ベースとなった「XSR900」はアップハンドルのネイキッドモデルですが、「GP」はセパレートタイプのハンドルを採用。ただ、ハンドルはトップブリッジの上にマウントされていて、前傾はそこまでキツくありません。
往年のレーサーレプリカでいうと初期型の「TZR250(1KT)」を思い出させます。カウルステーの造形はV型エンジンになった「TZR250R(3XV)」を思い起こさせるデザインです。
ライダーがまたがった際に目に映る部分はクオリティが高く、カウルのステーにはベータピンが使われていたりして、細かい部分でも気分を盛り上げてくれます。
アッパーカウル上部には、3XVで実績のあるナット構造を採用。カウルのナックルガードの部分も、今どきのスーパースポーツではなく、1KTや当時のレーサーを思わせるデザインです。
ショーの展示車はオプションのテールカウルを装備していましたが、市販状態では装着されていません。これはシートにそのまま被せるタイプなので、後からの着脱は簡単にできるようになっていますが、車検証の記載変更が必要になるので注意したいところ。
フレームはベースである「XSR900」はもちろん、「MT-09」とも共通のものですが、シルバー塗装とされているのが「GP」の特徴。当時の「デルタボックス」フレームのアルミ地をイメージしたもので、気分を盛り上げるのに一役買ってくれています。
■現代スーパースポーツとは異なるハンドリング
搭載されるエンジンは888ccの3気筒。最高出力は120PSを発揮します。かつてのレーサーレプリカと比べると圧倒的にハイパワーで、トラクションコントロール機構やウイリーコントロール、バンク角に応じたブレーキコントロールシステムも採用され、安心感も桁違いです。ライドモードもRAIN、STREET、SPORTの3種類が設定され、ユーザーが設定できるモードも2種類用意されています。
ライディングポジションは適度な前傾姿勢。初期型の1KTに近いと感じました。このモデルは、高い走行性能でサーキットを席巻しただけでなく、乗りやすいライディングポジションと座り心地のいいシートで、ツーリングなどにも使えるマルチなマシンでした。「XSR900 GP」のシートも肉厚でお尻が痛くなりにくいので、ツーリングも難なくこなせます。
3気筒エンジンの加速力は、エンジンやフレームを共有する「MT-09」と同じくかなり強烈。ただ、電子制御が効いているので乗りづらさはなく、リッタークラスのスーパースポーツと比べると気負わず乗ることができます。車重は200kgありますが、4気筒に比べてスリムな3気筒エンジンのおかげもあって、予想していたよりもコンパクトに感じました。シート高は835mmありますが、車体バランスがいいのか片足で支えるのにあまり緊張することもありません。
乗っていて一番気持ちよかったのはコーナリング。きっかけを与えると、スムーズに車体がバンクして舵角がつき安定して曲がっていくことができます。最新のスーパースポーツとは少し異なるハンドリングで、フロント荷重でコンパクトに曲がるより、リアタイヤのトラクションを感じながら曲がっていくのが気持ちいいフィーリングです。80年代にもヤマハのマシンは“リアステア”なんて言葉で表現されることがありましたが、それを思い出させるようなハンドリングでした。
言葉を変えれば、サーキットでタイムを詰めるような走り方をしなくても、爽快さを感じられるのが「XSR900 GP」のハンドリング。峠を“攻める”にような走り方をしなくても、スポーツライディングを楽しめるように仕上げられています。もちろん、エンジンはハイパワーで足回りも高性能なので、サーキットを走っても相当速いのは間違いないですが、そこまで攻めなくてもコーナーを楽しめるのは、大人のライダーにはありがたいところです。
発売から1ヶ月で1000台を受注し、年間販売台数の目標を超えてしまったという「XSR900 GP」。サーキットは走らなくてもスポーツライディングを楽しみたいライダーに一度は乗ってもらいたいフィーリングでした。
<取材・文/増谷茂樹>
増谷茂樹|編集プロダクションやモノ系雑誌の編集部などを経て、フリーランスのライターに。クルマ、バイク、自転車など、タイヤの付いている乗り物が好物。専門的な情報をできるだけ分かりやすく書くことを信条に、さまざまな雑誌やWebメディアに寄稿している。
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