フロント部分が同一規格のレース
ここでは、2014年に始まって、20年からようやくFIA公認の世界選手権になった、若いレース、フォーミュラEの楽しみ方を紹介しましょう。
私が出かけたのは、2022−23年のシーズン9(22年10月にスタートでした)の第15戦。2023年7月29日にロンドンで開催されました。
シーズン9は、ジャガーTCSレーシングがめっぽう強くて、技術提供をしているエンビジョン・レーシングとの一騎打ちの様相でした。
マシンは、宇宙産業や航空産業で使った炭素素材をリサイクルして仕立てた車体やバッテリーやフロント部分(サスペンションや、回生用モーター)が同一規格。
一方、後輪を駆動するリアモーター、インバーター、ギアボックス、ディファレンシャルギア、ドライブシャフト、それにリアサスペンションはチームごとに手がけます。
ジャガーを見ると、その参戦は2016年からなので古株です。そのときすでに、ピュアEVの「I-PACE(アイペース)」の開発が進んでいたことになります。
2018年発売のI-PACEは日本でも販売中で、ジャガーがフォーミュラEで得た経験を注ぎ込んでの改良が継続中。さらに、2025年には超が付きそうな高級EVの発売も計画されています。
ここが面白いところ。ジャガーでは「レース・トゥ・ロード」(レースカーから市販車)へと表現します。一例を挙げると、航続距離。発表時より伸びたのは、レースの技術の恩恵だそうです。
■F1ドライバーやルマン24時間レース優勝者の顔ぶれも
話をレースに戻すと、ドライバーの顔ぶれも多彩です。トロロッソなどF1で走っていたセバスチャン・ブエミや、アウディでルマン24時間レース優勝経験もあるアンドレ・ロッテラーもいます。
ジャガーTCSレーシングのエースドライバー、ミッチ・エバンスも、ルマン24時間レースでアウディを操縦するなど、経験豊富なドライバー。
参加チームには、ジャガーのほかに、ポルシェ、マセラティ、マクラーレン、日産、DS(フランス)、NIO(中国)など、多くのメーカーが名を連ねています。ひいきのチームを見つけやすいかもしれません。
マシンは静かでも、レースはその逆ともいえます。私が観戦したときは、クラッシュの連続。狭い幅しかないコーナーでは譲りあいはなし。外側に並んだライバルをコースから押しだすなんてしょっちゅうでした。
押しだされたマシンは、コース外のスポンジバリアに激突です。あまりにアグレッシブすぎると、あるチームが抗議をしていたほどです。
なので、事故車などに注意のイエローフラッグはしょっちゅう。レース中断のレッドフラッグすら何度も振られる始末です。
そのときに、劇的に順位が入れ替わることもあります。でもエバンスは手がたい走りを見せ、第9ラップで手に入れたトップの座を最後まで守り、37周を走り切りました。
最後にバッテリー容量が少なくなったエバンスを、バッテリーに余裕ある競合チームのマシンが追い上げる場面がありました。
どうなる? と、地元チームを応援する英国の観客は手に汗を握ったことでしょう。ところがこのマシンは規定違反があったとされ、時間のペナルティを受けることに。
2023−24年のシーズン10の第7戦にあたる東京でのレースは、2024年3月30日開催です。
場所は公表されていないですが、都市内で、かつ市街地も使うというフォーミュラEの規定をクリアするために、有明などとも噂されています。
<文/小川フミオ>
オガワ・フミオ|自動車雑誌、グルメ誌、ライフスタイル誌の編集長を歴任。現在フリーランスのジャーナリストとして、自動車を中心にさまざまな分野の事柄について、幅広いメディアで執筆中
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