60年前の炊飯器と最新の炊飯器を食べ比べてみる
実は2015年は家庭用電気炊飯器が誕生してちょうど60年という記念すべき年。お話しをうかがったのは東芝ホームテクノで、炊飯器の開発を担当する「釜仙人」の異名を持つ守道信昭氏です。
家庭用の電気炊飯器として世に最初に登場したのが「自動式電気炊飯器 ER-4」です。これは光伸社(現サンコーシヤ)が開発し、東京芝浦電気(現 東芝)が発売しました。構造は非常にシンプルで、内釜と外釜の間にもう一層あり、そこに水を入れる、“三重釜間接炊き”という仕組みになっています。
スイッチを入れると外の水が沸騰し、その熱で内釜のごはんが炊飯されます。そのうちに外の水が蒸発します。高温になると形が変化するバイメタルスイッチが動作し、電源がオフになり、お米を焦がすことなく炊けるという仕組み。季節による外気温の変化に影響されることなく、一年中ごはんを手間なく炊けるまさに画期的な製品だったそうです。
この電気炊飯器が登場するまでは、ごはんはかまどやガス火で炊くのが当たり前。大卒初任給が1万円前後だった時代に3200円と非常に高価だった自動式電気釜は大ヒットとなり、その後の生活様式を一変させるきっかけになったといいます。
この60年前の電気炊飯器。筆者も実物は見たことはありましたが、その味を確かめたことはありませんでした。しかし、今回東芝ホームテクノに問い合わせたところ、可動する実機があるとのこと。これ是非とお願いし、東芝ホームテクノの最新炊飯器「備長炭かまど本羽釜 RC-10ZWH」と60年前に作られた「自動式電気炊飯器 ER-4」でごはんを炊いて食べ比べてみることにしました。
一緒に食べる「備長炭かまど本羽釜 RC-10ZWH」は上部がすぼまった丸みのある形状により、かまど同様の大きな熱対流を実現した内釜を採用した炊飯器。
この内釜に東芝ホームテクノが従来より採用してきた圧力炊飯技術と、真空技術をプラス。真空ひたしにより、お米に十分吸水させた上で、羽釜ヒーターによりしっかりと連続沸騰させてごはんを炊きあげることができます。
炊飯時に圧力をかけることもあり、“もちもち”とした食感に炊けるのが特徴。もちろん、炊飯前の設定で“しゃっきり”とした食感に調整することもできます。今回は4段階ある設定をしゃっきり寄りの2段階目に設定してごはんを炊いています。
炊きたては60年前の炊飯器も美味しい!しかし最新炊飯器は冷めても美味しい!!
「自動式電気炊飯器 ER-4」は吸水のための機能はもちろん、保温機能なども搭載しないシンプルな炊飯器のため、お米を研いだら、まずは30分ほど吸水させます。そして、スイッチをオン。あとは25分ほど経ってスイッチが切れるまで放っておくだけ。スイッチが切れた後さらに10分ほど蒸らせば炊きあがりです。
しゃもじでしっかりと混ぜて、茶碗によそったごはんは想像とは全く違いました。米粒は艶やかな、しゃっきりとした食感。最新の炊飯器などと比べると甘みや柔らかさはちょっと足りないかなという程度で美味しく食べられました。
続いて、同時に炊きあがった「備長炭かまど本羽釜 RC-10ZWH」のごはんも食べます。こちらは米粒が明らかに大きく膨らんでいて、もちもちとした食感。甘みもハッキリと感じられます。やはり食べ比べると、この60年の年月の進化を感じることができますね。
そしてごはんの味は、時間が経つにつれて変化していく。驚いたことに「自動式電気炊飯器 ER-4」で炊いたごはんは、ほんの30分ほど経過しただけで、明らかに固くなっていました。お米が完全に冷めた頃には、表面はもちろん芯に固さが残るボソボソ感のあるごはんになってしまったんです。
しかし、やはり最新炊飯器はスゴいです。「備長炭かまど本羽釜 RC-10ZWH」も同じく炊飯後にはコンセントを抜いていたんですが、保温効果が高いため、30分経っても内釜の中はホカホカです。さらに、茶碗によそって冷ましたごはんも、柔らかく食べやすいのです。このごはんなら、お弁当に入れても美味しく食べられそうです。
