■名作シリーズの副読本『池波正太郎・鬼平料理帳』
食に関する読み物を語るとき絶対外せないビッグネーム、池波正太郎。
『鬼平犯科帳』や『剣客商売』といった時代小説のシリーズには、数々の料理が登場し、登場人物の心情までをその食卓に映しだします。
また『食卓の情景』『むかしの味』といった食の随筆は、日本のグルマン必携の書ともなっています。
しかし今回紹介するのは、池波正太郎の著書ではありません。『池波正太郎・鬼平料理帳』は熱狂的池波ファンである文筆家の佐藤隆介氏が編んだ「鬼平シリーズの副読本」。
鬼平犯科帳から美味いものの名シーンを抜き出し解説が添えられ、実際に食べてみての感想、あるいはそこから江戸料理についての考察が展開されたりと、池波作品を読むのとはまた違う面白さ、興味深さを味わうことができます。
今回は鬼平犯科帳の中には"出てこない"料理をつくってみました。
編者が鬼平シリーズの中の「柿の味醂かけ」という料理を主題に、柿という食材の魅力や江戸の柿料理を幾つか紹介している項。
その中で編者が実際に食べてみて「酒の肴としては悪くなかった」としている江戸料理「柿の海苔たたき」をつくってみました。
作り方はシンプルで、柿を包丁の背でたたき、揉み海苔と合わせ、お酢だけでのばします。
海苔は火取った浅草海苔とのことでしたが、モノホンの「アサクサノリ」となると絶滅危惧I類の激レア食品なので、ここは普通の焼き海苔を一度炙って入れることに。
コリコリと跳ねる柿をなんとかペースト状にして、揉み海苔と合わせて、お酢でのばし、いざ冷酒とともに食べてみると……
美味しい!
不思議な食べ物です。柿の甘みと磯の香りが、お酢の酸味で絶妙につながります。果実感は意外に少なく、ホヤやナマコなどの海の珍味からクセをなくしたような透明感のある味わいでした。
酢豚のパイナップルなど、いわゆる「しょっぱいフルーツ」が苦手な人でもイケそう。食前に、1杯のお酒とこんな小鉢を出したらかなりの手練れと言われそうです。
《参考文献・引用元》
佐藤隆介 編、1984年『池波正太郎・鬼平料理帳』文藝春秋
http://books.bunshun.jp/ud/book/num/1671423400000000000E
■"キノコハンター"の知られざる情熱『マイコフィリア きのこ愛好症~知られざるキノコの不思議世界~』
日本の秋のお楽しみといえばキノコ!
ニューヨークタイムズ紙でも絶賛されたというキノコエッセイ『マイコフィリア きのこ愛好症~知られざるキノコの不思議世界~』は日本では今年1月に刊行されたばかりの、新しい名著です。
著者のEugenia Bone(ユージニア・ボーン)はアメリカで活躍するフードライター。キノコの魅力にとりつかれた彼女は、キノコハンターの世界に分け入り、各地のキノコ狩りや学会を訪ね歩きます。
書中には知られざるキノコや菌類の生態、アメリカの"キノコハンター"文化、キノコにまつわる最新技術や催幻覚性キノコについてetc.、とにかくこの本を読まなければ一生知らなかったかもしれないキノコの妖しくも面白い世界が広がっています。
つくってみたのは著者が「素朴ながらも癖になる」というキノコと茄子のディップです。
書中ではキノコ狩りに出かけた先でつくられる料理で、実際は野生のアンズタケやイグチ、ポルチーニなどを使うものと思われますが、あいにくどれも日本では超高級あるいは激レア。
それでもあまりに美味しそうだったので、椎茸(旨味が強いので)とブラウンマッシュルーム(西洋っぽさをプラス)でつくってみました。
キノコと茄子をあぶってすりつぶすとのことで、グリルパンを使って油なしで焼きました。
すり鉢で当たり、レモン・塩・ニンニク少々で味付け。
弾力あるキノコをすりつぶすのはなかなか大変だったので、ブレンダーやミキサーをお持ちの場合はぜひそちらを。
食べてみると、とにかく旨味が濃い!
動物性のタンパク質や油は一切使っていないにも関わらず、深く濃厚な味わいです。これはキノコをあぶって、水分を飛ばして味を濃縮しているからかもしれません。
家にあったブルーチーズとともにバゲットに乗せてみたら、ワインが止まりませんでした。
もちろん蠱惑的なアンズタケやアメリカのナスビを使ったものとは全く違う味でしょうが、これはこれで大変美味しい!
《参考文献・引用元》
Eugenia Bone(ユージニア・ボーン)著、吹春俊光 監修、佐藤幸治・田中涼子 訳、2016年『マイコフィリア きのこ愛好症』パイ インターナショナル
http://pie.co.jp/search/detail.php?ID=4405