朝、食堂でスウプを一さじ、すっと吸ってお母さまが、
「あ。」
と幽かすかな叫び声をお挙げになった。
あまりにも有名な太宰治『斜陽』の冒頭です。没落していく旧家を描いた作品で、翳りゆくもの、滅びゆくものの美しさが全篇を通じてたゆたっています。
さて、冒頭のこのスウプ。主人公の1人である「かず子」が、本物の貴族のノーブルさを備えた母親の、軽やかな食事姿に感嘆するシーンです。学生時代によく読まされる小説でもありますから、
ひらりひらり
とスウプを食べるお母さまが強く印象に残っている方も多いのではないでしょうか?
スウプの中身は
アメリカから配給になった缶づめのグリンピイスを裏ごしして、私がポタージュみたいに作ったもの
と書かれています。
食卓にはスウプとともに
お海苔で包んだおむすび
が上がっていることから、できるだけシンプルにあっさりと作ってみることにしました。
なにせ、お母さまは
ひらりと一さじ、スウプを小さなお唇のあいだに滑り込ませた
というわけですから、モッタリ重いポタージュではいけません。
これだけで出来上がりです!
ポタージュスープは、玉ねぎやバター、小麦粉や牛乳を使ってよりクリーミーに仕上げることが多いですが、今回は日本食の「すり流し」のように、裏ごしグリンピースを単に汁でのばすだけにとどめました。
食べてみると……。豆の旨味と、かすかな青い香りがおいしい! 意外なほどおむすびとも合います。冬の朝食にはぴったりの組み合わせです。
ただし、缶づめのグリンピースはコリコリと硬い場合が多く、裏ごししても多少ざらつくので、冷凍や生のものを使うとより美味しくできます。
文春文庫の『斜陽 人間失格 桜桃 走れメロス 外七篇』は、とにもかくにも押さえておきたい太宰の11作がぎゅっと詰まっています。10代の頃、太宰作品はセンシティブすぎる気がしてあまり好きになれなかった筆者ですが、大人になって読んでみるとまた違った感覚がありました。
たまには文学青年に戻りたい方、久々に読むメロスの激走もなかなかいい感じですよ!
>> 太宰治『斜陽 人間失格 桜桃 走れメロス 外七篇』(文藝春秋)
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(取材・文/くぼきひろこ)
美食・カルチャー・ライフスタイル・クルマ・ゴルフ・巷の美女etc……対象は様々に、雑誌・ウェブサイト等の各種媒体にて活動中のフリーライター。「人の仕事のすべて。そして、その仕事から生み出されるすべてのモノゴトが面白い!」と津々浦々の興味津々で取材・執筆を行う。
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