ニッポン珍味紀行~佐賀の不思議珍味「わらすぼ」「ふなんこぐい」

有明海といえば、九州最大の湾であり、干潟である。

佐賀の人は干潟を「ガタ」という。夏になると干潟の上でドロだらけになって競技する大運動会「ガタリンピック」なるものまで行われる。

その干潟には、筑後川を始めとする多くの河川が流れ込み、栄養分が高く、他所では見ない、この地域ならではの独特の生物が生息している。一番有名なのはムツゴロウ。有明海のアイコンとして、ムツゴロウを使ったキャラクターを県内のあちこちで見かける。道の駅でもスーパーでも、ムツゴロウの煮付けのようなものが売っている。

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▲佐賀市のマンホールにはムツゴロウのイラストが。

 

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▲空港へ向かう途中に通りかかった橋。

 

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▲よく見たら橋の柵がムツゴロウだった!佐賀県人にとっては別に珍しくないらしい。

 

■佐賀のエイリアン、ワラスボ獲りに行きたかったが…

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今回興味深く注目したのは、同じく有明海に生息する生き物、ワラスボだった。

日本ではここにしか生息していないが、中国やインド等にもいるらしい。なにせ、見た目が怖い感じなのだ。歯がギザギザの凶暴ないでたちで、エイリアンに似ている。実際はハゼの仲間で、干潮時には穴を掘って休んでいるが、それ以外は潮流に流されながら棲息している。名前の由来は、麦わらを束ねて筒状にしたものに似ていることから「藁素坊」と呼ばれた、と言われている。

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▲エイリアンとして宣伝されているワラスボのポスター。佐賀県の居酒屋にて。

 

昔の人はなにゆえ、これを食べようと思ったのだろう。

刺身にしたり、干物にしたり、佐賀では比較的普通に食べられているようで、郷土料理を出す居酒屋などのメニューに載っている。干物は駅や空港の土産物屋でも売っている。佐賀出身の人に聞いてみると、子供の頃はよく食卓に上がっていたそうだ。一度素揚げしたものを醤油で煮て、ゴマを振ったものが作り置きされていて、ごはんと一緒に食べる。子供の頃はあまり好きじゃなかったが、今では酒のアテとして、美味しいと思うようになったとのこと。ワラスボとシオマネキはいつも食卓にのっていたそうだ(と聞いただけでは何のことやら)。

ちなみに他には、ウミタケの干物、ワケノシンノスの酢味噌なども並んでいたと話してくれたが、やはりどれもまるで想像が付かない。

さて、「道の駅鹿島」では、ワラスボを獲る「すぼかき体験」ができる。ここはガタリンピックの会場でもあり、泥だらけになる覚悟で汚れていい服を持参し、やる気満々で挑んだのだが、この日は豪雨で雷も鳴り響いていた。講師の方より「すぼかきの道具に雷が落ちるから危ない」と言われ、残念な事に中止になってしまった。仕方ないので、代わりに道具などを見せてもらった。

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▲道の駅にはすぼかきの道具が展示されている。60cmほどの刃の先が鉤状になっていて、ワラスボを引っ掛けるらしい。

 

干潟に出るには「ガタスキー」と呼ばれる木の板を使う(講師の方は「押し板」と言っていた)。片膝を板につけ、サーフィンのように上に乗って移動する。

世界各地の干潟で似たようなものが使われているが、泥の粘り具合などで板の形状が異なるというのが興味深い。タイやヨーロッパの干潟は泥が硬めなので、細身のものが多いそうだ。また香港ではキックスクーター式を使うらしい。

日本での干潟漁は、江戸時代元禄年間(1600年代後半)の頃から行われていたそうで、県立博物館にその資料が残っている。ワラスボを獲る様子が描かれた絵もある。昔は半農半漁だったこの地域では、昭和初期頃まで干潟漁が普通に行われていたが、最近はなくなりつつある。ということで、すぼかき体験はこの土地の文化を残したいという思いもあるそうだ。

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▲ガタスキーの道具見本。

 

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▲このように乗る。片足でキックしながら進む。

 

すぼかきは、先端が鉤のようになった細長い鉄製の道具で、泥の中に40cmくらい沈めて掻き回し、ワラスボを鉤に引っ掛けて獲る。潮が引くとワラスボは巣穴の中に入るので、干潟上に穴が開いて分かるらしい。4月と9月以降がシーズンで、夏は産卵期かつ世代交代のシーズンになる。このシーズンのワラスボは沖合いや海中にいるため、沿岸に巣穴を作らないそうだ。

他にムツゴロウを獲る「むつかけ体験」もあるが、ムツゴロウは気配に敏感で近づくと巣穴に逃げ込んでしまって分からなくなるため、こちらの方が獲るのは難しい。

■実際に見ると、ワラスボはつぶらな瞳でかわいかった…

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