スポーツカーはエンジンこそ命。昨今の電動化のトレンドのなか、多気筒エンジンの未来に不安を感じているクルマ好きは、多いかもしれません。もちろん、ハイブリッドだってモーターだって、楽しいクルマは作れます。でも、そこで12気筒へのこだわりを見せてくれるのがフェラーリです。
2024年5月3日に、フェラーリは12気筒エンジン搭載の新型車「12Cilindri(ドーディチ・チリンドリ)」を発表しました。6.5リッターの12気筒をフロントに搭載して後輪を駆動する2人乗りで、ボディタイプはクーペとスパイダー。珍しく同時発表です。
■“形態は機能に従う”を実践しつつ、デザインと機能を高い次元で融合
「1960年代のGTの再来のイメージです」。一般公開に先立って、4月にイタリアのフェラーリ本社で行われたメディア向け発表会の席上で、マーケティング担当重役のエンリコ・ガリエラ氏は、そう説明しました。
なるほどです。とくにノーズ部分。もちろんフェンダー一体型ボンネットなど、現代的な造型ですが、1968年に発表された「356GTB/4」通称「デイトナ」が思い起こされます。一方でクーペのリアは、台形型のウインドウがはめこまれていて、これは新しい意匠です。
デザインを統括するフラビオ・マンツォーニ氏の解説によると、「デルタ翼のイメージ」となります。デルタ翼機って、ミラージュⅢとかサーブ35ドラケンとか、60年代から70年代にかけての航空機を思い出します。
12チリンドリ・ベルリネッタ(クーペ)でユニークなのは、このウインドウのデザインを損なわないよう、リアスポイラーが2分割になっているところ(ウインドウ脇の黒い部分)。ウインドウの左右に取り付けられ、電動で同時に動きます。
「フェラーリでは、つねにフォーム・フォロウズ・ファンクション、形態は機能に従う、が最優先事項ですが、エンジニアとデザイナーは協力して最善のものを作り上げるべく努力をしています。スポイラーは一例です」
エンジニアリングのトップ、ジャンマリア・フルゼンツィ氏の言葉です。面白いのは、デザイナーの言い分。
往年のGTの好ましいイメージを採り入れたり、デルタ翼型リアウインドウを採用したり、前後のフェンダーを大きく力強くふくらませたりというデザインで存在感を強調しているそうです。先代ともいえる812スーパーファストよりコーナリング性能などを重視してホイールベースを20mm短縮するなど、ちょっとコンパクトになったため、とマンツォーニ氏。
ホイールベースを短くするとともに、4WS、後輪操舵機構が採用されました。しかもサーキット志向の812コンペティツィオーネと同様、左右輪が別べつの角度で動きます。それにより「812スーパーファストより50mmホイールベースが短くなったのと同じ効果が出てコーナリング速度がより速くなります」とフルゼンツィ氏は言います。
■環境と性能を両立させる12気筒エンジン
もちろん、グラントゥーリズモなので、快適性も重要とのこと。後輪操舵機構は、ホイールベースが長くなるのと同じ働きをするため、高速道路での安定性も増すそうです。室内はレーシー(レーシングカー的)な要素と、ぜいたくさがうまくミックス。フェラーリの真骨頂です。
「フェラーリは、これからもすべてのパワートレインの開発に投資していきます」と言うのはマーケティング担当のガリエラ氏。「6気筒ターボエンジン、プラグインハイブリッド、バッテリー駆動のモーター、そして12気筒が含まれています。今回の12気筒も、欧州の規制をクリアしていて、環境と性能を両立させるのに成功しています」。
それがフェラーリの誇りであり、「ゆえにあえて12気筒という車名を選んだ理由でもあります」(ガリエラ氏)とのこと。価格は、クーペが39万5000ユーロ(VAT税込み・1ユーロ=約168円で約6600万円)、スパイダーが43万5000ユーロ(同約7325万円)。クーペは2024年第4四半期から、スパイダーは25年第1四半期から、欧州で販売が始まります。
【Specifications】
Ferrari 12Cilindri Coupe
全長×全幅×全高:4733×2176×1292mm
ホイールベース:2700mm
エンジン:6496cc V型12気筒(65度)フロントミドシップ
駆動:後輪駆動
最高出力:610kW@9250rpm
最大トルク:678Nm@7250rpm
変速機:8段ツインクラッチ
0-100kph加速:2.9秒
価格:39万5000ユーロ(イタリア)
>> フェラーリ「12Cilindri」「12Cilindri Spider」
<文/小川フミオ、写真提供/Ferrari SpA>
オガワ・フミオ|自動車雑誌、グルメ誌、ライフスタイル誌の編集長を歴任。現在フリーランスのジャーナリストとして、自動車を中心にさまざまな分野の事柄について、幅広いメディアで執筆中
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