さて、スバルといえば、AWD(4輪駆動)というイメージをお持ちの方も多いでしょう。事実、2015年にスバルが世界で販売したモデルの98%は、AWD車とのこと。
日本国内に目を向けても、レガシィや「レヴォーグ」、フォレスターなどは、すべてのグレードがAWDという設定で、「インプレッサ」など一部モデルにFF仕様が設定されていますが、販売構成比で見ると全体の89%が、AWD車となっています。
こうしたデータからもAWDに掛ける熱意が伝わってきますが、なぜスバルはこれほど積極的に、AWDを採用しているのでしょうか? スバルのモノづくりは“安心と愉しさ”をテーマに掲げていることも、その理由のひとつでしょう。
スバルでは“人を中心としたクルマづくりで、安心して運転できる。だから、運転することが愉しくなる”という考えに基づいて車両の開発を行っています。それはつまり、ドライバーが安心できる設計や品質はもとより、シチュエーションを問わず信頼できるクルマを理想としているのだと思います。そして、そのためには、AWDをはじめとする先進テクノロジーの数々が不可欠な要素、というわけです。
前置きが長くなりましたが、多くのクルマやドライバーにとって、悪条件である雪上というステージも、スバル車の“安心”や“愉しさ”を体験するには、格好の舞台ということなのです。
テスト会場となった新千歳モーターランドの特設コースには、インプレッサからレガシィ、「WRX」などが集められ、スバルの全AWDシステムを乗り比べることができました。
というと「え、スバルって何種類もAWDがあるの?」と思う方も多いでしょう。本音をいえば、私も車種やメカニズムの組み合わせにはやや困惑していたので、ここで一度、トランミッションとの組み合わせで整理してみたいと思います。
現在、スバルでは、4種類のAWDシステムを用意していますが、そのラインナップはというと…
●AT車
1:アクティブトルクスプリットAWD(ACT-4)
2:電子制御LSD付不等トルク配分センターデフAWD(VTD)
●MT車
3:ビスカスLSD付センターデフ方式AWD
4:モード切換え電子制御LSD付不等トルク配分センターデフAWD(DCCD)
という組み合わせになります。
もちろん、いずれもスバル自慢の4輪駆動システム“シンメトリカルAWD”、すなわち、クルマを上から見た際に、水平対向エンジンを中心としたパワートレーンが、左右対称かつ、一直線に配置されています。
これにより、4輪への荷重バランスが崩れることなく、しっかりとした接地性を確保することができるのですが、車種やグレードによって組み合わされるAWDシステムが異なるのです。
1のACT-4は、現在のスバル車において主流となっているシステムで、レガシィや「クロスオーバー7」、そして、モデルチェンジ間もないインプレッサなどが採用している方式。FWDをベースとする安定性重視のシステムで、トルク配分は前60:後40をベースに、走行状態に応じて前後輪への駆動力配分を細かく調整します。
印象的だったのは、大きなアップダウンのある悪路コースでの「レガシィ アウトバック」の走り。十分な駆動力が掛からないような急な上り坂でのスタートでも、ACT-4が地面を巧みにつかみ、じわりじわりと登り切ります。
また下り坂では、エンジンやトランスミッションのほか、AWDとVDCを統合制御する“X-MODE”によるヒルディセントコントロールが作動。姿勢を崩すことなく、一定の速度で下っていきます。人が下るのも躊躇しそうな急坂での緻密なブレーキ制御は、実に感動的でありました。
例えば、スキー場や降雪地のホテルなどでは、駐車場の出入口付近に急な傾斜が…というコトもありますが、ACT-4とX-MODEがあれば難なく通過できそうです。
2のVTD-AWDは、レヴォーグの2リッター車や「WRX S4」といった、スポーティなAT車用に開発されたシステム。基本的なトルク配分は、前45:後55とリア寄りのセッティングですが、走行状況や路面に応じ、トルク配分は連続可変制御されます。
ドライ路面のコーナリングでは、スムーズかつスポーティなハンドリングを楽しめるVTDですが、一転して、雪上でも安定した走りを披露してくれます。また“腕に自慢のある”方にとっては、アクセル操作でコーナリング姿勢をコントロールできる懐の深さも魅力かもしれません。
さて、3のビスカスLSD付センターデフ方式はというと、現在はフォレスターのMT車のみに設定される方式です。
ビスカスLSDはシリコンオイルの粘性による差動制限装置で、スバルのAWDシステムで唯一、電子制御を用いないシステムとなっています。駆動力は前50:後50が基本で、必要に応じてトルク配分が行われます。
このビスカスLSDタイプのAWDを搭載したフォレスターですが、古典的なシステムでありながら、走破力で決定的に劣るといったところはありませんでした。確かに、X-MODEに代表される電子デバイスなどが一切備わらないベースグレードですが、自然でリニアな乗り味はすがすがしくもあり、スバルAWDの本領を知ることができました。
そして、4のDCCDが採用されるのは「WRX STI」のみということからもお分かりのとおり、こちらは“より良く曲がり、より速く走る”ことを追求したスポーツドライブ向け。“現行モデル”のトルク配分は、前41:後59をベースに不等配分されます。
また、WRX STIが搭載するEJ20型エンジンは308馬力という大出力ですが、そのパワーを余すところなく路面に伝え、かつ、高い安定性を確保すべく、トルク感応機械式LSDと電子制御LSDを組み込んでいます。圧雪路はもちろん、人が歩くことさえ躊躇しそうなミラーバーンでさえ、ググッと曲がり、グイグイ加速します。
さらに、今回の雪上試乗会では、先のデトロイトモーターショー2017で公開された“新たなDCCD”を採用した試作車も用意されていました。この新DCCDは、現行型の機械式+電子制御から、より高度で緻密なコントロールが施された電子制御に一本化したもので、回頭性やハンドリングも向上しているとのこと。
「でも、相当な腕がないと、クルマを振り回すことなんてムリだよね」という方も多いと思います。しかし、ハードな圧雪路面では、低速走行でも違いは顕著で、大きめ舵角を与えてしまうタイトなターンでも、必要な分だけ切り込めば、遅れることなくノーズがスッとインを向きます。雪道と聞くだけで氷以上にカタくなる私でも、違いを感じとることができましたし、ハードなスポーツモデルでありながら、乗りやすさという点でも進化しているように感じました。
今回、一堂に会したスバルAWD車に乗って感じたのは、クルマのキャラクターに合わせ、最も最適なAWDシステムが組み合わされているんだな、ということ。もちろん、スポーツドライブ派のユーザーがACT-4 AWD車に乗る、家族でほっこり長旅派のドライバーがDCCD車に乗る、といった状況でも、何ひとつ不満を感じることはないでしょう。
しかし、クルマ本来のキャラクターに合致したセッティングがあり、それをとことん追い求めようとする姿勢が、おのおののAWDシステムを通じて理解できました。これは、しっかりと“使い手”と“使い方”が見えているからこそ。スバルの“人を中心としたクルマづくり”の一端を、今回のテストで垣間見ることができました。
(文/村田尚之 写真/村田尚之、富士重工業)
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