この島は敷地面積は小さいがフランス領とオランダ領に分かれている。途中に国境などはなく、見過ごしてしまうくらいの看板がある程度。気が付いたら隣の国へ行っていたという不思議な世界でもある。また対岸のアンギラという島は英国領、欧州の国であり、カリブ海の島を取り合った歴史を感じさせる。
私が最初に訪れた頃、ここは人知れぬのどかなビーチで、フランスの海岸ではよく見られるトップレスビーチだった。そういった場所に行った事がない日本人から見れば「いやらしい」印象を抱く人もいるが、フランス人の感覚では「別に恥ずかしいものをつけている訳ではない」とでもいうように堂々としたもので、逆に慣れていない日本人の方が目のやり場に困ってしまう。
飛行機とビーチを入れた作品を撮るべくカメラを持ってひと気のないビーチにいると、そういう写真目的の人と勘違いされることもあり、しかも画面にトップレスの女性と飛行機という写真が撮れてしまうため、結果日本で雑誌などに使用できないなんてこともあった。またアジア人の姿は私だけでかなり目立っていた。
しかし最近は、飛行機が頭上すれすれを通るビーチとして知られるようになり、島もこのスリリングなシーンを、危険と考えるのではなく逆に観光名所にするべく宣伝を行った。結果、現在は大勢の人がごった返す海岸となった。
カリブ海クルーズの豪華客船から降りた旅客はここを目指してバスやタクシーで訪れ、大型機の到着を見ては再び船に引き返す。私も何度も通い、雑誌やテレビの取材も受けたことで日本でも知られる地となり、ツアーも催行されるようになっている。
こんな空港がある理由は、セントマーティン島が面積が小さく平坦な土地がないためという理由がひとつ。もうひとつは、周囲に多くの島はあるが、ここはカリブ海のリーワード諸島のハブ空港となっているため飛行機が周囲の島よりも多くやってくるからだ。
しかし多いと言っても大都市ではないため数は知れていて、欧州から大型機が一日2~3便来るほかは、アメリカや中米の都市からジェット機がおよそ10便到着するくらい。あとは周囲の島々を結ぶ小さなプロペラ機がメインだ。
空港の正式名称はプリンセス・ジュリアナ空港。島には内陸側に山があり、ジェット機の着陸は山にさえぎられて進入しづらい。そのため、ほぼ100%このビーチの上を通過する。また、滑走路が短いことから、パイロットには、着陸の際にオーバーラン(はみ出し)を防ごうとなるべく手前に降りたいという心理が働く。これらさまざまな要素があった結果、こんな頭上すれすれの所を通過することになる。ちなみに私の友人のプライベートジェットの機長は「セントマーティンに降りるときは、わざとギリギリ低めを狙いビーチにいる人にサービスしちゃうよ」と教えてくれたが、そういうパイロットも時にはいるようだ。
カリブ海のこの地域は、オンシーズンは冬だ。赤道に近いため暖かく、寒いニューヨークやアメリカの北の地域から観光客が押し寄せる。だがカリブ海は日本から行くには遠く、ニューヨークやアトランタなどで乗換えとなり場合によっては経由地で1泊しなければならない事もある。またオンシーズンに行っても、天気が不安定で曇りや雨の日が続くこともあれば、ハリケーンが直撃してビーチの砂が洗い流されてしまう場合もあり、行けばこのような写真が簡単に撮れるわけではない。
私も3泊して一度も晴れなかったという事を経験していて、この地でずっと曇り空ではいい写真にならず、遠くまで来て残念な思いをしたが、写真は天気次第で変わるのでまた再訪することになった。そして数年おきに通っているが、以前とは飛んでくる機材も変わり、新しいホテルがこのビーチのそばに出来たという情報も入ってきた。近々再訪しようと計画をたてている。
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(文・写真/チャーリィ古庄)
1972年東京生まれ、旅客機専門の航空写真家。国内外の航空会社、空港などの広報宣伝写真撮影を行ない旅客機が撮れるところなら世界中どこでも撮影に出向き、これまで100を超える国や地域に訪れ、世界で最も多くの航空会社に搭乗した「ギネス世界記録」を持つほか旅客機関連の著書、写真集は20冊を超える。キヤノンEOS学園講師、成田空港さくらの山に自信がプロデュースしたフライトショップ・チャーリイズもあり。
www.charlies.co.jp
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