ブルゴーニュと並び、フランスワインの二大産地と称されるボルドーでは、メドック地区の格付けシャトーがよく知られています。シャトー・マルゴーやムートン・ロトシルトといった格付け1級シャトーを頂点に、5級まで61シャトーが存在します。
でも、ボルドーには6600軒ものワイン生産者がいて、ネゴシアンと呼ばれる卸売業者が300軒、協同組合や組合連合も40軒あります。つまり、メドックの格付け61シャトーは、ボルドーワインのほんの一握りにすぎないのです。
ボルドー全体を見ると、60の原産地呼称(AOC)があり、12万haの畑から年間6億リットルのワインが生産されています。生産者は、家族経営の小さなワイナリーから、大きな資本のシャトー、巨大ネゴシアン、協同組合など、規模もスタイルもさまざまです。
つまり、「ボルドーには多彩なワインがある」ということです。逆に考えると、その中から何をどう選べばいいのか? です。
そこで押さえておきたいのが、ボルドーの基本となる原産地呼称「AOCボルドー」と「AOCボルドー・シュペリュール」。この2つは、定められたボルドーのブドウ栽培地域一帯で生産されたワインに許されたAOCで、ボルドーの広範囲をカバーします。
ボルドーに到着した日の夜、まずは、前ボルドー&ボルドー・シュペリュール協同組合の会長で、この7月からFédération des Grands Vins de Bordeaux(ボルドー・グラン・ヴァン連盟)の会長に就任したエルベ・グランドー氏にお話を伺いました。
エルベ会長の話では、ボルドーワインの全生産量の45%がAOCボルドーとAOCボルドー・スペリュールだそうです(2億9000万本)。生産者数を見ても、AOCボルドーとAOCボルドー・スペリュールに5800軒あります。ちなみに、トップシャトーと呼ばれる生産者は、わずか3%だそうですよ。
■基本のAOCボルドー&AOCボルドー・シュペリュールを押さえよう
ボルドーワインの基本をもっと詳しく学ばねばと、翌日、ボルドー&ボルドー・シュペリュール醸造家組合のマネージャー、ベンジャマンさんを訪ねました。
AOCボルドーとAOCボルドー・シュペリュールには、細かくは7つのAOCがあります。
使用される主なブドウは、白ブドウがソーヴィニヨン・ブラン、セミヨン、黒ブドウがカベルネ・ソーヴィニヨン、メルロ、カベルネ・フランになります。
AOC Bordeaux:Blanc(白)、Rosé、Clairet、Rouge(赤)、Cremant(泡)
AOC Bordeaux Spérieur:Blanc、Rouge
聞き慣れないのがClairet(クレレ)でしょう。クレレは、ロゼワインよりも果皮との接触時間を長くして、より濃い色と風味を出した、魅惑的なバラ色のワインです。
「Château Turcaudのクレレは、プレス前に3~4日間、果皮の接触(スキンコンタクト)を行ないます。ロゼは2~3時間ほど」と、当主のステファンさん。
クレレのアロマは深くて赤ワインに近いですが、味わいはフレッシュなため、ボルドーでは夏の暑い季節に赤ワインの代わりに飲むのが伝統的だそうです。
ただ、クレレの生産量は、2015年の統計では全体の1.07%。少ないんです。今回の取材でもあちこち探しましたが、なかなか見つかりません。
近年は、国内外で人気の高いプロヴァンス地方のロゼワインのような淡いピンク色のロゼが流行っているそうで、ボルドーのロゼも薄い色で造る生産者が多くなっています。
赤ワインの色に近い濃い色調のクレレは、今の流行と逆行しているかもしれませんが、クレレはボルドーで昔から飲まれていた歴史あるワインです。何より、飲んでおいしいですから、ぜひ日本の皆さんにも味わってほしいものです。
AOCボルドー・シュペリュールは、AOCボルドーよりもヘクタールあたりの収穫量が制限され、より厳格な生産条件の下で造られます。
注意したいのが白ワインです。辛口の白ワインはAOCボルドーになります。AOCボルドー・シュペリュールの白ワインには辛口はなく、辛口と甘口の中間的な甘さがあるタイプになります。
「クレマン・ド・ボルドー」は、シャンパーニュと同じ瓶内ニ次発酵のスパークリングワインで、色は白とロゼがあります。エルベ会長によると、クレマンはこのところ国内外で人気が高いそうです。日本にも色々と入ってきています。
AOCボルドーとAOCボルドー・シュペリュールには、スパークリングの白とロゼ、辛口白と甘さのある白、ロゼとクレレ、2レベルの赤ワインがありますので、さまざまな用途&シチュエーションで使えます。ボルドーでは、この2つのAOCを押さえるべし!と言った意味がご理解いただけたことでしょう。
■若い世代の生産者に注目