商品改良と聞くと「定期的な内外装のリフレッシュ?」と思われるかもしれませんが、さにあらず…。とはいえ、目に見える部分での変更は、最小限かもしれません。正確にいえば、外装ではフロントフォグランプのLED化やメッキベゼルの採用、ドアミラーターンランプが前方に回り込む形状に…といった、細部の変更を受けています。
内装も、ステアリングが新デザインとなったほか、カラーコーディネーションが変更されるなど、細部にわたる変更を受けており、全体的な質感向上が図られています。
さらに、ふんだんにスエード調人工皮革をインテリアに使用するなど、エレガントな内外装にこだわった特別仕様車「テーラード・ブラウン」も設定されました。
ひと目見ただけで気づく部分だけをチェックすると“ちょっとした年次改良”のように感じますが、結論からいえば、その進化は走り始めた瞬間に感じることができました。
では、1.5リッターのディーゼルエンジンを搭載する上位グレード「XDツーリング」(6MT車)のキーを受け取り、横浜の市街地へとテストドライブに出掛けましょう。
エンジンを始動させて真っ先に感じるのは「あれ、また静かになったな…」ということ。ディーゼルノック音を低減する“ナチュラル・サウンド・スムーサー”により、従来モデルも十分な静粛性を実現していましたが、新たに燃焼タイミングを緻密に制御することでノック音の原因となる部品の共振を抑える“ナチュラル・サウンド周波数コントロール”を採用しました。
さらに、高周波音対策として、ボンネットインシュレーターやエンジンルームインシュレーター、エンジンルーム内の遮音カバーに吸音材を追加したほか、リフトゲートトリムやトランクサイドトリムにも吸音材を装着するなど、徹底した騒音対策がとられています。こうした対策の効果が特に分かりやすいのは動き出しから50km/hくらいまでの低速域で、ディーゼル車特有のコロコロ音やロードノイズが気になることはなく、静粛性は国産同クラスを大きくリードする仕上がりといえるでしょう。
「ディーゼルっぽい音も好きなんだよな」という方は、ちょっと残念に感じるかもしれませんが、低速からググッと立ち上がるトルク感はもちろん健在なのでご安心を。搭載する“スカイアクティブ-D”、1.5リッターの直4ディーゼルターボの最高出力は105馬力、最大トルクは6MT車が22.4kg-m、6AT車が25.5kg-mと、従来から変更はありません。
小排気量ディーゼルですから“信号ダッシュで周囲をリード”は難しいですが、2000回転も回っていれば、十分に胸のすく加速を味わえます。ちなみに、100km/h巡航時の回転数は6速で1800回転ほどですから、右足次第で追い越しでもたつくようなこともありません。
走りという点においては“G-ベクタリングコントロール(GVC)”が全車標準装備となったこともニュースといえるでしょう。GVCはドライバーのステアリング操作に応じて駆動トルクを変化させることで、スムーズな車両の挙動を実現するというもの。また、プラットフォームを共有するコンパクトSUVの「CX-3」と同様、前後ダンパーやブッシュの仕様、電動パワーステアリングの特性が見直されており、走行安定性と乗り心地の改善も図られています。
“フロントスタビライザーマウントブッシュの硬度を柔らかく”し、“リアトーションビームアクスルブッシュの挿入角度を変更”などなど、改良された部分を挙げれば枚挙に暇が…、というほど。では実際、従来モデルと比べてどうなの? といえば、首都高でカーブからカーブへの移行や高速でのレーンチェンジがよりスムーズになり、また、目地段差などを通過した時に車両後方からの振動がお尻に伝わりづらくなったかな、といった感じでしょうか。
もちろん、ちょっとしたお買い物から長距離移動まで、シチュエーションを問わずドライブをサポートする安全装備もさらなる充実が図られています。ワイドな範囲を照射しつつ、対向車のドライバーを眩惑させない“アダプティブLEDヘッドライト”、設定した車間距離を保ち、自動で車間を調整する“マツダレーダークルーズコントロール”などが新設定されたのも、その一例といえるでしょう。
“まずは上位モデルから…”ということはなく、最新技術や装備をクラスの大小関係なしに出し惜しみせず投入してくるのも、近年のマツダの美点。しかし、ここまで話を進めると、従来モデルが霞んで見えそう…、と思われるかもしれませんが、こうした進化・改良をしっかり受け入れられるのは、もちろん基本設計がしっかりいるからこそ。
運転席に腰を下ろした時に感じる、秀逸なドライビングポジションもその一例。車体サイズや足元スペースに制約のあるコンパクトカーの場合、ペダル配置とステアリングの位置関係が“ちょっと不自然だな”というクルマもありますが、“自然な運転姿勢も安全なドライビングに不可欠”という、マツダの設計思想がこの辺りからもうかがえます。
また、クラスの標準をしのぐたっぷりとしたサイズのフロントシートは、ドライバーの体格を問わず、快適かつ正しい姿勢をとることが可能です。ちなみに、バックレストだけで高さ650mmというサイズで、身長180cmを超えるドライバーでも、肩甲骨や腰まわりでしっかりとしたフィット感を得ることができるのは、素直にあっぱれというところでしょう。
さて、話はスタートに戻りますが、そもそもデミオが“打ち破ろう”としている概念とはなんなのでしょうか?
それは“クルマの価値はサイズに比例する”ということなのかな、と思います。デミオにはコンパクトカーにありがちな、ちょっと気恥ずかしくなるよう装飾もありません。ステアリングやダッシュボードなど、インテリアの質感も上質で“ワクワクドキドキ”よりも“ほっと落ち着く”空間となっています。
また、しっかりとした質量を感じるシフトレバーのタッチやドアノブの操作感、シート表皮のしっかりとした感触など、細部に至るまでいわゆるコンパクトカー的な安っぽさを感じることがありません。ディーゼルモデルの場合、車体サイズから想像するよりちょっとお高め目の価格設定ではありますが、堅実な設計と地道な改良により、デミオはライバルたちとは一線を画すキャラクター、独特なポジションを築きつつあるのは間違いないようです。
最新デミオは、コンパクトカーの購入を検討中の方はもちろん、大型車からダウンサイジングをお考えの方も、ぜひともお試しいただきたい1台です。
<SPECIFICATIONS>
☆XDツーリング(FF/6MT)
ボディサイズ:L4060×W1695×H1525mm
車重:1080kg
駆動方式:FF
エンジン:1498cc 直列4気筒 DOHC ディーゼルターボ
トランスミッション:6MT
最高出力:105馬力/4000回転
最大トルク:22.4kg-m/1400~3200回転
価格:219万1320円
(文&写真/村田尚之)
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