■日本国内での購入でも著しい割高感はない
その店は、アナログカメラを多く扱う「谷口PLUS写真企画室」というカメラ・フイルム店。「この時代だからこそあえて」のアナログカメラを複数陳列した店で、どうもこの店の一角が「PaperShoot」ブースになっており、アンテナショップ的役割も果たしているようです。
日本のビンテージのコンパクトカメラや、ポラロイド社の製品の陳列に肩を並べレジすぐ脇に「PaperShoot」関連商品がズラリと並んでいます。複数種の「PaperShoot」を生で見るのは初めてで、スタッフに種類の違いや使い方などを詳しく聞きました。言葉が不慣れな筆者にもスタッフはとても親切に教えてくれ、ここで購入を決意。
筆者が選んだのはスケルトンカバーケースがセットされた「CROZ Vanguad Camera Set」(4780元)と登山縄仕様の「専用ストラップ」(690元)。ストラップは日本未発売のようですが、「CROZ Vanguad Camera Set」は日本国内でも購入可能。
日本での価格は2万9150円(税込)で、台湾で購入した4780元=約2万3900円(2024年秋の為替相場)と比べれば約6千円ほど高め。しかし、輸入品で関税がかかっていることを考えればごく妥当な価格です。日本国内購入でも著しい割高感はないと思いました。
■「PaperShoot」の特長が詰まったフルセット
さて、日本に持ち帰ってきた「CROZ Vanguad Camera Set」と「専用ストラップ」を見てみましょう。カッコ良い箱型パッケージを開くと、基盤むき出しのカメラボード、レンズ(ワイド・マクロ2個)、SDカード(32G)、スケルトンケース、スペーサー(ファインダー部)、充電用TYPE-Cケーブル、ボルトとナットがセットされています。この他に、充電タイプの単4電池が2本必要ですので、別途用意しておきましょう。
組み立て方は超簡単。単4電池2本をカメラボードに入れた後、スケルトンケースの中に基盤に傷をつけないよう慎重にセット。さらにスペーサー(ファインダー部)を上部に装着し、ボルトとナットで締めるだけ。
筆者が購入した「専用ストラップ」は、標準ナットと、ストラップ金具のボルト部分のピッチが合っているので、ボルトを使わず、ストラップの金具を直接装着する仕組みです。
デフォルトのレンズ(標準レンズ)でも撮影できますが、ワイドまたはマクロのレンズを装着すれば、それぞれの画角の撮影を楽しめます。装着はクルクル回してハメるだけ。これもまた実に簡単です。
■「写るんです」のような表現が持ち味?
というわけで、撮影を試してみることに。
撮影はカメラのオン・オフボタンを押し、その約1秒にシュートされる仕組み。つまり、オン・オフボタンを押した後、被写体の前でカメラを揺らさずジッと構えておく必要があります。また、モードは4種類あり、通常のカラーモードに加えモノクロ、セピア、ブルーがあります。デジカメなので、PCまたはスマートフォンなどに取り込むのが前提で、写真を加工できることを考えれば「その機能要らなくね?」とも思いますが、この地味な配慮もまた「PaperShoot」のかわいいところです。
まずはワイドレンズを装着した室内での撮影です。良い意味でのボケ味と暗さがあり、言わば「写るんです」のデジカメ版のような印象を受けました。1800万画素の18MPということですが、あえての「眠さ」を作っているのだと思います。
言うに及ばず記録写真や物撮りとしては全く用を足さない一方、「その場の空気」を感じさせる画に仕上がり、人物撮影などのポートレートや風景写真などではこの「独特の眠い感じ」が良い効果を生むように思いました。
一方、マクロレンズを装着し、接写も試してみましたが……。
これが全くボケボケ。「PaperShoot」のファインダーは、レンズ連動ではなく、「写るんです」や古いレンジファインダー式カメラのような画角の目安の「箱」があるだけです。そのため、マクロレンズを装着したカメラと被写体との距離などでピントが変わってくるのだとは思うのですが、細かく距離をズラして撮り直しても全く綺麗に写ってくれません。
ネットで同様の声が散見されていることを踏まえれば「PaperShoot」のマクロレンズは、「あくまでもシャレっすよ」という感じで付属されているものだと思っておくと良いでしょう。
■光のある場所では空気感をも映り込ませるドラマチックな写真に
最後に、筆者の仕事場からの何でもない景色を撮ってみました。前述よりも光がある撮影ですが、良い味のある写真になりました。言うまでもなく物理的なディテールの再現性ではスマートフォンのほうが当然良いのですが、ドラマチックな感じや空気感で言うと、「PaperShoot」のほうが情緒があり、何か昔のコンパクトカメラで撮影したような「懐かしい写真」に仕上がるのでした。
これこそが「PaperShoot」のカメラとしての特徴で、大切な人、物、風景を撮る場合にはその効果を存分に発揮してくれると思いました。そして、どうしても暗めに写るカメラではあるので、できるだけ明るい環境での撮影が良いとも思いました。
■フイルム写真の味わいをデジタルで再現する面白いカメラ
「PaperShoot」はその独特のコンセプトと、デジタルトイカメラとしては抜きん出た高価格であることから、なかなか手が出しにくいカメラではあります。しかし、「スマホ写真全盛」の今の、完全なる真逆を打ち出した面白いカメラだと思いました。アナログフイルムカメラの人気が再燃する今、「フイルムの味わい」を完全にデジタルカメラで再現すべく設計されているようにも感じます。
カメラ好きの方、他にはない独特のガジェット好きの方にはオススメできる1台。この唯一無二の「PaperShoot」、機会があればぜひ触れてみてください。
<取材・文=松田義人(deco)>
松田義人|編集プロダクション・deco代表。趣味は旅行、酒、料理(調理・食べる)、キャンプ、温泉、クルマ・バイクなど。クルマ・バイクはちょっと足りないような小型のものが好き。台湾に詳しく『台北以外の台湾ガイド』(亜紀書房)、『パワースポット・オブ・台湾』(玄光社)をはじめ著書多数
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