4C/4Cスパイダーは、1.7リッターターボ(240馬力/35.7kg-m)をキャビン背後に配置したミドシップスポーツ。ボディ構造は、少量生産車の文法に則っています。
つまり、バスタブ構造のキャビン部、その前後にサスペンション関係のコンポーネンツを組み合わせてシャーシとし、そこに、スタイリッシュな外皮を被せて出来上がり、というわけです。4Cのスゴイところは、レーシングカーもかくや、と思われる軽量素材を惜しげなく投じていること。カーボンファイバー(強度に優れるユニディレクションタイプの積層構造)製のコクピット、軽量アルミのサブフレームが腰下を形成し、かつては“プラスチックボディ”と呼ばれたFRPの進化版たるSMC(ガラス繊維強化樹脂)が、魅力的なボディをカタチづくります。
そしてその価格が、クーペの4Cで806万7600円、4Cスパイダーで861万8400円と聞くと、クルマの開発者、レース&チューニング関係の人たちなど、その道の専門家ほど「ありえない!」と驚くのだとか。もちろん「破格に安い!」ということです。
ドアを開けて乗り込もうとすると、ブッ太いサイドシルが、剥き出しのカーボン素材が、クルマの強靱さと軽さを予感させます。スパルタンの一歩手前でまとめられた簡素な室内が男らしい。シンプルだけれどホールド性の高いレザーシートに座っただけで、興奮が高まります! ミドに横置きされたエンジンに火を入れてブリッピングをくれてやると、アルファロメオらしいサウンドが放たれて…。
と、ここまで“アゲアゲな”記事を書いて参りましたが、アルフィスタの皆さま、玄人筋の方々から総スカンを喰らうことを覚悟で、正直に告白しなければなりません。2年ほど前、日本に入ったばかりの4Cに乗せていただいた際には、無責任ないちドライバーの立場から述べますと「あまり感心せなんだ」。
ノンパワーのステアリングがキチンと走り始めるまで重いのは、“ちょっと古い”クルマ好きとしてはむしろうれしいポイントで、雨の日にドライブすると、時に足先のトーボードから水が吹き出てくるのは、まあ、イタリアンスポーツカーに乗る醍醐味ともいえます。が、加速時のスクワット(頭上げ)、減速時のノーズダイブの大きさに加え、コーナリング中にステアリングの重さが変わることに懸念を覚えました。さらに、街乗りであれほど路面の凸凹を伝えてきたにもかかわらず、速度の上昇に比例するかのようにステアフィールが薄れていって、不安感は増すばかり……。
輸入開始直後のファーストロットだったので、セッティングやアライメントが詰め切れていなかったのかもしれません。レーシングドライバーがサーキットでテストしたり、手練れの腕自慢がドライブしたりすると、また違った感想を抱いたのかもしれませんが、ビビリな運転者(←ワタシのことです)は、「ちょっとなぁ…」と困惑したものです。
職業ライターであるなら「いささか古典的だが、野趣あふれるスポーティなドライブフィール」とでもまとめればいいのでしょうが、どうしても「あれやこれや」といいたくなるのが、アルファロメオというブランドを掲げるクルマなのです。さらに身の程もわきまわず、頭の中で4Cに対して批判的な意見が湧き出るのを抑え切れなかったのは、もちろん、事前の期待値が高かったということもありますが、かつて2年間ほど、トミーカイラ「ZZ」というスポーツカーを足にしていた、という個人的経験があったからです。
トミーカイラ ZZは、1990年後半にトミタ夢工房がリリースしたスポーツカー。ブランドの知名度には大きな差がありますが、クルマとしての成り立ちはアルファ4Cと同じです。バスタブ構造を採るアルミ製キャビンの背後に、日産「プリメーラ」用の2リッター直4エンジンを横置きしていました。オープンボディはFRP製。
アルファ4Cよりひと回り小さく、車重も700kgほどしかありませんでしたし、そもそも時代が違うので両車を比較するのは適当ではありませんが、それでも、少量生産車として広い視点から比べた場合、和製バックヤードビルダー(生産は英国でしたが)の方が、ハンドリング面でこなれていた印象があります。
