日本なら、しっかりとした滑走路とターミナルビルを作り、当然のようにフェンスで周囲をぐるりと囲むだろう。しかしここは、自然の干潟をそのまま利用したエコな空港だ。英語では<エアポート>ではなく<アエロドローム>になり、空港より格下の飛行場扱いになるので、小さなターミナルと管制塔のような設備を立てればすぐに運用可能となる。周囲にフェンスはなく「吹き流しが立っていたら空港運用中なので砂浜に入らないように」と書かれた看板があるだけだ。
ここは一応、仮想の滑走路が三本あり、陸側の滑走路端には滑走路番号(方位)が書かれた看板がある。しかしただの砂浜なので照明設備はない。だから夜間の運用はなし。ただし島で急患が発生したときは、島民が集まり車のライトを砂浜に向けてつけ滑走路が見えるようにするという配慮がとられている。
バラ島の人口は約1100人。産業は牧羊などで、大きなホテルはなく、宿泊施設は英国ではよくある「ベッド&ブレックファースト」と呼ばれる一般家庭の部屋に宿泊するものになる。文字通り朝食つきで、家主と英語で楽しく話す必要があるが、この島の情報が聴けるので楽しくもある。
私は、砂浜に着陸する飛行機の撮影がしたくて、日本からロンドン、グラスゴー経由で現地へと飛んだ。DHC6型機の窓から着陸シーンを見ていたら、機首を下げて前のめりに突っ込んでいくとビーチが見えてきた。あらかじめビーチに着陸すると知っていればいいが、客室乗務員もいない小さい飛行機だ。詳しい説明などなく、知らない人が見たら「何か問題が発生してどこかの砂浜に緊急着陸か?」と勘違いしてしまうかもしれない。
そして車輪が海水をバシャバシャと巻き上げながら着陸。砂浜なので滑走路よりも柔らかいからなのか、着陸の衝撃はソフト。着陸後、客室ドアが開くとそこは海岸だった。
この便は旅客だけでなく生活物資を輸送する重要なルートでもあり、私が乗ったフライトには新聞も積み込まれていた。若い女性が自家用車で空港まで新聞の束をとりに来ていたので、お昼頃には朝刊が各家庭に届くのかもしれない。
この空港を見ると、滑走路を造らなくても運航できるエコなエアポートが先進国にもあるんだなと思う。それとともに、北米や欧州、ニュージーランドなどでは小型機がわりと気軽に飛べるようになっていて、飛行機が特別な乗り物でない事が伝わってくる。この点、日本はまだまだで、小さな飛行機が活躍できる社会になれば良いと思いながら再びDHC6型機に搭乗し、砂浜の滑走路からテイクオフしてバラ空港をあとにした。
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(文・写真/チャーリィ古庄)
1972年東京生まれ、旅客機専門の航空写真家。国内外の航空会社、空港などの広報宣伝写真撮影を行ない旅客機が撮れるところなら世界中どこでも撮影に出向き、これまで100を超える国や地域に訪れ、世界で最も多くの航空会社に搭乗した「ギネス世界記録」を持つほか旅客機関連の著書、写真集は20冊を超える。キヤノンEOS学園講師。成田空港さくらの山に自身がプロデュースしたフライトショップ・チャーリイズをオープン(www.charlies.co.jp)
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