■ロータリーエンジンの復活
2012年にRX-8の生産終了とともに、マツダのラインナップから消えてしまったロータリーエンジンですが、2023年1月に欧州で発表された「MX-30ロータリーEV」でみごと復活。
といっても使い方は“現代的”です。コンパクトで高出力というロータリーエンジンの長所を活かし、なんと、EVの駆動用バッテリーの充電のために使っているのです。それが、ハイブリッドのMX-30ロータリーEVなのです。
MX-30ロータリーEVでは、モーターやジェネレーターと同軸に、「8C」とよばれるシングルローターのエンジンを配置。前輪を駆動します。エンジンルームを開けると、コンパクトさに驚くほどです。
自動車業界の大きな流れがバッテリー駆動のEV(BEV)に向かうなかで、あえてわざわざコストをかけてロータリーエンジンを設計したのは、どうしたわけでしょう。
マツダの開発責任者に尋ねると、今はまだBEVといっても充電などのインフラが整備できない地域もあることを勘案して、段階的に電動化を進めることにしているそうです。その計画の中でハイブリッドシステムとロータリーエンジンの相性の良さに注目したのが今回のモデル、と答えてくれました。
MX-30にも、BEVモデルが存在します。一充電走行距離は256km(WLTC)。市街地でなら、1週間ぐらいは充電なしでも使えます。しかし、東京から箱根とか、遠出を考えると往復も難しくなるのは事実。
そこでエンジンが電力を供給してくれるMX-30ロータリーEVは、長距離も使いたいという人に、ぴったりのコンセプトといえます。さらに遠くに行きたいときは、エンジンが頼りになります。
■予想以上に静かなエンジン音とモーター由来のスムーズな加速
かつてロータリーエンジンは音が大きいなんて言われたこともありました。MX-30ロータリーEVのロータリーエンジンは、バッテリーにチャージするために始動しても、かなり静かです。
時速120kmぐらいになると、エンジンが始動して常に電力を供給するようになりますが、そのときも、予想以上に静かです。クルマ(MX-30)のキャラクターに合わせて、品のいい音を作りこんだ、とはエンジン技術者の弁です。
駆動は、モーターのみですから、加速はとてもスムーズ。静かにどんどん速度が上がっていきます。暴力的な加速はなく、ファミリーカーとして使うのもまったく問題がないでしょう。
しかも、V2Lといって外部への給電機構も備わっています。1500ワットの給電機能があるので、市街地から離れた場所でのデイキャンプとかも楽しめそうです。
MX-30はSUVといってもデザインは異色です。ルーフの前後長を切り詰めてキャビンをややコンパクトにしつつ、クーペライクといわえるぐらいリアウインドウを寝かせています。
スポーティな雰囲気をさらに盛り上げるのは、フリースタイルドアという、後ろヒンジの小型ドアの採用。ドアが目立たなくて2ドアっぽいスタイルが実現しています。前席用ドアを開けないと、フリースタイルドアを開けないので、子どもを乗せるのにも安心できそう。
■BEV展開までのつなぎとしてのハイブリット
BEVが普及するには、充電インフラの拡充が条件です。それがなかなか進まない地域は、欧米にもアジアにもたくさんあります。あの中国だって、地方に行けば充電器を見つけるのは難しくなるようです。
マツダではそこで、現時点では、MX-30ロータリーEVのように、燃費もかせぎつつ(リッター15.4km)旧来のインフラ(ふつうの給油ステーション)を使えるハイブリッドモデルでつなぎ、2030年ごろにはBEVを展開したい考えといいます。
その途中で、2023年に東京で開かれたジャパン・モビリティショーでお披露目されたコンセプト「アイコニックSP」のように、ロータリーハイブリッドのスポーツカーも登場するかもしれません。それも楽しみではないですか。
【Specifications】
Mazda MX-30 Rotary EV
全長×全幅×全高:4395×1795×1595mm
ホイールベース:2655mm
車重:1780kg
エンジン+動力:830ccロータリーエンジン+電気モーター(プラグインハイブリッド)
駆動:前輪駆動
最高出力:53kW(エンジン)+125kW(モーター)
最大トルク:112Nm(エンジン)+260Nm(モーター)
バッテリー容量:17.8kWh
燃費:15.4km@リッター(WLTC)
一充電走行距離:107km
価格:425万3000円~
>> マツダ MX-30
<文/小川フミオ>
オガワ・フミオ|自動車雑誌、グルメ誌、ライフスタイル誌の編集長を歴任。現在フリーランスのジャーナリストとして、自動車を中心にさまざまな分野の事柄について、幅広いメディアで執筆中
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