アイシン精機の衣浦工場では、サンルーフを月に7万セット製造しています。一般的な電動タイプに加え、サンシェードが開くタイプや開閉機構のないパノラミックルーフなども含まれます。世界シェアでいえば17%。国内では約60%を誇ります。
その歴史は、1979年に供給したトヨタ「セリカ」向けのものから始まった、というのですから、まさにサンルーフのパイオニアといえます。ちなみに初号機は、手回し式のインナースライドタイプで、パネルはガラスではなく、鉄板でした。
さて、単なるルーフとあなどってはいけません。サンルーフひとつを構成するパーツ数は、約200点。しかも、重いものでは約40kgにもなる大物パーツです。
厳戒態勢の工場内部に入ります。どれくらい厳戒かといいますと、カメラマンの持っている一眼レフカメラのシリアルナンバーを控えられるくらい(汗)。かつて、クルマ、タイヤ、ホイール、ビール、コーラ、さまざまな工場に潜入しましたが(フェチなので)、取材時にここまで厳しかったのは、初めてかも。一気にテンション上がりました。
工場に入ると、ガラスパネルとそれを支えて収めるフレームが、ラインに並んでいます。第一のポイントは、ガラスと金属フレームの接着です。実はこれ、なかなかひと筋縄にはいかないのです。
というのも、異素材をくっつけるのは難しい上に、それがガラスと金属となると、難易度はさらに上昇。しかも、走行中にガラスが外れて飛んでしまった…なんてことは許されないわけですから。なので、ラインに並ぶガラスとフレームは、まるで高価な工芸品かのように扱われています。
思ったよりシンプルに見えたのは、ガラスを収めるフレームです。実はこのシンプルさこそ、アイシン精機のノウハウが蓄積したものだと学びました。
このフレームの大切な役割のひとつが、レインチャンネル。日本語でいう“雨どい”ですね。開口部から浸入してくる雨を確実に受け止めて、排水する。途中で絶対に漏れてはいけない。そのミッションを達成するために、フレームはどんどんシンプルになっていったのだとか。先ほど、パーツ点数は約200といいましたが、これでもどんどん減らしてきた結果なのです。
さて、そのガラスとフレームが合体。ロボットの巨大なアームが寸分の狂いもなく、正確にサンルーフを完成させるのです。お見事ですね。
長年培われてきたノウハウがあるだけに、製造工程そのものは美しくスマート。見学とはいっても、アッという間なのです。
しかし、ここからクライマックスが待っているとは思っていませんでした。
組み付けられた完成品が厳重に囲われたエリアに搬送されていきます。そこでは、完成したばかりのユニットを実際に稼働させ、ルーフを開閉します。
何をやっているのか? というと、正確に動くか否かのチェックと同時に、異音などが発生していないかどうかを確認しているのです。そのために、センサーを使うのはもちろん、特別なトレーニングを受けた担当者が、目を光らせ、耳を澄ませているのでした。
あくまで印象の話ですが、全製造プロセスのうち、ここに一番時間を費やしているかのよう。製造ラインのボトルネックにならないか、見ているこっちがヒヤヒヤするくらい。さすがに、こんな丹念な作業を全製品にやっていたら、とても月に7万個は作れません。
「すべてチェックしています」
え? 独り言が聞こえたのか、製造ライン担当者の方から衝撃のひと言。
部品メーカーは、大量生産が生命線。軽自動車に電動スライドドアを付けられるようになったのも、大量生産によるコストダウンの恩恵です。なので勝手ながら、厳重な品質管理も、大量生産らしい一部の抜き取り検査だと早合点していました。1万ユニットのうち、2〜3の不良品は織り込み済み…だと。
実は工業製品って、そのような総意がなければやってられません。今、誰もが持っているスマホだってそうですよ。半導体にだって歩留まり、という言葉が使われているくらいです。
「それでは話になりません。仮に不良品が100万個に1個だとしても、それを受け取ったお客さまにとっては、たったひとつのもの。それがすべて、100%なのですから」
ということは、仮に100万ユニット製造するとして、いくつまではなら不良品は許してもらえるのでしょうか?
「(静かに)ゼロです」
へ? 不良品ゼロ!?
「良品100%です」
マジですか! ニワカには信じがたい驚異の“全数良品”。改めてニッポンのモノ作りの底ヂカラを見せつけられた思いです。
Webや誌面などを飾る、魅力いっぱいのブランニューな新型車も、それを縁の下で支える自動車部品メーカーの驚くべき品質管理があってのこと、なのですね。勉強になりました!
(文/ブンタ 写真/江藤義典)
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