私事で恐縮ですが、もう20年以上前のこと、フィアットの124スパイダーを日々のアシにしていたことがあります。そもそも、程度の悪い中古車だった上に、排ガス規制への対応がつたなかった時代のモデルだったこともあり、ご多分に漏れず、故障には事欠きませんでした。「スタイルはこのままで、中身が日本車だったらなぁ〜」と、何度天を仰いだことでしょう(本当)。
しかし今、その時の夢は現実となったのです!
ご存じの方も多いでしょうが、21世紀のアバルト 124スパイダーは、マツダ「ロードスター」のコンポーネンツを活用し、広島で生産されます。欧米市場向けには、フィアットブランドの124スパイダーも作られますが、日本で販売されるのは、ハイチューン版の1.4リッター“マルチエア”ターボ(170馬力/25.5kg-m)を搭載したアバルト 124スパイダーのみ。
ハンドル位置はすべて右で、3ペダル式6速MTのほか、ありがたいことに(!?)、6速ATを選ぶこともできます。価格は、388万8000円(6MT)と399万6000円(6AT)。ロードスターで最もスポーティなグレード「RS」は319万6800円ですから、「プラス70万円ほどでアバルトが買える!」と考えれば、安いものかもしれません!?
試乗したのはMT仕様。ドライバーズシートに座ると、アルカンタラをおごった独自形状のシートや、太い取っ手が付いたドアの内張り、そして、四角いシフトノブが、ひと目で分かる“ロードスターとの違い”。さらに、タコメーターは赤くなり、ステアリングホイールの中心でも、サソリが毒尾を振り上げています! アバルト 124スパイダーは、外観に違わず、内装も頑張って差別化しています。
マツダは、インテリアの色や素材を細かく変えることが得意なので、その技術を流用(?)させてもらい、アバルト 124スパイダーのインパネや内装各部を、今後、積極的に変更していったら面白いんじゃないでしょうか。欧州では、2座のオープンスポーツといえば完全にリッチな人の趣味グルマなので、少々値が張っても、個性的なインテリアにはきっと需要があると思います。
ステアリングホイールを握って走り始めれば、アバルト版ロードスターの性格を決定づけるのは、もちろん、1.4リッターターボです。過給器付きエンジンらしく、わずか2500回転から2.5リッターに匹敵する最大トルクを発生し、ボンネットに派手なバルジ(出っ張り)を持つスパイダーを豪快に運びます。
124スパイダー(MT)の車重は、ロードスターのRSより110kg重い1130kgですが、1馬力当たり6.65kg(RSは7.79kg)、1kg-m当たり44.3kg(RSは66.7kg)と、いずれも優秀な値。絶対的な加速力は、間違いなくロードスターを凌駕することでしょう。
タイヤサイズも、ロードスターのRSよりひと回りスポーティで、太く薄く大きな205/45R17(RSは195/50R16)となります。コーナリングスピードも期待できますね!
さらにストッピングパワーも強化され、フロントには対向4ピストンブレーキが装備されます。高性能に定評があるブレンボ製なのも、うれしいポイントです。
アバルト 124スパイダーを1.5リッターの自然吸気エンジンを搭載するロードスターと比較すると、動力性能では総じて上回ることに…とココまで読まれて、「オイ、オイ」と思われた方も多いことでしょう。「スポーツカーは、カタログスペックで語るものではない、んじゃないの?」と。
そのとおりです。職業柄、つい両車を比べることに夢中になってしまいましたが、冒頭でも記したように、アバルト 124スパイダーは、しっかり“イタ車”となっているのです。ステアリングホイールの頂点に赤い帯を巻いたイタリアンスポーツカーを走らせていると、なんだか大らかな気持ちになります。
スロットルペダルを踏みこんで全力加速を敢行すると、ローはもちろん、ギヤをセカンドに入れてもなお、リアタイヤが一瞬ホイールスピンするほどのパワーを発揮しながら、一方で、余裕あるトルクを感じつつ、街中を悠々と流すのもいい。マツダのロードスターが、オープンスポーツの“スポーツ”に重点が置かれているとしたら、“オープン”の楽しさをより積極的に堪能したくなるのが、アバルトの124スパイダー、といえましょう。
オシャレに決めて、スポーツも得意。カッコいいけれど、どこか抜けている…。そんな“トッポさ”が、アバルト製オープンスポーツの魅力なのです。
“マルチエア”ターボは、幅広い回転域で野太いアウトプットを発生させますが、過給器が十分に働かない走り始めは、単なる1.4リッターエンジンに過ぎません。常用域での安楽さのまま、無頓着にクラッチをつなげると、「うっかりエンスト!」なんてことも。それもまた、ご愛敬。
インド産の日本車、トルコ製のフランス車、メキシコ発のアメリカ車…。そんな状況が当たり前になった今、日本生産のイタリアンスポーツが、日本で、イタリアで、そして世界で、どのように受け入れられるのか。興味津々です!
<SPECIFICATIONS>
☆124スパイダー
ボディサイズ:L4060×W1740×H1240mm
車重:1130kg
駆動方式:FR
エンジン:1368cc 直列4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:6MT
最高出力:170馬力/5500回転
最大トルク:25.5kg-m/2500回転
価格:388万8000円
(文&写真/ダン・アオキ)
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