試乗したスバル1000の、よく整備された“フラット4”は、シュルシュルと軽やかに回り、そのスムーズさは小排気量のV6を想起させました(自分比)。
最高出力55馬力、最大トルク7.8kg-mと非力ながら、端正な4ドアボディを軽々と走らせます。何しろ、車重は680kgしかありません。“自らを動かす”自動車にとって、「“軽さ”はすべてに優先する大正義」ということを、再確認させてくれました。
もちろん、現代のクルマのように(過剰な)豪華装備を求められたわけでもなく、衝突安全性能や環境性能も、要求度合いが最新のクルマと比べて(相対的に)はるかに低い時代のモデルですから、手放しで「旧車スゲェェェ!」とはいえないのですが、こと「ドライブの楽しさ」に関しては、半世紀前のクルマでも、現行車にいささかも劣るところはありません。
スバル1000は、現在まで連綿と続くスバル車の基礎を築いた故・百瀬晋六氏が、心血を注いで完成させたクルマです。まず、FF車に不可欠な“等速ジョイント”を実用化させたのが、大きなトピック。後には常識になる、大衆車FF化の先鞭を付けました。
サスペンションは4輪独立式。フロントブレーキは、タイヤ側ではなく、エンジン側に備える“インボードタイプ”(!)でした。重いモノを、大きく動く車軸の先ではなく、根本に付けた方が「路面の凹凸に素早く反応できる」と考えたわけです。
理想主義的な設計を採るスバル1000ですが、そのキモは、フロントに縦置きに配置された水平対向エンジン。スバルの技術者の人たちは、以下のように考えました。
室内空間をできるだけ広く取るために、前輪駆動化は必須。しかし、直列4気筒を縦置きに配置すると、エンジンルームが前後に長くなり過ぎる(トヨタの初代「コルサ」はコレでした)。横置きにすると、ドライブシャフトの長さが左右で異なるので、ステアリングフィールに悪影響を与えたり、振動が出たりしやすい(現在の一般的なFF車では、こうした悪癖はほぼ改善されました)。
そこで、左右対称で、縦置きに配置しても前後長を抑えられる水平対向エンジンに、白羽の矢が。百瀬技師のこだわりである「デフは車体中央に」「自然なドライビングポジションが取れること」「エンジンの高さを抑えること」といった点も、“ボクサーエンジン”の採用によって解決されたのです。
1966年に登場したスバル1000は、何もデビュー時だけが画期的だったわけではなく、まさに、その後のスバル車を決定づけるオリジンとなったのでした。