守道信昭氏によると「家庭用炊飯器はこれまでずっとかまどで炊いたごはんの味を求めて進化してきた」と言います。1978年には早くも「かまど炊き」という愛称を持つ「RCK-100FP」を製品化。より美味しく炊ける炊飯器を実現しています。
そして、その後炊飯器はマイコンの搭載、そしてIH加熱の採用などにより進化を続けます。さらに東芝ホームテクノの炊飯器では炊飯時に圧力を掛ける圧力炊飯と内釜から空気を抜く真空技術を採用しているのが特徴です。
最新炊飯器の味は「かまど」で炊いたごはんに肉薄
東芝ホームテクノで炊飯器の開発を進める守道信昭氏は、かまどで炊いたごはんの味を追求するため、何度もかまどでごはんを炊き、調べ、食べたそうです。しかし、かまどでごはんを炊くといってもなかなかに大変。会社にかまどを作ることはできませんし、また、かまどで上手にごはんを炊くのにも高い技術がいります。
そこで守道氏が目を付けたのが分解でき、好きな場所に運べる「ぬか釜」です。これは燃料に脱穀時にとれる籾殻をつかったもの。守道氏はこの「ぬか釜」を使ってかまどごはんを炊く技術を新潟県魚沼市の農家などから伝授され、実際に自身で何度も炊きながら研究を重ねたそうです。
こうなると気になるのが、かまどごはんと最新炊飯器の味はどこまで違うのかということ。そこで、再びお願いして、「ぬか釜」でかまどごはんを炊いてもらいました。
さすがにかまど炊きとなると準備も大変。ぬか釜をセットし、新潟より取り寄せた籾殻を内部にセットして行きます。しっかりと火が付いたら、その上に羽釜をセット。今回は美味しく炊ける最小容量ということで、2升を炊きます。
羽釜をセットして20分もすると羽釜とフタの隙間から蒸気が漏れはじめ、そしてだんだんお米の香りが周囲に漂い始めます。火かげんを調整しつつ、かまどごはんの炊きあがりです。フタを取ると、周囲にお米の甘い匂いとわずかな香ばしさが広がります。それだけで、すでに美味しそうです。
では、実食です。東芝ホームテクノの最新炊飯器「備長炭かまど本羽釜 RC-10ZWH」でも、同じお米をタイミングを合わせて炊いておきました。
まずはかまどで炊いたごはん。一番の違いは香りです。炊きたてをすぐに嗅いだときと同じく、お米の香りが強くその中に香ばしさが含まれていて、非常に食欲をそそります。これは羽釜の底におこげができているため、そのおこげの香りが移っているとのことです。
また、お米もふっくらしていて甘みがあり、ツヤのできも上々。さすがのかまどごはんという出来でした。しかし、かまどで炊いたごはんにはちょっと残念な部分もありました。それが「場所によって状態が違う」ということです。羽釜の下の方は若干べっちゃりしていたり、お米がつぶれているところがありました。
守道氏によると、この日は風が強く火力があまり強くならなかったため、一部がべっちゃりしてしまったそう。過去の経験からすると、この日のかまど炊きごはんの出来は「10段階中7」という評価でした。
そして炊飯器で炊いたごはんも同時に食べてみます。先に述べた通り、香りはかまどの方が食欲をそそります。ただし、全体的なバランスは決して負けていません。かまどごはんの一番いい部分と比べても決して遜色のない食感だと感じました。
「炊飯器で炊いたごはんも8点ぐらいにはなっていると思う。最高の出来のかまどごはんにはかなわないかもしれないけど、環境に影響されるかまどでは、常に8点はとれません」と守道さんは語ります。
電気炊飯器は、いつでも誰でも、「おまかせ」で手軽に美味しいご飯を炊けるように進化してきました。今やその味は、かまど炊きごはんと比べても遜色のないレベルに達しています。電気炊飯器誕生から60年間の英知が注ぎ混まれていると考えると、最新炊飯器で炊いたごはんは、どんどん美味しくなっているように感じます。
(文/コヤマタカヒロ)
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