■フォーミュラーEの面白さとは
レース展開は、もうご存知のかたもいるでしょうが、序盤からマセラティのギュンターと、日産のローランドの一騎打ちの様相でした。本来、フォーミュラEではけっこう順位が入れ替わるのですが、東京ビッグサイト周辺の特設コースは幅が狭めで、追い抜くのもひと苦労。
スタート時にポールポジションだったローランドと、3位でスタートしたギュンターが35周のレースを通して、激しいつば競り合いを見せてくれました。
「フォーミュラEってホントに面白いの?」って思う人もいるようですが、エンジン車よりはるかにするどい加速力を持つだけに、ちょっと異次元のレースを観ている気分になります。ドライバーの動態視力はすごいんだなと、感心しました。
フォーミュラEのもうひとつの面白さは、年間16戦のうち、そのシーズンの勝者がなかなか見えにくいところです。F1だとやたら速いマシンとか、うまいドライバーがいると(往年のシューマッハや、最近のフェルスタッペン)序盤からシーズンの勝者が決まってしまうようなところがあります。フォーミュラEではそこも違って、レースを追っていく楽しみが設けられています。
どういうことかというと、マシンのイコールコンディションがかなり徹底しているからです。シャシー、ボディ、フロントサスペンション、回生用のフロントモーター、フロントブレーキ、バッテリーといったものは共用です。
そのため差が出にくくなっています。各チームにまかされているのは、インバーター、モーター、コンピュータのソフトウェアの制御、ギアボックス、リアサスペンションといったものです。それが、微妙な差を生み、抜きつ抜かれつのレース展開を生み出します。
実際、東京まで5戦が終わった段階で、2回続けて1位をとったチームはありません。ドライバーも同様です。東京でいうと、マセラティMSGレーシングの勝利は、多くの人の予想を裏切りました。が、マセラティコルセの責任者であるジョバンニ・トンマーゾ・スグロ氏は、(成績こそぱっとしませんでしたが)第4戦のサンパウロが終わった時点で、「マシンの調子がいい。東京は期待していてほしい」と関係者に語っていたそうです。
私が今回、近くでいっしょにレースを観ていたのはジャガーTCSレーシング。第4戦のサンパウロEP(グランプリならぬイープリという)までドライバー選手権ポイント1位のニック・キャシディと、3位のミッチ・エバンスという戦闘力のすばぬけて高いドライバーも抱えています。
東京でも、ふたり、準々決勝と準決勝、いいタイムを出しました。ところが、規則違反と、他車の走行妨害というペナルティをとられて、スタート順位がうんと下がってしまいました。それでもキャシディは8位に入賞。エバンスはちょっと残念な15位でした。
結果、ジャガーはチームランキングで1位をキープ。ドライバーのランキングでは、エバンスが、ポルシェのパスカル・ウェーレインに次いで2ポイント差と僅差の2位です。
■近い将来の量産EVと関係が深い「レース・トゥ・ロード」
もうひとつ、フォーミュラEが興味深いのは、近い将来の量産EVと関連づけている自動車メーカーが少なくないことです。代表的なのがジャガーです。フォーミュラEにおいて今シーズン、チームの獲得ポイント最多のジャガーTCSレーシングのプリンシバル(責任者)のジェイムズ・バークリー氏は、ジャガーの新世代EVの開発にもかかわっています。
「フォーミュラEのマシンのインバーターに採用したWolfspeedのシリコンカーバイド半導体がいい例です」と、バークリー氏は、レースの合間のインタビューで答えてくれました。電力の損失を抑えられるため航続距離が伸びるなど、このあとジャガー(とランドローバーとレンジローバー)の量産車にも搭載していく予定だそうです。
ジャガーはこのようなレースと量産車の関係が深いことを「レース・トゥ・ロード」あるいは「ロード・トゥ・レース」と表現します。「世界最高かつ最も競争力のある白熱したレースを展開しながら、電気自動車のテクノロジーの限界を継続的に引き上げたいという熱い思いを持っています」とは。前出のバークリー氏の言葉です。
2025年に発表が予定されているジャガーの新EVは、「いままで見たこともないような斬新なスタイルで、狙う市場もいままでよりずっと上」と、ジャガー・トランスフォーメーション・ディレクターのサミュエル・ゴールドスミス氏は言います。
今回のフォーミュラEで、マセラティをどうしても抜き去ることが出来なかった日産。理由として、効率とエネルギー密度がいまひとつ追いつけなかった、と言われています。これを上げていくことが、日産のEVの性能アップにもつながっていくはず。
フォーミュラEマシンにおいて、いまは統一規格が義務づけられている駆動用バッテリーも同様。自由化されたら、さらに量産車の性能向上に寄与するかもしれません。こんなふうに未来のEVとの関係を探ってみるのも、フォーミュラEのおもしろさでしょう。
<文/小川フミオ>
オガワ・フミオ|自動車雑誌、グルメ誌、ライフスタイル誌の編集長を歴任。現在フリーランスのジャーナリストとして、自動車を中心にさまざまな分野の事柄について、幅広いメディアで執筆中
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