世界の空港案内[TRIP:02] ビクタービル空港(アメリカ)

ここは砂漠のど真ん中にある。位置としては、ロサンゼルスとラスベガスのちょうど中間地点だろうか。広大な砂漠にあるこの空港は敷地がとにかく広く、そしてなにもない場所なので駐機料が安い。また一年を通して雨が少なく乾燥しているため、保管中の飛行機が傷みにくいとうメリットがある。

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▲ビクタービル空港周辺の丘から見た保管中の機材たち、フェデックス、ユナイテッド、ブリティッシュエアウェイズ、デルタなど日本とゆかりのあるエアラインの尾翼も多く見られる。

さらにこの空港は、元アメリカ軍の基地だったため長い滑走路がある。しかし周辺に大きな町はないため、定期便は就航しておらず、実際にこの空港を見に行くには最寄りの空港から車で数時間かけて行くほかない。

私は車で行く場合もあるが、テロ対策でセキュリティが厳しく、撮影をしていると警備員から注意されることもしばしばあるので、軽飛行機を借りて飛び、現地の空港に毎回乗り付けている。そのため今回お見せする写真は飛んでいるセスナ機の窓を開けて撮影した空撮もある。

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▲模型を並べたようなビクタービル空港駐機エリアの風景。ボーイング727や737クラシック、L1011、エアバスA310など2世代前の機体やボーイング747-400、767などの姿も見える。

「飛行機の墓場」と言うとネガティブなイメージになるかもしれない。もちろん実際にここでスクラップにされるものもあるのだが、別の見方をすると、ここは「飛行機の中古機センター」ともいえる場所なのだ。

最初に就航したエアラインでの任を終え、ここで次の就航先を探し、この空港で新たなペイントをまとって再就職する。そんな機体をこれまで何機も見てきた(元基地なだけに重整備工場ができる格納庫やペイント施設もあり)。また大手航空会社が余剰となった機体を一時保管するため砂漠の空港に駐機しておくこともある。日本にも就航している米系航空会社の中には、一時的に需要が落ち込んだため砂漠の空港で数か月~1年程度保管していた。そんなB747-400がまた成田に飛んできているなんて事もあるのだ。

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▲完成しておよそ2年間ビクタービル空港で保管されたのち、ようやくデリバリーされるイラク航空ボーイング777-200ER型機。

一方古い機体ばかりでなく最新の機体が並ぶこともある。新型旅客機の発注は4~5年前に行うが、発注した際の事業計画通りに事が進まず、情勢の変化、乗務員不足、受領しても就航する路線がないなどさまざまな理由により新型機を受け取ることができない場合もあり、その際はボーイング社の工場からここにフェリー(回送)され保管される。またリース会社所有の機体で、リース期間が終わり返却され次の出番を待つものや、機齢は新しいが1機で売るのではなくバラシて部品で売った方が利益が出る機体など、さまざまな状況の旅客機が並ぶ。

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▲この写真は、ビクタービル空港と同様に飛行機の最後の地として有名なモハビ空港にあるスクラップエリア。ANAのボーイング747SRの姿も見える。大空を長い間飛んでいた機体は、このように使える部品を外し鉄くずとなる。

毎年この空港に行き、場合によっては機体の下まで行き、1機1機長年飛んだ歴史、以前どこかの空港で撮影した(出合った)時を思い出し、機体に思いを馳せる。しかし砂漠の中にあることから、ガラガラ蛇やサソリ、毒蜘蛛が生息しているため足元には要注意だ。

とはいえ、風の音しか聞こえない広大な砂漠に旅客機がずらりと並ぶ姿は圧巻で、毎年旧友に会うかのようにこの空港に行き、「あ、成田でたびたび撮影した機体だ」とか、日本のエアラインの機体なら「国内線で乗った事がある飛行機だ」「倒産して消えた懐かしのエアライン、機種だ」などと機体の登録記号を見ながら鑑賞に浸れる場所、それが砂漠の“飛行機の墓場”でもある。

 


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(文・写真/チャーリィ古庄)

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チャーリィふるしょう/写真家・冒険写真家・フォトジャーナリスト

1972年東京生まれ、旅客機専門の航空写真家。国内外の航空会社、空港などの広報宣伝写真撮影を行ない旅客機が撮れるところなら世界中どこでも撮影に出向き、これまで100を超える国や地域に訪れ、世界で最も多くの航空会社に搭乗した「ギネス世界記録」を持つほか旅客機関連の著書、写真集は20冊を超える。キヤノンEOS学園講師。成田空港さくらの山に自身がプロデュースしたフライトショップ・チャーリイズをオープン(www.charlies.co.jp

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