カウルを脱いだホンダF1マシン エンジンの全貌が目の前に!

ホンダコレクションホールで企画・展示管理を担当する野尻さん

ホンダコレクションホールで企画・展示管理を担当する野尻さん

今、このタイミングでF1の企画展を立ち上げた狙いはなんなのでしょうか?
「タイミングについては、ふたつの理由があります。レギュレーションの変更で、昨年からF1にターボチャージャーが導入されたことがひとつ。そしてもうひとつは、ホンダがF1に復帰したことです」

なんと、往年の名マシンのカウルが外されて、生々しくエンジンが露出しています。
「ただ外しただけのように見えるかもしれませんが、実のところ、カウルを外したF1マシンを展示するのは、相応の理由がないと難しいのです」

今回、そんな困難な企画が実現したプロセスはどういうものだったのでしょうか?
「ホンダコレクションホールがあるツインリンクもてぎの承認を得て、さらに、ホンダの承認を経て企画展にGOサインが出るのです。ホンダコレクションホールはホンダから委託を受けて運営していますので、両社の承認が必要なのです」

ホンダF1マシンはホンダの所有だから、ですね?
「そうですね」

まず、ツインリンクの承認を得るために、何が必要だったのでしょうか?
「大切なのは集客力です。いかにお客様に足を運んでいただけるか、というのが企画展を実施する上での判断基準になります」

ちなみに、これまで集客に成功した具体例はなんでしょうか?
「以前、マクラーレン・ホンダのマシンを、5台すべて並べた時ですね。マールボロカラーのマシンがズラリと勢ぞろい。一斉に並べたのはその時が初めてでした。しかも展示を始めた5日後に、ホンダがF1に復帰するというリリースが出て…。それは我々も知らなかったのですが、タイミングよく企画展を取材していたNHKの映像がたまたまテレビに流れて、多くの方々に足を運んでいただくことができました。社内からは『どうして(F1復帰を事前に)リークしたんだ?』と責められましたけどね(笑)。本当に偶然だったんです」

F1は集客実績があり、ツインリンクもてぎ内での承認は得られた、と…。次にホンダに対しては、どうのような提案をされたのでしょうか?
「ホンダが企画展を承認する際に重視するのは『何を伝えたいのか?』ということ。コレクションホールはホンダの情報発信基地なので、ホンダの何を伝えるのか、企画の本質を問われるのです。単に多くのお客様に来ていただけるから…では、企画として成立しないのです」

今回の企画展で伝えたいメッセージとはなんでしょうか?
「今回は『ターボチャージャーユニットを見てもらう』というテーマに沿って企画が実現しました。ターボに焦点を当てようと。レギュレーションでF1に復活したターボは、市販車でも見直されている技術です。以前のターボはハイパワーの要だったのですが、今のターボはもっと補助的な存在。エンジンをダウンサイジングさせてターボでパワー面をサポートする。F1だけでなく市販車へとつながるメッセージとして『ターボ』をお見せしたい。このメッセージが企画展が実現するカギとなりました」

そちらに懐かしい「シティターボ」(1983年)が置いてありますね。
「ホンダ初のターボ車であること、そして、元ホンダF1の総監督だった桜井淑敏さんがエンジン開発を指揮した、という経緯から、ディスプレイしています。『なぜここにシティターボがあるの?』と疑問に思っていただければ、我々の狙いとしては大成功です」

気づき、興味を与えてくれるわけですね。
「コレクションホールはホンダの歴史を伝えるところでもあります。F1の第2期は大成功を収めたイメージがありますが、初期の頃はとても苦労しました。試行錯誤があって、少しずつ強くなっていったことも、展示を通じて分かっていただければうれしいですね。そうすることで、F1観戦がもっと面白くなるとも思います。実は失敗の連続だったことも、この企画展で知っていただければ、と」

しかも、マシンのカウルが外されています。よくぞ実現しましたね。
「珍しいからお見せする、というのはNGです。今回はテーマがターボなので、エンジンをお見せするためにカウルを外す必然性があったのです。今回のような機会は、なかなかないと思いますよ」

カウルを外しても、エンジンが美しい状態ですね。
「ホンダとしては完全な状態で見せたい。パーツが欠損した状態では見せたくありません。ホンダではF1の動態保存を謳っていますが、それは並大抵の努力では実現しないことなのです。ここに展示している1988年のマクラーレン・ホンダMP4/4などは、先日のファン感謝デーで走ったばかり。1986年のウイリアムズ・ホンダFW11(〜6月28日展示)も、夏のイベントでファンの方々を前に走る予定です。実は、それに向けて研究所でメンテナンスしていたのを、途中で借りてきて展示しています。今後、研究所にウイリアムズを戻し、6月29日からは交替で、1988年のロータス・ホンダ100Tを展示する予定にしています」

マシンの入れ替えが行われるのは、そういった理由だったのですね。
「カウルを外してエンジンが見えた時であっても、当然、きちんと動く状態になっているものをお見せしたい。これはホンダのこだわりです」

まさに必見ですね。
「多くの方々に、F1を身近に、そして、カウルを外したマシンをぜひ間近で見てもらえたら、我々としてもうれしい限りです」

ありがとうございました。

(文/ブンタ)

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