■時速100kgまでの加速はポルシェ「911GTS」と同じ3.4秒
「アイオニック5」と「アイオニック5N」(以下5N)。違いはというと、車名だとたんに「N」の一文字。
アイオニック5は、ホイールベースが3000mmあり、室内も広い、リムジンのように使えるハッチバック型クロスオーバーです(つまり背が高めのハッチバック)。
ワンタッチで前席シートが電動で大きくリクライニングする機構や、電器器具への給電機能などもあり、リビングルーム的な使い勝手が斬新で、2022年に日本に導入されて以来、気になってきたモデルです。
5Nは、上記のようなコンフォート機能はちゃんと共有しています。が、もっとも大きな違いは、高性能にあります。
なにしろ、静止から時速100kmまでの加速にわずか3.4秒。ポルシェでいうと、2000万円越えの高性能「911GTS」と同じ数値です。
車名にある「N」は、WRCやTRC(ツーリングカーレース)といったFIA公認のモータースポーツ競技におけるヒョンデの活躍ぶりを知っている人には、先刻おなじみのもの。高性能車につけられるサブネームです。
ユニークなのは、たんに直線の速さを追求したモデルではないところ。5Nでヒョンデの開発者が狙ったのは、コーナリングの楽しさです。
開発で目指したのは3つのキャラクター、とヒョンデで開発を指揮したエグゼクティブテクノロジカルアドバイザーのアルベルト・ビアマン氏。「コーナーラスカル Corner Rascal」とカーブを曲がるときの敏捷性を表現します。
あとは、「レーストラック・ケイパビリティ」といってサーキットで速く走れることも重要、とビアマン氏。それでいて、3つめに重視したのは「エブリデイ・スポーツカー」、つまり毎日の通勤にも使えるほどのフレキシビリティを持たせることだったといいます。
サーキットで速く走れることと、通勤にも使えることって、矛盾しそうな概念ですが、それを可能にしているのが、デジタライゼーション。走行のための数々の電子デバイスのオンとオフを、車内のモニターで選んでいくことが可能です。
専用装備は豊富です。ざっと挙げても下記のよう。「Nバッテリー・プリコンディショニング」「Nレース」「Nペダル」「Nブレーキ・リジェン(エネルギー再生)」「Nドリフト・オプティマイザー」「Nトルクディストリビューション」「Nローンチコントロール」「Nグリンブースト」「Nアクティブサウンド+N eシフト」「Nロードセンス&トラックSOC」。
■EVなのに変速機を介したような段付き加減速感と驚きのコーナリング性能
私が操縦して感心したのは、EVでなく、ガソリン車のようなフィーリングです。加速と減速ともに、変速機を介したような、段付きの加減速感が演出されています。
聞くところによると、ヒョンデのガソリンエンジンの「N」モデルのフィーリングを模したのだとか。
エンジン回転をがーっと上げていって、トルクが飽和したところで、ぽんっとギアを上げる…そんな気持ち良さがEVで味わえるなんて驚きです。
コーナリングマシンであることを意識したのは、中低速コーナーは回生ブレーキを使ってアクセルペダルに載せた足の力だけで回っていけてしまうことと。
また、コーナーで荷重がかかりにくい内側の車輪が浮いたときに外側への力の伝達がなくなることを防止するリミテッドスリップデフも装着しています。通常、ブレーキ制御のトルクベクタリングを使うところ、機械のフィーリングにこだわっています。
いっぽうで、サーキットの性能をめいっぱい発揮できるようにバッテリー温度を管理したり、速度を選ぶのか周回を選ぶのか、ドライバーがバッテリー消費の設定を選べるようになっているなど、電子制御技術もしっかり使っています。
5Nは中途半端なスポーツカーでなく、コーナリングが楽しめるようにと、目的がはっきりしているのが美点です。一般の人もドリフト走行がやりやすいよう設定したとされる「Nドリフト・オプティマイザー」まであるぐらいですから。
日本への導入は24年1月とされています。価格は未定ですが「買いやすいのでは」とビアマン氏。韓国本国では税込みで800万円程度なので、スプリント(ダッシュ力)ではとにかく同等のポルシェ911GTSの3分の1近い価格ってことになります。
IONIQ 5 Nに乗ると、EVってここまでできるのかあと感心するのではないでしょうか。ヒョンデの実力ぶりに、感銘を受けたサーキット試乗でした。
【Specifications】
Hyundai Ioniq 5 N
全長×全幅×全高:4715×1940×1585mm
ホイールベース:3000mm
車重:2310kg
動力:電気モーター2基
駆動:全輪駆動
最高出力:478kW
最大トルク:740Nm
駆動用バッテリー:リチウムイオン 84kWh
一充電走行距離:450km(WLTP)
0-100kph加速:3.4秒
<文/小川フミオ>
オガワ・フミオ|自動車雑誌、グルメ誌、ライフスタイル誌の編集長を歴任。現在フリーランスのジャーナリストとして、自動車を中心にさまざまな分野の事柄について、幅広いメディアで執筆中
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