■セダンの良さを再認識できる乗降アクセスと快適性
今回で16代目になるクラウン。2022年に4姉妹でのラインナップ展開(4番目はエステートです)が発表された際、「クロスオーバー」がトップバッターだったこともあり、“あれ? セダンも出すんだ?”という声がありました。
スタイリングこそ先述のとおりファストバックスタイルが強調され(従来のクラウンもだんだんファストバックスタイルに近づいてはいましたが)新しい世代であることを印象づけていますが、セダンにはセダンのよさがあるのは事実です。
ひとつは、着座位置がSUVより低く、スポーツカーよりは高いので、乗り降りがしやすいこと。とくに年配の乗員には、セダンがもっともアクセスしやすいのです。
もうひとつは、静粛性をはじめとする快適性。セダンは基本的に3つの箱とも呼ばれ、乗員が乗るキャビンが荷室と隔壁で隔てられています。そのため、自動車メーカーがいつも手を焼くリアからの音の侵入が抑えられます。
サスペンションシステムの設計にしても、SUVだとフロアが高めになりますから、サスペンションアームやコイル/ダンパーに設計上の無理がかかりがちです。動きの自由度が少なくなり、乗り心地からしなやかさが失われます。
クラウンセダンに話を戻すと、今回のクラウンファミリーの中で唯一、後輪駆動用のプラットフォームを使っています(あとの3モデルは前輪駆動をベースに後輪を電気モーターで駆動するプラットフォーム)。
ドライブトレインは、2.5リッターエンジンを使ったハイブリッドHEVか、「MIRAI」と共用の、水素と酸素を化学反応させて電気モーターを駆動する燃料電池FCEV。
■モーター駆動の良さが生きるFCEVの静粛性と加速感
ドライブしての印象は、期待にそぐわず、上品というか、静かで質感の高さのようなものを感じさせました。同じHEVシステム搭載の他モデルと比較しても、クラウンセダンはエンジン音を小さく抑え、がさつさはみじんも感じさせないほど。
もちろん、FCEVでは、モーター駆動の利点で、ウルトラスムーズな加速感。2トンの車重はまったく意識させません。すなおなハンドリングのおかげもあるでしょう。軽快感すらあります。かつてMIRAIで体験したような水素を送り出すシステムの甲高い駆動音も聞こえません。
さらに感心するのは乗り心地。高速道路などではややソフトで、ふわりふわりと路面の凹凸を吸収するとともに、乗員は不快な揺れを経験しません。
それだけではなく、車道から駐車場に入ろうというときの歩道の間の段差越えなどでは驚愕です。猫がふわりと動くように、いっさいの揺れなしで、段差を越えてしまいます。
トヨタの開発者は「足まわりが少しやわらかすぎて、コーナリングがやや不安という声がありますが」と言っていましたが、私としては、ぜんぜん問題ないと感じました。こんな乗り味のクルマがいま出来るなんて、と深く感心してしまいます。
HEVとFCEV、価格差もあるし(730万円と830万円)、後席の居住性も、床が低いHEVの方がよりよいのですが、ドライバーズシートでの印象は、FCEVの方がさらに良好です。
モーターの出力制御がうまいせいもあるでしょう。サスペンションシステム設定がうまいせいもあるでしょう。車重はHEVのほうが50kgほど重いのですが、水素タンクの配置の仕方とか巧妙なのでしょうか、しっとりして、これも大きな魅力です。
内装とか(メルセデス・ベンツ並みにとは言いませんが)もうすこし気持ちが浮き立つような、いい意味での派手さがあって、プライベートで乗っていても楽しく、セダンもいいよな、と思わせてくれるデザインが盛り込まれると、さらに言うことはありません。
2023年の大きな収穫。それがクラウンセダンなのでした。ドイツ車にも多いセダン。その良さが分かっている人も、まだセダン経験がないという人も、一度試してみてほしいものです。
>> トヨタ「クラウン」
<文/小川フミオ>
オガワ・フミオ|自動車雑誌、グルメ誌、ライフスタイル誌の編集長を歴任。現在フリーランスのジャーナリストとして、自動車を中心にさまざまな分野の事柄について、幅広いメディアで執筆中
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