さて「ノート e-POWER、出生のヒミツ」の項で出てきた、シリーズ式ハイブリッドの課題点…、否! e-POWERシステムの特徴を確認してみましょう。
ガソリン版ノートと比較しての、車重の増加は前出のとおりです。ライバルのアクアを見てみると、ノートより小柄なボディ(全長でマイナス105mm、全高でマイナス65mm)ゆえ、車重は120〜140kgほど軽く(1050〜1090kg)、燃費(JC08モード)は、37.0km/L(豪華版のX アーバンは33.8km/L)。
ノート e-POWERの燃費は、メダリストとXが34.0km/L。“燃費スペシャル仕様”たるSは、アクアを上回る37.2km/Lを実現しています! カタログ上の数値とはいえ、頑張りましたね!!(ちなみに、ガソリン車のノート[FF]は、23.4〜26.2km/Lです)。
近年、「次世代のクルマの主流になるのでは?」との説が、にわかに現実味を帯びてきたEVですが、その歴史は、内燃機関と変わらぬ長さを持ちます(19世紀末から20世紀初頭にかけ、クルマの動力源として、ガソリン、電気、ガス、そして蒸気が覇を争っていました)。
電気自動車に発電機を積むという構想も、実現は早く、かのフェルディナント・ポルシェ博士は、1900年にローナー社から送り出したEV(インホイールモーター式!)を、後にシリーズハイブリッド化しています。また、1920年代には、アメリカで、オーエンマグネティック社が「スピードを結集した自動車」との宣伝文句で、シリーズハイブリッド車を売り出しています。
つまり、日産のe-POWERは“古い革袋に新しいワインを注いだ”システムといえます。エンジン、バッテリー技術の進歩に加え、1万分の1秒単位でモーターを制御できる高精度の制御技術が、新しい香りを放っているのです。システム単体の比較とはいきませんが、クルマ全体として、ノート e-POWERがトヨタの複雑なハイブリッドシステムを採用するアクアに比肩する結果を出したのは、注目に値します。
学術的にも大変興味深いノート e-POWERですが、惜しいことに、当面は国内専用モデルとなります。ハイブリッドシステムの、そして電気モーター駆動車の宿命である高速性能の限界と、1.2リッターエンジンによる充電力に課題が残るようです。
もちろん、100km/h巡航程度ではなんの問題もありません。それでも加減速を繰り返してガンガン走ると、電気を使うそばから充電しないと間に合わない“自転車操業”に陥るらしく、エンジンが忙しく回るようになります。
これは、ノート e-POWERに限った話ではありませんが、ご自宅からすぐに高速道路に乗って勤務地に向かう、といった使用パターンがメインの人は、燃費の面であまりメリットを享受できないかもしれません。
ただ、ドライブフィールを通じて「最新テクノロジー搭載のクルマに乗っている」喜びは味わえます。例えば、アクセル←→ブレーキといったペダルの踏み替え回数を減らし、疲労の蓄積を抑えられます。
ノート e-POWERの走行モードを「Sモード」または「ECOモード」にすると、減速エネルギーを電気に変換してバッテリーに戻す“回生機能”が強まります。アクセルペダルを戻すと、あたかも強めのエンジンブレーキがかかったようになるので、多少の減速ならブレーキを踏まないで済むのです。
アクセルペダルを踏む量が、加速のみならず、減速にも強く反映されるので、これまでのクルマの運転感覚とは、ちょっと異なるペダル操作が求められます。もし、ノート e-POWERを購入されたなら、時には「ノーマルモード」から走行モードを切り変えて、この先やってくる(であろう)EV時代に備え、今から慣れておきましょう!?
古典的なアイデアに新しい技術を載せて、世に送り出されたノート e-POWER。せっかくの新しい試みなのだから、「内外とも専用モデルにしたらよかったのに」と思わないでもありませんが、既存のコンポーネンツを活用してコストを抑え、日産の売れ筋グルマに搭載してきたところに、e-POWER普及に向けての意欲が感じられます。
大衆に揉まれることで、次なるブレイクスルーのヒントが見つかるかも。近い将来「そういえば、最初に買った電気自動車は、ノート e-POWERだったなぁ」と思い出す日が来るかもしれませんね。
<SPECIFICATIONS>
☆ノート e-POWER X
ボディサイズ:L4100×W1695×H1520mm
車重:1210kg
駆動方式:FF
エンジン:1198cc 直列3気筒 DOHC
エンジン最高出力:79馬力/5400回転
エンジン最大トルク:10.5kg-m/3600〜5200回転
モーター最高出力:109馬力/3008〜10000回転
モーター最大トルク:25.9kg-m/0〜3008回転
価格:195万9120円
(文&写真/ダン・アオキ)
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