それにしても、待たされたものです。日産のジュークがデビューしたのは2010年。ホンダの新世代SUVたる「ヴェゼル」のそれが2013年ですから、マーケティング巧者のトヨタにしては、と、ちょっと意外な感があります。
実はC-HR、「プリウス」と同様、トヨタの世界戦略車なのです。プリウスのSUV版…というと語弊がありますが、同社入魂のプラットフォーム“TNGA”を用いて開発されたニューモデル、その第2弾です。
ドイツのアウトバーンやニュルブルクリンクをはじめ、オーストリアのアルプス、イタリアの山岳路、フランスはパリの渋滞やイギリスのランナバウト、オランダの舗装路からベルギーのラフロードまで、ヨーロッパ各国に試乗車を持ち込んで、念入りに開発されました。
日本で販売されるC-HRは、大きく分けて2種類。プリウスに準じた、1.8リッター+モーターを積むハイブリッドモデル(FF)と、欧州向けハッチバック「オーリス」と同じ、1.2リッターターボにCVTを組み合わせるガソリン車(4WD)です。
今回、クローズドコースのみでの試乗ではありましたが、C-HRのプロトタイプに乗る機会を与えられましたので、印象を報告します。
最初に試乗したのは、ピュアガソリン車たる1.2リッターモデル。実車を前にすると、ウエストラインの高さが目につきます。スタイリッシュなクーペ調ボディが、グッと地面から持ち上げられた感じ。サイドウインドウの天地が狭いので、余計に腰下が広く見えます。それでいて、重心が高い不安定な感じがしないのは、17インチまたは18インチという、大径ホイールを履いているからですね。足下シッカリ。前後ホイールアーチの張り出しも、雄々しいイメージを強調しています。
なんでも、C-HRの造形テーマは、セクシーダイナマイト!…ではなく、セクシーダイヤモンドなんだとか。強く絞り込まれた、ブリリアントな面構成がジマンです。
ボディサイズは、プリウスより60mm短い2640mmのホイールベースに、やはりプリウスより80mm短い全長4360mm、35mm幅広の全幅1795mmのボディを載せます。全高は、FFモデルが1550mm、4WDが1565mmと、プリウスより80mmほど高くなります。短く、幅広く、高めの、いかにもSUVらしいプロポーション。ジューク、ヴェゼルと比較するとやや大きくなりますが、それでいて最小回転半径は5.2mと、両車より小さく取られて使い勝手に配慮されます。
ドアを開けると、前席の天井に、エンボス加工されたセクシーな菱形がいくつか並んでいて「ギョッ!」としますが、「クルマに見栄え、自分の価値観の主張を求める」20〜30代と、「クルマにこだわり、カッコよさを求める」50代がメインターゲットといいますから、“イケてるニューモデルの遊び心”といったところでしょう。一方、インパネ、シートはじめ、インテリア全体は、質感高く、思いのほか落ち着いた雰囲気です。そこかしこに“菱形”のイメージが使われているのはご愛敬。
いざ、ステアリングホイールを握って走り始めると、C-HR、いいですね! 40〜60km/hのタウンスピードで走っていても、ステアリング操作に対するレスポンスが良好で、いかにもキビキビと走ります。
試乗車は、215/60R17サイズのエコタイヤを履いていましたが、少々スピードを上げて限界付近に達しても、安心感の高い、破綻ない走りを見せます。運転が楽しい!
