【検証2016年の注目車】日産「セレナ」の魅力はハイテクだけなのか?

1980年代後半から90年代前半にかけて、世のクルマ好きが、日産「シルビア」(S13型)に憧れ、「スカイライン」(R32型)にド肝を抜かれ、「プリメーラ」(P10型)のハンドリングに感心していた頃、四半世紀後の日産の主力車種がミニバンのセレナになろうとは、いったい誰が予想したでしょうか?

99年に、2世代目セレナが古くさいFR(後輪駆動)シャーシを捨て、FF(前輪駆動)プラットフォームを手に入れてからこっち、日産の両側スライドドアを持つミニバンは「ドンガラが大きい割にリーズナブルな価格設定」という、消費者向けド真ん中、直球勝負のコンセプトで成長してきました。

先頃5世代目となった新型セレナは、3世代目以降、同寸の2860mmというホイールベースに、全長4770×全幅1740×全高1865mmのボディを載せます(ハイウェイスターG)。車体寸法は、旧型とほとんど変わりません。

日産 セレナ

トヨタ「ノア/ヴォクシー/エスクァイア」、ホンダ「ステップワゴン」といったライバルと比較すると“ホイールベースの長さ”というアドバンテージこそ薄れましたが、クルマの大きさは、依然としてトップクラスです。この手のミニバンは“人やモノを積めてナンボ”ですから、絶対的なサイズは大事です。

新型セレナの室内をチェックしてみると、たしかに広い。その上、日本製ミニバンのお家芸、シートアレンジにもますます磨きが掛かりました。

日産 セレナ

前後に大きくスライドし、前席左右またはセカンドシートの肘かけになる“マルチセンターシート”は、先代から継承されました。肘掛け部分を起こすと、コレが背もたれになってセンターシートに早変わり…というのはご愛敬として、マルチセンターシートのスライド機能を活用し、2列目シートを左右にスライドできるのはいいですね。

日産 セレナ

マルチセンターシートを前席の肘掛けにすると、2列目シート左右間にスペースが空きます。ここをウォークスルーとしてではなく、シートを中央に寄せるために使うのです。例えば、両親と子供ひとりの3人乗車の場合、2列目片方を外側にし、子供が座るもう片方を目いっぱい中央に寄せる。

日産 セレナ

すると、子供の目の前に、フロントスクリーンを通して進行方向の景色が広がります。これはうれしい! 走行中の風景を共有できるだけでなく、前席の人たちとのコミュニケーションを取りやすいという利点もあります。ドライブ中、ゲームばかりやっている…という子供の様子が、少しばかり変わるかもしれません。

2列目左右に1名ずつ、計2名乗せる場合は、シートのくっつき具合でふたりの仲の良さが測れる…というのは冗談ですが、シートを中央に寄せることで、万一、側面衝突された時のクラッシャブルゾーンが広がることも期待できます。

サードシートの使い勝手も配慮されました。比較的“オミソ”な扱いになりがちな3列目席ですが、実用的な空間が確保されているほか、シートクッションの見直しで座り心地も改善されました。乗り降りも容易になっています。2列目シートの背面下部にあるペダルを踏むことで、シートを前にスライドさせて開口部を広げられるだけでなく、側壁に設けられたボタンを押すことで、スライドドアの開閉もできるようになりました。

日産 セレナ

サードシート使用時も、後方に“使える”ラゲッジスペースが備わるのが、セレナの美点。さらに、復活したサードシートのスライド機能を使って、乗員と荷室の広さを案配することもできます。また、3列目席を使わない時には、畳んだシートを側壁に跳ね上げて固定することで、荷室をグッと広げることが可能です。

日産 セレナ

さらに! ニューセレナでは、大きなバックドアを開けることなく、リアガラス部分だけを開閉して荷物を積み込める“デュアルバックドア”が採用されました。もう考え得る限りの利便性を採り入れた、といってもいいんじゃないでしょうか。ユーティリティをアップさせる、各種アクセサリー類も豊富です。

日産 セレナ

新型セレナのメカニカルな面を確認しておきましょう。動力系は、2リッター直4エンジン(150馬力/20.4kg-m)と小型モーター(2.6馬力/4.9kg-m)を組み合わせた“マイルド”ハイブリッドのみ。いかにも割り切った設定です。トランスミッションはCVT。駆動方式は、FFと4WDから選べます。

日産 セレナ

走り始めると、ハンドルが軽いことに驚かされます。人差し指1本でクルクルできそう。家族と荷物を積んで、行楽地へ向かうオトーサンの(オカーサンやオニーサンかもしれませんが)疲労を、可能な限り低減しようという心遣いでしょう。

日産 セレナ

退屈な高速巡航やストレスの溜まる渋滞走行をアシストしようと、日産車の中でイの一番にプロパイロットがオプション設定されたのも、クルマの使われ方を考えれば当然のこと。ステアリングホイールの目立つ位置に「PILOT」のボタンが設けられます。

日産 セレナ

プロパイロットは、前車との距離を維持しつつ、スロットルやブレーキ、そして、ステアリング操作までクルマが自律的に制御してくれる、いわば高機能のクルーズコントロールシステムです。依然としてステアリングホイールに手を添え、3秒以上の停車時にはリジュームボタンを押すか、アクセルを軽く踏まないといけませんが、自動運転時代の足音が聞こえてくる便利機能です。

「それにしても」と、新型セレナのステアリングホイールを握りながら思うわけです。例えば、これまで何度か乗る機会のあったトヨタのエスクァイアと、純粋にクルマのハンドリング、運転の楽しさを比べた場合、個人的には、トヨタ車に軍配を上げます。

エスクァイアは、スロットル操作に対応するクルマの反応が自然で、ステアリングの手応えも適当。路面からの情報もしっかり伝わる、いわば“地に足が付いた走り”を見せます。素晴らしい利便性と併せ、新世代ミニバンの走りに、乗る度に感銘を受けたものです。片やセレナの運転感覚に関しては「モノより思い出。」というしかありません。

しかし、むしろその路線を堅持してきたからこそ、日産の、そしてミニバンカテゴリーの主力車種としての“今”があるわけです。かつての日産車の走りに心躍らせた身としては少々寂しいことではありますが、自動運転機能で、走りそのものを他者(クルマ)に委ねてしまおうという時代ですから、過去を振り返ってみても詮無いことなのかもしれませんね。

日産 セレナ

<SPECIFICATIONS>
☆ハイウェイスターG(FF)
ボディサイズ:L4770×W1740×H1865mm
車重:1700kg
駆動方式:FF
エンジン:1997cc 直列4気筒 DOHC
最高出力:150馬力/6000回転
最大トルク:20.4kg-m/4400回転
トランスミッション:CVT
価格:301万1040円

(文&写真/ダン・アオキ)


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