乗り心地もステアリングフィールも“ダイレクト感”ということで一貫していました。クルマとの一体感を持って、峠やサーキットを走ることができました。わざわざキャブレター化したエンジンの恩恵で、スロットルレスポンスも分かりやすくストレート。トミーカイラ ZZ、楽しかったなぁ…。
スイマセン、懐古に流れました……。でも、和製バックヤードビルダーの作品(生産は英国でしたが)と比較して、古豪アルファのそれは、どうも期待どおりではなかったのです。
そんなアルファ4Cの初試乗から2年ほど経って、今回、4Cスパイダーに乗る機会を得ました。車両をピックアップにうかがうと、「スペック表に変わりはありませんが、最低地上高が若干上がったらしいです」と、開口一番、車両担当の方が教えてくれました。
それは朗報です! 最初期の4Cクーペは、市販車としては異常なほどロードクリアランスが不足していて、わずかに傾斜が付いた駐車場から出すだけでも、アゴ下を擦りそうでヒヤヒヤしましたから。
4Cスパイダーは、スパイダーといういかにも開放感の高いネーミングを採りながら、実際のところ、ルーフのてっぺんが外れるだけのタルガトップモデルです。特殊なガラス繊維でカタチづくられたボディシェルは応力を受け持たず、つまり外からの力は、ほぼクルマの腰下だけで跳ね返して吸収してしまうので、頭の上が開いていても、ボディの剛性感に不足は生じません。
あえてサイドウインドウを下ろして街を流すと、いい案配に髪がなぶられて、オープンエアドライブを楽しめます。相変わらず、わだちにタイヤを取られがちで、ステアリングのキャスターアクション(ハンドルを回した後の戻り)が弱いのが気になりますが、足回りのセッティングが見直されたのでしょうか。加減速時に上下するノーズの動きも、以前と比べてだいぶ収まっています。
アルファ4Cスパイダーは、いささか古典的ではありますが、野趣あふれるスポーティなドライブフィールを持ったクルマです。ドライバーは、21世紀のタツィオ・ヌヴォラーリ(往年の名レーシングドライバー)になったつもりで運転するといいかもしれません。ノンパワーのステアリングホイールをしっかり握り、スロットルペダルを踏み込むと、アルファのエンジン音が空から降ってきて、否が応でも気分が盛り上がります! 懐が許しさえすれば、ぜひともガレージに収めたい1台です。
名門アルファロメオは、現在、厳しい状況に置かれています。年間生産台数は10万台ほど。これは、今はなきサーブの往時より少ない台数です。ラインナップも「ミト」、「ジュリエッタ」ときて、いきなり4C/4Cスパイダー。いささかいびつなものです。
4Cシリーズと、すでに生産を終えた限定車種「8C」シリーズは、いずれも同朋マセラティとの協業のもと、世に出ました。かつて、品質も名声も地に墜ちていたマセラティが、フェラーリ傘下で見事に復活を遂げたように、アルファロメオもマセラティの協力によって、立ち直るのでしょうか?
間もなく、高級FRセダン「ジュリア」が日本でもリリースされます。そして昨秋のロサンゼルスモーターショーでは、アルファ初のSUV「ステルヴィオ」も公開されました。この2台に関しても、いろいろいいたいことはありますが、何はともあれ、アルファ、頑張れ!
<SPECIFICATIONS>
☆4Cスパイダー
ボディサイズ:L3990×W1870×H1190mm
車重:1060kg
駆動方式:MR
エンジン:1742cc 直列4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:6MT
最高出力:240馬力/6000回転
最大トルク:35.7kg-m/2100〜4000回転
価格:861万8400円
(文&写真/ダン・アオキ)
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