【ベンツ SL試乗】ハイテクのツメを隠した、余裕あるスポーツカーライフのための旗艦オープン

栄えある「300SL」から数えて、現行SLは6世代目にあたります。2016年の中頃にマイナーチェンジを受けてフロントグリルの形状が末広がりになり、ドットの中に横桟を伸ばしたスリーポインテッドスターが浮かぶようになりました。

メルセデス・ベンツ SL

ラインナップでは、従来のボトムレンジ「SL350」(3.5リッターV6:306馬力/37.7kg-m)がカタログから落とされ、代わりに3リッターV6ツインターボ(367馬力/51.0kg-m)を積む「SL400」がエントリーモデルに。価格は1265万円〜と少々お高くなりましたが、61馬力と13.3kg-mというエンジンアウトプットの増大を考えると、“17万円アップに抑えた”といえるかもしれません。

メルセデス・ベンツ SL

SL400の上位モデルとして、4.7リッターV8ツインターボを積む「SL550」(1698万円)、5.5リッターV8ツインターボの「AMG SL63」(2277万円)、そして、6リッターV12ツインターボを搭載する「AMG SL65」(3383万円/受注生産)が控えます。

今回ドライブしたのはSL400。ボトムレンジとはいえ、全長4640×全幅1875×全高1305mmの、堂々たる体躯の持ち主です。全体のフォルムが、なんというか、四角く平べったい。メインマーケットたる北米での嗜好を反映したのでしょうか。先代よりサイズは大きくなっていますが、フルアルミのボディシェルを採用することで、車重は先代と同等の1780kgに留めています(ボディ単体では140kgほど軽い)。

メルセデス・ベンツ SL

「スポーツカーは、軽量コンパクトをむねとすべし」という信念を守るスポーツカーピューリタンにとっては、いまひとつ納得しかねるSLのディメンションですが、そんな人が、贅沢なナパレザーの運転席に座ったら、さらに驚くことでしょう。

ただでさえ重量がかさむ折り畳み式ハードトップのルーフ部分が、なんとガラスルーフになっています! これは重たい…。血を吐く思いで(!?)グラム単位の軽量化を図っているスポーツカー開発者にとって、重量物をクルマの最も高い位置に持ってくるSLのレイアウトを見たら、目をむくのではないでしょうか(ちょっと大袈裟)。しかも、ご丁寧にサンシェード付きです!

メルセデス・ベンツ SL

軽量コンパクト派の憤慨をよそに、SLは今も、半世紀を超える歴史を紡ぎ続けていて、しっかり市場も確保している。これが“スポーツカーの幅広さ”であり、クルマという商品の面白さです。メルセデス・ベンツの2座スポーツにとって大事なことは、“先進の技術が盛り込まれ”、“我慢とは無縁”で、何より“リッチに見えること”なのです。

ドアを開けてSL400に乗り込めば、余裕ある室内。シートの後ろに手荷物を置くこともできますし、“小物入れ”というには立派すぎる、ふた付きの収納ボックスまで備わります。オープンカーを日常使いする上で、大事なポイントです。

メルセデス・ベンツ SL

屋根を閉めたまま走れば、文字どおrりフィクストヘッド(クーペ)と変わらない快適性が確保されます。いうまでもなく、すきま風や、ボディのきしみなど、思いもよりません。停車時に開閉スイッチを操作すれば、40km/hまでそのまま走れます。屋根を開けようとしていたら、信号が青に変わってしまった! そんな時にも、アタフタしないで済むのです。

メルセデス・ベンツ SL

寒い時期のために、シートヒーターは当たり前として、“エアスカーフ”といってヘッドレストの付け根から温風が送られるデバイスが装備されます。安楽です。

さて、新しい心臓、3リッターV6ツインターボに火を入れ走り始めると、7速から9速(!)に多段化されたATの恩恵もあって、メルセデスの2シーターオープンは、スルスルと加速していきます。ギヤの枚数が増えたことは、SL400の滑らかな加減速に貢献するだけでなく、走行モードを選ぶ“ダイナミックセレクト”を、「コンフォート」から「スポーツ」にする、さらに「スポーツプラス」にする。と、その都度、細かくギヤを落とし、排気音を弾けさせ、よりスポーティな走行モードに入ったことを実感させてくれます。

メルセデス・ベンツ SL

ダイナミックセレクトの中で面白いのは、「カーブ」と呼ばれるダイナミックカーブ機能。これは、サスペンションを個々に制御して、コーナリング中にボディが外側に傾くのを抑制してくれます。ハードコーナリング時にドライバーの視点を安定化させる…というよりは、例えば、カップルで楽しむ山岳ドライブで、曲がるたびに乗員の体が無粋に左右に揺れるのを防ぐ、快適性向上の機能です。機能を実感できる“攻めた”走りより、むしろ、穏やかに流す時にONにした方が、「なんだか安心できる」と同乗者からの評価が上がることでしょう。

前後重量配分を、900:880kgと、良好に振り分けた新型SL。強化されたパワートレイン、リファインされた足まわりと併せ、スポーツカーとして、あなどれない実力を持ちます。クローズド時はもとより、屋根を下ろした状態でも、サイドウインドウを上げ、乗員の背後にある“電動ドラフトストップ”(ウインドディフレクター)を立てれば、キャビンへの風の巻き込みを最低限にできます。

メルセデス・ベンツ SL

気持ちよくドライブして、目的地に到着。運転席からリアにまわって、トランクから荷物を出そうとすると…。オープン状態、つまりルーフ部分やリアガラスがトランクに収納されている時でも、トランクのオープナーにタッチすると、トランクリッドが開くと同時に収納されているパーツ類が自動で跳ね上がり、広い開口部を作ってくれます。荷物の出し入れが容易。便利です。

メルセデス・ベンツ SL

「SLに採用された快適装備群はすごいけれど、重量増に目をつぶれば簡単なんじゃない?」と思う人がいるかもしれません。なるほど、そうかもしれません。ただ、ラグジュアリーなスポーツカーを“作ること”はできても、“販売し続けること”は容易ではない。

わがままな顧客の要求を吸い上げつつ、クルマしてのバランスにも考慮する。充実する一方の贅沢装備を搭載しながら、むやみに車重を増加させない。そうした二律背反を解決するため、メルセデスのエンジニアは知恵を絞ったはずです。

とはいえ、リッチな方々は、わがままですからね。エンジニアの人たちが心血注いだ高性能や快適性を知りながら、あえて、サイドウインドウもディフレクターも下ろし、髪を風になぶらせながら海沿いの道をゆるゆると行く。そんなドライブを楽しむ人が多いのではないでしょうか。“余裕あるスポーツカーライフ”って、そういうことですよね。

メルセデス・ベンツ SL

<SPECIFICATIONS>
☆SL400
ボディサイズ:L4640×W1875×H1305mm
車重:1780kg
駆動方式:FR
エンジン:2996cc V型6気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:9AT
最高出力:367馬力/5500〜6000回転
最大トルク:51.0kg-m/1800〜4500回転
価格:1265万円

(文&写真/ダン・アオキ)


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