ルックスで目に付くのは、先に試乗したフォーツーと共通する、スマートらしい顔つき。フロントにはボンネットが設けられているので、エンジンがリアに搭載されているとは気付かないでしょう。
トゥインゴと共有しているのは、あくまでプラットフォームとエンジンだけ。ボディのデザインなどは、メーカーごとに味付けが異なります。
インテリアデザインも、トゥインゴとは全く異なる雰囲気。レザー製のシートやステアリング、それに、フォーツーと共通するデザインのメーターやオーディオのレイアウトなど、だいぶ高級感のある仕上がりです。メーターパネルの右上にタコメーターが付いているのも、フォーツーのターボモデルと共通です(ちなみに、トゥインゴはタコメーター非装着)。
シートに座ると、着座位置が国産コンパクトカーと比べて、かなり高めであることが分かります。アイポイントが高いので、小さな車体にも関わらず、遠くまで見とおせて街乗りなどでは調子が良さそう。これは、トゥインゴでも同様なのですが、スマートはフォーツーもアイポイントが高めなので、違和感がありません。
エンジンをかけても、車内はコンパクトカーに似合わぬ静けさ。これは、エンジンがドライバーから遠い位置に搭載されているRRレイアウトのメリットなのですが、トゥインゴよりフォーフォー ターボの方が、さらに静かに感じます。簡素なトゥインゴの内装に比べると、より高級感を演出したインテリアのフォーフォー ターボの方が、消音が効いているようです。
走り出すと、車体の大きさから予想するよりも安定感があります。実は、これもRRレイアウトの恩恵。フロントにエンジンがないので、前輪をよりギリギリまで前にレイアウトでき、その結果、ホイールベースは2495mmと、かなり長めにとられています。これが、居住空間の広さにもひと役買っていて、室内は外観のコンパクトさから想像するよりも、ずっと広々とした感じ。リアシートはリクライニングしませんが、このクラスによくある足元の狭さは感じません。
そして、RRレイアウトのもうひとつの恩恵が、驚異的に小回りが効くこと。最小回転半径は4.1m。フロントにエンジンがないため、前輪の切れ角を大きく取れるためです。例えば、ホンダの軽自動車「N-ONE」のそれは4.5mなので、小回り性能は軽自動車以上! 2シーターのフォーツーは、最小回転半径3.3mと、さらに小回りが効きますが、それはホイールベースが短いから。直進安定性や段差を乗り越えた時のショックの大きさなどに関しては、ホイールベースが長いフォーフォーとは比べるべくもありません。
0.9リッターのターボエンジンは、昨今のダウンサイジングターボらしいトルクフルな特性で、出だしから1060kgの軽量なボディを元気よく加速させてくれます。
この時も、後ろからグッと押し出されるようなRRならではの感触があって、FFに慣れた身にはなかなか楽しい。90馬力の最高出力と13.8kg-mのトルクは、車重に対して十分なもので、高速道路の巡航時から追い越しをかけるような場面でも、きっちり必要な加速を得られます。
ただし、そこから上まで回しても、パワーが盛り上がる印象はあまりありません。デュアルクラッチ式の6速DCTにはマニュアルモードが搭載され、ステアリングホイールにはパドルシフトも装備されていますが、これを使って高回転まで引っ張ってみても、さほど楽しくない感じ。むしろ、ATモード時のシフトパターンがエンジン特性とよくマッチしていて、こちらの方が小気味よく加速していく、気がしました。ちなみに燃費は、22.0km/Lと優秀です。
小回りの効く車体ではありますが、ハンドリングは予想外に落ち着いた味付け。少しハンドルを切っただけなら、ホイールベースの長さから来る印象のとおり、曲がりすぎてしまうことはありません。Uターンのように大きくステアリングを回した場合のみ、回頭性の良さが顔を出す感じ。普通に交差点を曲がるくらいであれば、神経質になる必要はありません。
サスペンションは、トゥインゴと比較すると、ワンランク引き締められた印象。トゥインゴは、カーブを曲がる際のロールもそこそこ大きめでしたが、フォーフォーはロールこそするものの、しっかりとダンパーが効いて制御されている感じ。内装の質感の高さもあって、トゥインゴよりひとクラス上のクルマ、という印象でした。
RRレイアウトからくる静粛性の高さや、ロングホイールベースによる優れた直進安定性など、コンパクトでも高級、というスマートの立ち位置に、このプラットフォームはよくマッチしていると思いました。
高速道路を使い、100km程度ロングクルージングしてみましたが、直進安定性の高さと、必要な時に必要なだけ加速してくれるエンジンは、長距離移動でもかなり快適。コンパクトカーのパッケージングというと、エンジンと駆動・操舵をフロントに集中させたFF(フロントエンジン・フロントドライブ)が最も効率的、というのが定説ですが、RRのレイアウトもメリットが大きいと実感させられました。
ほぼ唯一といっていいデメリットは、ラゲッジスペース。広さは十分ですが、床下にエンジンを搭載している関係上、深さがあまりありません。フロントにエンジンがないので、ボンネットを開ければ荷室が出現しそうな雰囲気ですが、実は、ボンネットは冷却水などの交換用に開閉できるだけ。荷物を収めるスペースは皆無です。リアシートとナビシートを前方に倒せば、かなり広いフラットなスペースが出現しますが、緊急用という印象はどうしても否めません。日常的に3~4名の大人と、大きめの荷物を積むような使い方には、ちょっと向かないかもしれませんね。
ちなみに価格は、フォーフォー ターボが256万円なのに対して、トゥインゴはキャンバストップ付きでも199万円。ノーマルルーフなら189万円と、50万円以上の価格差があります。
トゥインゴと比べると、フォーフォー ターボにはレザーシートが備わり、タコメーターが追加されたり、ビルトインのナビが選べたりと、装備は豪華で質感もひとクラス上ですが、その差をユーザーがどれだけ価値だと感じるか。それによって、セレクトは変わってくると思います。
とはいえ、足回りのフィーリングや静粛性なども含めた“走りの質感”は、フォーフォー ターボの方が確実に上。この差は案外、大きいような気がします。
<SPECIFICATIONS>
☆フォーフォー ターボ
ボディサイズ:L3550×W1665×H1545mm
車重:1060kg
駆動方式:RR
エンジン:897cc 直列3気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:6AT(デュアルクラッチ式)
最高出力:90馬力/5500回転
最大トルク:13.8kg-m/2500回転
価格:256万円
(文/増谷茂樹 写真/&GP編集部)
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