すぼかきはできなかったが、生きたワラスボが見たいと思ったら、干潟展望館の2階には小さな水族館コーナーがあり、有明海の色々な生物が飼育されていた。そこにワラスボもいた。
水の中にいる生きた現物を見ると、ワラスボは思ったより怖くなかった。目がつぶらで、うっかりするとかわいい方の部類に入る。泥の中の生活で目が退化しており、食べ物は匂いで探し、口に当たるものを食べる。普段は干しエビなどを与えているそうだが、サバの切り身なども食べるという。特に選ばずなんでも食べるそうだ。
道の駅 鹿島「千菜市」には色々な土産物が売られているが、ワラスボも売っている。干物にして、何匹かセットになっている。また、後日佐賀市のスーパーへ行ったら、鮮魚コーナーに生のワラスボが普通にパックになって売られていた。最近あまり食べないとは聞くものの、こちらでは意外とポピュラーなのかもしれない。
さて、そんなワラスボは果たしてどんな味なのか? 佐賀市内にある居酒屋で、ワラスボの刺身が出るというので食べてみた。
いざ食すと、あっさりした白身の魚でそれほどクセはなく、普通に美味しく食べられる。切り身だけを見たら、ワラスボだとは気づかないかもしれない。しかし、ワラスボはあの奇怪な風貌が特徴的であることから、面白みとしてワラスボの頭を一緒にちょこんと添えている。新鮮なワラスボ活き造りだと、まだギザギザの口をパクパクさせていて、それが本当に噛み付いてきそうで結構怖い。一度おさまったと思って油断していると時間差で忘れた頃にまたパクパクし始めるから驚く。
「ワラスボは意外と生命力があるので、驚かすという意味でもいい仕事するんですよ」と店の大将も笑いながら話していた。
嬉野温泉にある旅館「吉田屋」には、足湯に浸りながら酒が飲める「足湯バー」というものがあるのだが、そこでは「すぼ酒」が飲める。ワラスボの干物を炙って燗酒に浸したものである。鮎の骨酒やふぐヒレ酒と似たようなジャンルで、ワラスボの出汁がお酒に滲み出て、これはこれで美味しい。白身魚なのでクセもない。
そもそも、ワラスボは干物がとても食べやすい。炙るとパリパリになって香ばしく、スナック感覚で幾つでも食べられそうだ。お酒のつまみにはもってこいである。以前パーティーにこの干物を持って行ったことがあったが、最初はみんな怖い風貌に躊躇していたものの、食べ始めたらあっという間になくなった。エイリアンだ! などと言って、ひとしきりわいわい盛り上がってから食べる。エンタメ性が高い上で美味しい、というのは酒の席ではとても好ましい食材だと思う。自分はすっかりワラスボ好きになった。