ニッポン珍味紀行~佐賀の不思議珍味「わらすぼ」「ふなんこぐい」

佐賀にもうひとつ、すごく気になる郷土料理があった。「ふなんこぐい」というものである。

言葉から想像が付くような、付かないような。要はフナを昆布で巻いて野菜と一緒に長時間煮たもので、「フナ」の「(煮)こごり」がなまって「ふなんこぐい」になったといわれる。

佐賀県南部では冬に食べるもので、鹿島市浜町では毎年1月19日に「ふな市」が開かれ、そこで買ったフナで作る。ふな市自体、幻のような希少な市である。フナは恵比寿様にお供えして、商売繁盛、無病息災を願うという。そのとき(鯛ではないからか)フナを昆布で巻いて隠したそうで、それをいつしか煮込むようになったらしい。また、佐賀県東部ではお祭りのときに食べるなど、地域によって少々風習が違う。いずれもなかなかお目にかかれない。

本来家庭で作られるもので、今もお年寄りがたまに作っていることもあるが、ほとんど見かけなくなったそう。20時間以上煮込んで作るため、大変手間暇がかかるのだ。佐賀出身者によると、小骨が多いので子供の頃は食べにくくてあまり好きではなかったが、今は酒のつまみにいいという。佐賀には酒のつまみにいいものがあまりにも多い。

絶滅寸前となったふなんこぐいを復活させ盛り上げたい、と神埼市にある和食料理店「味彩あらい」の店主が奮闘しているという話を聞き、訪ねてみることにした。

田んぼの真ん中のようなところに店がある。佐賀平野は広大な稲作地帯で、クリークと呼ばれる農業用水路が網の目のように張り巡らされていることが特徴。地元の人は堀と呼び、子供の頃から魚を獲って遊んだりと、その地域の人々の暮らしと密接に関わっている。フナもそのクリークに多く棲み着いている。

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▲クリークと「味彩あらい」店主の新井さん。

 

店主の新井康浩さんは、警備保障会社の社長を務めながら和食料理店を経営している(その他にも、花が好きで広大なフラワー庭園を作ったり、カブトムシをじゃんじゃん育てていたり、とにかく多才な技術とアイディアの持ち主だった!)。

祖父がクリークで獲れる魚で生計を立てていたことから、クリークに感謝し、クリークの環境を守るボランティア活動を行っている(「クリークの恵み」で検索すると動画も出てくる)。昔はクリークで獲れる魚が貴重なタンパク源として食されていたが、最近は食べなくなってしまった。新井さん自身も子供の頃は、おばあちゃんに作ってもらって当たり前のように食べていたという。クリークで今もたくさん獲れるフナで郷土料理を作り、伝統的な食文化を後世に伝えたい。また水環境について考える機会となり、地域興しにも役立てたら、という思いで、ほぼ途絶えつつあるふなんこぐいを復活させることにしたそうだ。

まずは、材料となるフナを獲りに行く。クリークの橋のたもとに網を張り、数分で引っ張り上げるといつもは大抵獲れるそうなのだが、この日は大嵐の次の日で、フナが散らばってしまったらしく、一匹も入らなかった。残念過ぎる。天気のいい日は橋の下に自然と集まって来るそうだ。いつも集団でいるので、多いときは70〜80匹くらい獲れるらしい。特に冬の時期、寒ブナが一番美味しい。

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▲クリークに網を放つ。一匹も獲れなかった…

 

この日フナは獲れなかったが、事前に獲れたフナを丁寧に泥抜きして、大量に冷凍してあったので、料理の実演をしてもらった。用意する材料は、大根、昆布、かんぴょう、フナ。大根は皮を向き、葉の部分だけを切って、丸々一本をそのまま鍋に敷き詰める。長時間煮込むので、できるだけ形を崩さず焦げ付きを防止するとともに、大根にフナと昆布の出汁がしみ込んで、とても美味しくなる。12月以降は自家栽培の大根を使っている。また、家によっては人参、レンコン、里芋、こんにゃくなどを入れるところもあるそうだ。各家庭で入れる野菜は異なる。

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▲ふなんこぐいを作るのに昔から使っていたという鍋。

 

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▲下処理が終わったフナ。

 

フナはウロコをはいで、内臓を取る。水道のホースをお尻の穴に突っ込んで流すと全部出てくる。そうやって、なるべく包丁を入れないようにしているそうだ。

下処理が終わったら、昆布を巻いていく。地域によって巻き方は違うそうで、魚全部を昆布で覆ってしまうところもあれば、全く巻かずに昆布は別に入れて一緒に煮るところもある。新井さんは、フナにある程度味もしみ込みやすいように、半分くらいの面積を空けて昆布を巻いている。

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▲フナに昆布を巻く新井さん。

 

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▲昆布は胴の真ん中が隠れるように巻き、干ぴょうで結ぶ。

 

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▲葉を落としただけの大根を敷き詰めた上に、どんどんフナを乗せていく。

 

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▲昆布巻きフナでぎっしりの鍋。

 

フナは鍋いっぱいにぎゅうぎゅうに詰める。写真の鍋では大根7本に対して、フナ70〜80匹くらい。味噌を水で溶き、水と一緒にひたひたに入れる。味噌は昔は古味噌を使っていたそうだが、今は自分が普段から食べている白味噌を使う。これは家によってさまざま。

アルミホイルで落し蓋をして、とろ火でひたすら煮る。沸騰するまで3時間くらいかかる。沸騰したら砂糖、水飴、酒を入れて、さらに15、6時間煮込む。酒は近くの地酒、天吹酒造のものを使っている。水飴は煮崩れ防止のために入れている。

その後は時々味をみて、調味料を調整する。だいたい午前中に火を付けて、夜まで炊き付け、一旦火を消す。そして次の朝にまた火を付けて、夜まで炊く。そうすることで、フナの中に味がぎゅっとしみ込んでくれる。全部で20時間以上炊いている。やはりとても時間と手間がかかるため、家庭で作るとなったら確かに大変だ。

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▲調味料を入れて煮込んだ、20時間後。

 

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▲飴色になって、美味しそう。

 

■ふなんこぐいんの御膳には、最後にささやかな楽しみが

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