“911”への情熱が結実! もとロックミュージシャンが手掛けるポルシェ911レストア「シンガービークルデザイン」

■趣味のレストアがビジネスのきっかけに

シンガービークルデザイン(以下・シンガー)は2009年創業。特徴は、生産台数を大きくしぼっていること。24年になってようやく通算300台めの911が完成したほどです。ブランドが陳腐化しないように意図的にオーダーを制限しているのだといいます。

もうひとつの特徴は高価であること。価格だけでいうと、シンガーがレストアした911は、フェラーリよりはるかに高額。モデルによりますが、10倍以上というケースもあるほどです。

「自分がポルシェ911に惹かれたきっかけは、少年時代に家族で出かけた南仏での旅でした」。シンガービークルデザイン(以下・シンガー)の創業者兼エグゼクティブチェアマンである英国のフォーク出身のロブ・ディキンスン氏は、東京・渋谷の発表会会場でそう語ります。

▲ロブ・ディキンスン氏(右)と、CEOのマゼン・ファワズ氏

「私たちは父の運転するフォルクスワーゲン・ビートルだったんですが、オートルート(高速道路)で911が走ってきて追い抜いていったんです。そのときのカッコよかったこと。以来、私は911にとりつかれて、学校でも自動車デザインを勉強して、自動車の世界へと進むことを夢見るようになりました」

いっぽうで、ロックミュージシャンも、選択肢の一つだったといいます。シンガー・ソングライターであり、キャサリンホイールというバンド名義でアルバムを発表しています。アイアンメイデンのフロントマン、ブルース・ディキンスンとは父方のいとこの関係です。

「音楽をやっているときも、空冷911のレストアを趣味として続けていました。あるとき、私の手がけた911を見て、自分のクルマも同じようにレストアしてくれないかと言ってきたんです。そのあと、似たような案件がいくつか飛び込んできて、それが15件になったとき、これはひょっとして、と考えるようになりました」

ディキンスン氏は、ビジネスのきっかけを語ってくれました。

▲ディキンスン氏

 

■964型エンジンにこだわるわけ

最初に一般へのお披露目が行われたのは09年夏に米国・西海岸で開催されたモンタレーカーウィーク。ポルシェ911リイマジンド・バイ・シンガーと名付けられたモデルです。リイマジンドとはディキンスン氏が好んで使う言葉で、自分の思いを込めて仕上げた911、といった意味のようです。

たとえば、東京のトランクホテルに持ち込まれた1台は「DLSターボ」。ダイナミクス&ライトウェイティング・スタディと名づけられたモデルで、F1で知られるウイリアムズビークルデザインの協力も得ているシンガーだけに、エンジンのヘッドを4バルブ化するとともにターボチャージャーを大型化。サスペンションシステムは大きく変更されています。

炭素樹脂で作られたボディもDLSターボの特徴。オリジナルのボディに外皮をもう1枚被せたようなデザインは、1970年代なかばにレースで大活躍した911ベースのレースカー「934」と「935」の再解釈なんだそうです。ボディは、2つ用意されていて、ストリート用と、さらにスポイラーが大きくなったレース用を、付け替えることが可能なのだとか。

「964型にこだわるのは、バランスがとてもよく出来たモデルだからです」とはディキンスン氏の説明。でも、空冷エンジンのポルシェといえば、901型、930型、993型と、ほかにもいろいろ。「燃料噴射にもこだわります(気化器のエンジンは扱わない)」とディキンスン氏は言いますが、ということは、このさき、964型以外のベースが出てくるかもしれません。

ディキンスン氏が強調するのは「シンガーはメーカーではないので、シンガー・ポルシェとは呼んでいただきたくない」ということ。ポルシェ本社とのビジネス関係はまったくないと語ります。

 

■日本語サイトもあります

シンガービークルデザインにレストアとリアマジネーションを依頼したいばあいは、ベースになるドナーカーを渡します。先方の係に、自分が望むかたちを伝え、シンガーはそれに応じて、エンジンやサスペンションシステムのほか、内外装も仕上げてくれます。

日本語のサイトも開設されているので、興味あるひとはそこからコンタクトしてほしいとのこと。同時に日本でのパートナーになったコーンズモーターズが、シッピングや日本でのメインテナンスの面倒をみてくれるそうです。ドナーカー探しも手伝ってくれるそうです。

5月にもちこまれた2台は、930型のターボを意識した「ターボスタディ」(110万ドル)と、先に触れた「DLSターボ」(270万ドル)。高価です。でもなにより、オーダーできるか、というのが先決すべき問題です。911への熱い思いが結実したビジネスが、こんなふうに世界中のクルマ好きの注目を集めるまでになっているというのは、なんともすごいことであります。

>> シンガー ビークル デザイン

<文/小川フミオ>

オガワ・フミオ|自動車雑誌、グルメ誌、ライフスタイル誌の編集長を歴任。現在フリーランスのジャーナリストとして、自動車を中心にさまざまな分野の事柄について、幅広いメディアで執筆中

 

 

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