1.2リッターターボのアウトプットは、オーリスと同じ、最高出力116馬力、最大トルク18.9kg-m。トランスミッションはCVTながら、ダイレクト感があって、アクセルレスポンスも俊敏。後で話をうかがったエンジニアの方は、「CVT特有の“ラバーバンドフィール”を嫌った」と、開発の苦労を話していらっしゃいましたが、なるほど、納得の仕上がりです。
CVTモデルでも十分スポーティですが、海外市場には、3ペダル式の6MT仕様もあるといいます。外野から勝手なことをいうと、台数限定のスペシャルバージョンとか、例えば、トヨタのスポーツブランド「G's」用にMT仕様をラインナップする、といったことをすると、C-HRの世界がグッと広がるのではないでしょうか。
1.2リッターターボに気を良くし、さらに期待を高めてハイブリッドモデルをドライブしたところ…、うーん“スポーティなフィーリング”という面では、ターボ仕様に一歩、譲りますかね。
現行の4世代目プリウスに初めて乗った時には、「動力分割装置(CVTとして機能するハイブリッドモデルのトランスミッション)を使っていても、“スポーティ”を実現できるんだ!」と大いに興奮したものでしたが、今回、CVTモデルと直接比較すると、特にスロットルレスポンスの面で、少々おっとりした性格です。
C-HRハイブリッドのパワーソースは、1.8リッター(最高出力:98馬力/最大トルク:14.5kg-m)とモーター(最高出力:72馬力/最大トルク:16.6kg-m)の組み合わせ。いずれもプリウスと同じスペックです。
“ハイブリッド”のバッヂは魅力的で、一般道では、また違った感想を抱くかもしれませんが、SUVながらコンパクトハッチのような軽快感を望むなら、1.2リッターを試してみてもいいでしょう。
グレード構成は、1.2リッターターボが上級版の「G-T」と標準グレードの「S-T」。ハイブリッドは、同じく「G」と「S」になります。個人的には、上級版に装備される「スポーティシートがいい!」と思いました。キルティング調のファブリックと本革のコンビネーションシート。素材が凝っているだけでなく、クッション感が高く、しっかり体を支えてくれる、望外に上質なシートです。オススメ。
C-HRは、スタイリッシュなデザインを採りながら、リアシートも実用的です。窓が小さいので囲まれ感は高いですが、大人がキチンとした姿勢で座れるスペースが確保されます。
デザイン面では、やや唐突な感じを受ける横バー式のドアハンドルも、使い勝手に関しては親切ですし、ドアを開けた際の開口部も広くて、後部座席への乗り降りが楽。デザインコンシャスなコンパクトSUVとはいえ、さすがはトヨタのクルマです。
最新モデルらしく、安全面の装備も抜かりありません。歩行者を含めた衝突回避支援機能、高機能なクルーズコントロール、車線逸脱警告などをセットにした“トヨタセーフティセンスP”が全車に標準装備されます。
トヨタの新しい世界戦略車たるC-HR。日本市場のそれは、岩手産。もはや1強といってもいい国内とは裏腹に、いまひとつプレゼンスが上がらない欧州市場には、トルコ工場から送り出されます。
北米市場向けは、先のロサンゼルスモーターショー2016で2リットル直列4気筒ガソリンエンジン搭載のモデルが発表されました。そして早晩、中国にも投入されることでしょう。余談ながら、中国市場では、ホンダのヴェゼルがHR-Vの名前で販売されています。トヨタC-HRは、ネーミングを見直すのでしょうか!?
いずれにせよ、1990年代にコンパクトSUVのマーケットをグググッと広げたトヨタ「RAV4」対ホンダ「CR-V」の闘いが、21世紀には、C-HR対ヴェゼルといった次世代モデルの間で繰り広げられるわけです。何事も、ライバルがあってこそ進化するというもの。ユーザーとしては、これまで以上の切磋琢磨を期待いたします!
<SPECIFICATIONS>
☆S-T(プロトタイプ)
ボディサイズ:L4360×W1795×H1565mm
車重:1470kg
駆動方式:4WD
エンジン:1196cc 直列4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:CVT
最高出力:116馬力/5200〜5600回転
最大トルク:18.9kg-m/1500〜4000回転
☆G(プロトタイプ)
ボディサイズ:L4360×W1795×H1550mm
車重:1440kg
駆動方式:FF
エンジン:1797cc 直列4気筒 DOHC
エンジン最高出力:98馬力/5200回転
エンジン最大トルク:14.5kg-m/3600回転
モーター最高出力:72馬力
モーター最大トルク:16.6kg-m
トランスミッション:CVT(動力分割装置)
(文&写真/ダン・アオキ)
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