ポラロイドの話に戻ります。このほど登場した「Polaroid I-2」というカメラは、最新のレンズ製造技術とカメラ技術を組み合わせて、昔ながらの味わいあるインスタント写真の世界に没入できる本格派のモデルです。日本ではクラウドファンディング経由で税込9万8075円(カラーフィルム2パック付き)、一般発売時は税込13万9800円になるようです。フィルムは1パック8枚入りで税込3490円からと、なかなかにプレミアムな体験です。
正面から見た姿は、どこか懐かしいポラロイドカメラの面影があります。赤いボタンでシャッターを切ります。そして背面を見ると、縦長の表示画面があり、パワーボタンの長押しで起動します。全体的にデザインがスマートで、ポラロイドカメラのアイコニックな姿と、現代的な操作インターフェースが融合しています。心地よい操作感を持つ金属製のダイヤルは、単純なカメラ操作を上質な体験として演出しようという狙いが感じられます。
さて撮影ですが、これは必ずしも優雅なお楽しみではありません。思った通りの構図で、ピントが合っていて、適切な明るさで、手ブレもなく…スマホのカメラであれば意識すらしないようなことが、このカメラではとても重要です。
ピント合わせはオートです。LiDAR測距という、照射したレーザー光が被写体に当たって戻ってくるまでの時間を測って距離を算出する方式です。被写体に光を当てるので、途中にガラス面があったりすると距離測定が思い通りにいかないケースもあるでしょう。ファインダーを覗いてもピントの合い具合は見えませんが、左下に撮影距離(ピントを合わせているものまでの距離)が表示されるので、目で見た被写体までの距離とだいたい一緒であれば、大ハズシは回避できます。
自動モードで撮影する場合、カメラ前面の赤いシャッターボタンを半押しすると、ピント合わせと露出設定が行われます。まずは、撮りたい被写体を真ん中に置いてみるといいでしょう。慣れたら“AFロック”というワザを使って、シャッターボタン半押しで狙った被写体にピントを合わせつつ、ピントが合ったら指を離さずカメラを動かして被写体の置く位置を調節し(カメラを前後に移動するとピンボケするので注意)、それからシャッターボタンを全押しします。被写体を真ん中に置いた“日の丸構図”だけではツマラナイと思った場合に試してみてください。
こうして数日間、I-2を連れて出かけましたが、私は1日に3枚ぐらいを撮るのがいいところでした。先に述べたピント、ブレ、そもそも写真的に面白いか……などと熟考していると、なかなかお気楽にシャッターを切れません。いざカメラを構えても、「本当にそれでいいのか? フィルム1枚いくらだと思ってるんだ? 結果を見て撮り直すのに10分かかるぞ?」みたいな鬼コーチが肩にずっと乗っかっている感じなのです。
しかしこの生々しいプレッシャーが、ようやくシャッターを切れたときのカタルシスを生み、じんわり現れた画像が狙い通りだったりすると心の底から嬉しいわけです。これこそ他のカメラでは得られない体験であり、アナログ時代に名作を残してきた“写真家”の偉大さを思い知ります。あえて制約の中に身を置くという意味では、ライザップ的というか、とにかくそんな「写真道」が見えてくるのです。
例えば、初日に3〜4枚撮影したら、その写真を見て「このフィルムは暗めに写るのか、じゃあ今度は少し露出補正をプラスにしてみよう」、「絞ったらもう少しシャープに写るのかな?」と発見があり、次の日にまた3〜4枚。私には、それぐらいのペースが合うなあと思いました。
そして思い知ったのは、三脚の偉大さでした。室内で静物を撮る時、暗いからマニュアル撮影で、シャープに写したいから多少絞り込んで(F8ではなくF16とかF32にする)、と設定していくと、シャッタースピードは数秒にもなります。1/60秒でもブレる時はブレるのに、数秒間も微動だにしないのはムリです。光量もなければ手ブレ補正もない。頼れるものは三脚だけでした。
そんなこんなで最新のポラロイドカメラを通じて、昔の人の凄さを追体験しつつ、入魂の写真が数日で数枚だけ手元に残るという、実にゼイタクな時間を過ごしました。&GPのYouTubeチャンネルでは、&GP編集部の若澤さんと一緒に多重露光にも挑戦してみましたので、ぜひご覧ください。レジャーのお供に、お互いを撮りっこするのも素敵な思い出になると思います。
今回体感したPolaroid I-2は、買ったら即、バエる写真が撮れるお気軽アイテムではなく、操作がシンプルゆえにレンズやフィルムの特性をトライ&エラーで感じ取りつつ、だんだんイメージした写りに近い写真が撮れるようになっていくという、自分自身の成長を楽しめるカメラでした。便利機能満載のデジタルカメラに慣れきっていた私の体もビシッと目覚め。これでイイ写真を撮れるようになる頃には、きっとどんなカメラでも名作をモノにできるでしょう。“いい写真養成ギプス”とも名付けたい一品でありました。
>> Polaroid
<取材・文/鈴木誠>
鈴木誠|ライター。カメラ専門ニュースサイトの編集記者として14年間勤務し独立。趣味はドラム/ギターの演奏とドライブ。日本カメラ財団「日本の歴史的カメラ」審査委員。YouTube「鈴木誠のカメラ自由研究」
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