■旅のテーマは“新しいことに出会う”
“最古の温泉”が新しく生まれ変わるのだからと、旅のテーマも「新しいことに意識して出会う」に決めました。旅は知らないことの連続だから何を今さらなんですが、旅先の出会いを意識して考えることはこれまでありませんでした。
なので今回は、古い街で新しいこと・もの・人に触れ合い、考え方をブラッシュアップする、旅というよりもプチリトリート。心身のリラックスを図ってきました。
■道後温泉で出会った新しいもの1…ホテル
旅の舞台に選んだホテルは、2020年にオープンしたばかりの「道後hakuro」。歴史的な温泉地の中では新しく、ただ建設年が新しいというだけでなく、“温泉ホテルらしさ”の皮を脱しようという新しい思いが込められたホテルです。
コンセプトも“ホッとして、オッ!とくる、次世代型温泉ホテル”。
今回の旅にピッタリの施設といえます。
ちなみに階ごとにテーマが異なり内装はもちろん、外側から見るとカーテンの色が異なります。
新しいスタイルのホテルとはいえ、そこは日本有数の温泉地。内湯のほかに露天風呂もある大浴場には「日本最古の湯」である道後温泉のお湯をたたえています。
そして浴場の扉を開けた瞬間に目に飛び込んでくるのが大きな壁画。墨絵アーティスト・茂本ヒデキチ氏による大胆で迫力のある絵が「オッ!」とさせてくれます。
実は道後温泉はアートの街。2014年から芸術祭「道後オンセナート」が開催され、アートの街としても認知されはじめているのです。それゆえ、修復中の道後温泉本館を覆う素屋根テント膜にアートが描かれているのも必然といえます。
道後温泉には「道後温泉本館」「飛鳥乃湯泉」「椿の湯」と、3つの外湯があり、ここを巡るのも旅の目的のひとつ。
浴衣のまま外湯めぐりを行えるよう、タオルと石けんが入った湯かごも用意。道後温泉めぐりの拠点として、心地よいおもてなしを提供してくれています。
天井が高く、開放感のある大型のガラス扉が設えられているラウンジには、インダストリアルなアイテムや意匠がそこかしこに。緑にも囲まれ、まるで街中にあるおしゃれなカフェのよう。
PC用の電源や無料のWi-Fiを備え、ワーケーションの用途にもぴったり。最古(の温泉地)にして最新(設備を含め考え方)を肌で感じられます。
ロビー横にある、ラウンジと繋がっているウエイティングルームも、インダストリアルな雰囲気。自宅のリビングのような居心地の良い空間で、チェックインまでくつろいだり、出発前に待ち合わせしたりすることができます。
ラウンジの片隅にはレコードプレーヤーが備わり、好きなレコードをかけられるのも、これまでの“温泉ホテル”とはひと味違います。ジャズ、ロック、クラシック、ブルースのほか、最近人気の80〜90年代のジャパニーズポップも揃います。
温泉街をそぞろ歩きするのも楽しいですが、見知らぬ街で地ビールを飲みながら、レコードを嗜む。そんな旅時間があってもいいのかもしれません。
部屋にもレコードプレーヤーが装備され、ラウンジに置いてあるレコードは、スタッフに声をかければ部屋に持っていってもOK。
部屋に戻ってテレビを見るしかなかった時間が、ここでは旅の思いに耽る時間に変わるかもしれません。
住所:愛媛県松山市道後鷺谷町3-1
アクセス:JR「道後温泉」駅より徒歩5分
部屋数:86部屋
部屋タイプ:ダブル(約15m2)、ツイン(約19m2)、スーペリアツイン(22m2)、ユニバーサルデザイン(21m2)
※11月から発売中のANA「お一人様大歓迎!プラン」にも設定があります!
>>道後hakuro
■道後温泉で出会った新しいもの2…食
温泉地に限らず、地方に行くと楽しみなのが現地の食事。道後温泉のある愛媛県・松山市には、名物「鯛めし」がありますが、気になるのは初めましてのローカルな食です。
今回は、地元の人で賑わうカウンターだけの居酒屋「酒処はる」にお邪魔し、地元の食と出会いました。
シンプルながら感動したのが、鮮度が高く、本来の味をしっかりと感じられる野菜の数々。約40cmと長い松山長なすのフリットや、やわらかく辛みのない松山甘長ししとう焼き、これでもかと果汁が溢れてくる松山産のレモンを使った生搾りレモンサワーなど、思い出に残る味でした。
そんな野菜に後ろ髪を引かれつつ、新しい食にチャレンジ。愛媛県といえば、最近、ちょっと話題になったじゃこ天が有名ですが、初めて食べたのがじゃこカツ。
じゃこ天をフライにしたものかと思いきや、全然別物。じゃこのすり身にニンジンや玉ねぎ、ごぼうなどのみじん切りを加えて味付けし、揚げたもの。中がフカフカで外サクサクで、クセになる美味しさです。
お気に入りで、帰り際に空港でも頼んでしましました。
そして締めに食べたのが、松山ミートパスタ。
松山では有名だそうで、茹でた後に炒めたパスタに、ちょっと甘めのミートソースが絡みます。クセになる味で、メニューに加わっているのも納得です。
酒処はるは、カウンター7席と座敷を合わせて12席という、こぢんまりとした居心地のいい空間。店主・谷口靖吾さんは、旅行者にも地元の人同様に接してくれ、ダジャレが冴え渡っていました。
温泉旅館の品数豊富な夕食もいいものですが、1人旅ならフラッと入れる、店主との距離が近いお店の方が思い出に残るのかもしれません。
住所:愛媛県松山市道後湯之町14-27
営業時間:18:00〜24:00
定休日:月曜
>>酒処 はる
■道後温泉で出会った新しいもの3…体験
今回の旅の中でのまったく新しい体験が、宝厳寺(ほうごんじ)の捨莉紙(しゃりがみ)。
自己対話をし、なりたい自分をイメージした願いを「願い紙」に、心に浮かぶ“捨てたいこと”を「捨莉紙」に書きます。捨てたいことを書いた捨莉紙は、手水舎のザルに入れ、水にさらすと消えてなくなります。
宝厳寺は時宗(じしゅう※浄土教系の一宗)の開祖・一遍上人の生誕の地で、「捨聖(すてひじり)」と称される一遍上人の「捨てる思想」をコンセプトにした開運アイテム。道後のまちが主催する「道後温泉開運めぐりプロジェクト」の一環でできたそうですが、自己対話することは日常的にないため、貴重な体験となりました。
蓮の花をデザインした封筒に、願い紙、捨莉紙、お札、クリップペンシルのほか、解説書も同梱されているのでやり方に迷うことはありません。
プロジェクトで作られた開運アイテムとはいえ、モノや情報、しがらみが多すぎる現代において、自分を見つめ自己対話をするという行為自体が価値あるものに思えます。
年に1度までは行かずとも、数年に1度は行いたい体験でした。
“捨てたいこと”ことを記した捨莉紙をザルに入れ、「南無阿弥陀仏」と心の中で唱えながら水にさらすと紙そのものが物理的に消え去ります。
書かれた紙とともに心のモヤモヤも流れた気になりました。
住所:愛媛県松山市道後湯月町5-4
宝厳寺