新型になって大きく変わったのはフレームです。スチールパイプを組み合わせたフレームであることは同じですが、「チューブラーブリッジスチールスペースフレーム」という長い名前の新開発のものに。従来は前後分割式だったものを一体設計とすることで重量を軽減。よりレトロな雰囲気の外観にも貢献しています。
存在感のあるガソリンタンクは前後長が30mm短くなり、後ろ側が絞り込まれてニーグリップがしやすくなっているとのこと。またがってみても、車体がコンパクトになっているように感じられ、足付き性も向上しています。
足回りは径45mmの倒立フロントフォークに、リアはプロアームのモノショック。ホイールは前後とも17インチで、試乗車にはスポークホイールが装備されていました。BMWのバイクには、独自のサスペンションシステムが採用されているモデルもありましたが、このマシンは一般的なテレスコピックタイプのフロントフォークで、違和感なく乗れそうです。
■ボクサーエンジンの魅力を存分に味わえる
BMWが“ボクサー”と呼ぶ水平対向エンジンの特徴は、個性的な外観だけではありません。一般的にバイクのエンジンはクランクが縦方向(タイヤと同じ方向)に回転しますが、このエンジンは横方向に回転します。そのため、停止状態でアクセルをあおると車体が右側にグッとバンクしようとするのが感じられるほど。初めて乗ると、この感覚にはかなり驚かされます。
もちろん、走り出せばアクセルを開けても車体が勝手にバンクしてしまうようなことはないのですが、このクランクの回転方向が運動性能にも大きく影響しているのが面白いところ。
具体的には、左右に車体を傾ける動きが車重からは考えられないほど軽快なのです。縦方向に回転する物体は回転慣性が働くので、左右に傾ける動きが重くなります。クランクは高速で回転しているため、その慣性力も大きくなるのですが、水平対向エンジンは回転方向が異なるのでバンクさせる動きの抵抗にならないのです。
この軽快さが最大の魅力だと個人的には感じますが、もちろんそれだけではありません。今では珍しくなってきた大排気量の空冷エンジンは2気筒らしい鼓動感もあり、のんびり流して走るだけでも気持ちいい。ジェントルだけど歯切れの良さもある排気音も、ガンガン回して飛ばすのに飽きてきた中年ライダーには心地良いものです。
新しくなったリアサス周りの構造もあって、安定感も抜群。よく「BMWのバイクは疲れない」と言われますが、アドベンチャーマシンだけでなくこのモデルでもそれが感じられます。鼓動感はあるのに不快な振動はほとんど伝わってくることがなく、路面のギャップも絶妙にいなしてくれるので、長い距離を走れば走るほど、その恩恵を感じられそう。
レトロな雰囲気のマシンですが、実は電子制御も充実していて、走行モードの切り替えやトラクションコントロールなども装備。このマシンはコンパクトなデジタルメーターを採用していて(セカンドロッドからは2眼のアナログメーターも選べるそう)、スマートフォンとの接続にも対応。左手側のグリップ部分にあるダイヤルを回して操作もできます。
バリエーションモデルとしてホイール径がフロント19インチ、リア16インチとなる「R 12」もラインナップ。シート高がさらに低くなり、クルーザー的なハンドリングなのでツーリングメインでボクサーのフィーリングを味わいたい人は、こちらを選ぶという手もあります。価格が200万円を切るのも「R 12」のメリットでしょう。
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年齢を重ねてから改めて乗ってみると、味わい深い魅力を感じることができたBMW「R 12 nineT」。のんびり走るバイクかと思っていると、蹴り出されるような強烈なダッシュ力も持ち合わせていて、軽快なハンドリングとともに“走り”を重視するライダーでも満足できる運動性能です。スペックにとらわれていた若い頃の自分の不明を恥じるとともに、こういうマシンの魅力がわかるようになるというのは年をとるのも悪くないのかもしれないと思うことができました。
☆SPEC
サイズ:2140×870×1070mm(ミラー含む)
車両重量:222kg
シート高:795mm
エンジン:1169cc空油冷水平対向2気筒
最高出力:109PS/7000rpm
最大トルク:115Nm/6500rpm
価格:253万5000円〜
<取材・文/増谷茂樹>
増谷茂樹|編集プロダクションやモノ系雑誌の編集部などを経て、フリーランスのライターに。クルマ、バイク、自転車など、タイヤの付いている乗り物が好物。専門的な情報をできるだけ分かりやすく書くことを信条に、さまざまな雑誌やWebメディアに寄稿している。
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