よって、今回は、AOCボルドー&AOCボルドー・シュペリュールを中心に、十数社を取材してきました。
その中で感じたのは、現代のボルドーでは世代交代が進み、たくさんの若い生産者が活躍している、ということです。
「本当は新しい醸造所で迎えられるはずだったのに」と笑うのは、Château de Castenet(シャトー・ドゥ・カストゥネ)のミレーネさん。夫のギヨームさんとサンテミリオンの醸造学校で知り合い、2010年にこのワイナリーを購入しました。2人の実家もワイン農家で、きょうだいたちもワイン関係の仕事をしています。
ワインづくりのノウハウは実家や学校で学べても、若い世代がワイナリーを購入するとなると、資金面で非常に厳しいと思うのですが、素晴らしいシステムがありました。40歳未満の人が新たにワイナリーを立ち上げようとする際、ボルドー委員会を通じてEUに補助金の申請ができるというのです。
援助比率は通常は40%ですが、環境に配慮した設備やエコになる設備には60%の補助金が出ます。補助金は5年間もらうことができ、しかも、返さなくてもいいのです。
申請するための条件は厳しいのですが、2人は実績を積み重ね、銀行の信用を得て、2015年1月に申請が通りました。これで彼らは40歳まで5年間の補助金をもらえます。
後継者がいなくて消えてしまうワイナリーを若い世代が新たに受け継いでくれるのは、地元としてもフランスのワイン産業にとっても大きなメリットがありますね。
若い世代の生産者の中には、先祖代々からのワイナリーを継ぐ人もいます。
ワイナリー育ちの彼らは、小さな時からワインが身近にあり、ワインと共に育ってきました。大学や醸造学校で最新の醸造理論や技術を学び、アメリカなど英語圏の海外ワイナリーで経験を重ねた新世代の生産者は、親の世代とは違う考えを持っていたりします。例えば、オーガニックやビオによるワイン造り。子や孫の世代に今ある自然環境を残すための努力は、ボルドーでもかなり進んできています。
パスカル・ボワスノーさんは、1839年より続くVignobles BOISSONNEAUの7代目。父の跡を継いでから、少しずつオーガニックに転換してきました。2006年からオーガニック栽培の挑戦を始め、2008年から本格的に取り組み、2011年ヴィンテージでオーガニック認証機関の認定を部分的に取得しました。
■外の世界からシャトーオーナーヘ
ワイナリー育ちではなく、異業種からの新しい参入組もいます。
アグネスさんはボルドーの外で別の仕事をしていましたが、ボルドーワインに惚れ込み、これまでの仕事で貯めた資金を元に、たった一人でワイン造りを始めました。それが2004年のこと。その後、2010年にはコンクールでメダルを受賞するまでになりました。
若手ではありませんが、長年の夢だったワインづくりの道に進んだドミニクさん(58歳)のような人もいます。
ドミニクさんは保険会社のリスクマネージャーでしたが、早期退職をし、2009年にシャトーを入手。エリートビジネスマンだった人が、ワイン醸造のディプロム取得のため、他のシャトーに研修に行こうとしました。
ただ、50歳を超えた彼を受け入れてくれるシャトーはなく、研修生募集のシャトーをすべて当たり、ようやく1軒だけ、シャトー・フェリエール(マルゴー村)のマダムからOKがもらえました。ドミニクさんのワインへの情熱が伝わった瞬間です。
「ボルドーには7000近い生産者がいる。自分は新参者でゼロからのスタート。時間をかけて客先を増やさねばならない」とドミニクさん。