ジャガーとランドローバー。イギリスが生んだこの2大高級車ブランドは、今ではともに、インド・タタ社の傘下にある。とはいえ、両ブランドの棲み分けは明確だ。
2015年にジャガーが発売した「F-PACE」は、ジャガーにとって初のSUVだった。合理性とかコスト面を考慮すれば、同じグループに属すランドローバーの車種、例えば「ディスカバリー」や「レンジローバー」の技術、コンポーネンツ類をそのまま流用してF-PACEを仕立てたとしても、なんら不思議ではない。
しかし、ジャガーとランドローバーはその手法を採らなかった。理由は、タタがジャガーもランドローバーも、そしてイギリスも、ものすごくリスペクトしているからだと思う。
かつて、ジャガーがフォードの傘下だった時代(ランドローバーも一時期、フォードの傘下にあった)、フォードはジャガーに対し、「モンデオ」のシャーシやエンジンを流用し、コンパクトサルーンの「Xタイプ」を作るよう指示した。しかし、鳴り物入りでデビューしたXタイプのセールスは鳴かず飛ばずで、ジャガーの経営状況も悪化。結局フォードは、ジャガーをタタへと売却することになった。
一方のタタは、おそらく、ジャガーの魅力ってなんだろう? ランドローバーの真価はどこにある? ということを、両ブランドの担当者たちなどからヒヤリングし、きちんと考え、それを具現するにはいくら投資が必要なのかを判断した上で、さまざまな開発にゴーサインを出している。それを証拠に、ジャガー、ランドローバーのハードウェアは、フォード傘下時代より確実に進化。両ブランドに対する人々の評価も高まってきている。
このように、親会社に恵まれたジャガー、ランドローバーの人気モデル、F-PACEとレンジローバーの実力を、先日、大雪の中で試してきた。
まず、2015年にデビューしたジャガー初のSUV、F-PACEに乗る。このモデル、ドライ路面においては後輪に多くの駆動力を配分するなど、FR車的なスポーティな動きを重視しているのが特徴だ。ステアリングを切り始めた時の車体の動きはとてもクイックで、F-PACEの“F”が本格スポーツカー「Fタイプ」の頭文字から引用された事実を明確に物語る。
そんなF-PACE最大の個性も、路面のミューが低い雪上においては、若干、薄まったように感じた。とはいえやはり、コーナーを抜けようとしてアクセルを踏み込んだ時の車体の動きは、前から引っ張られるのではなく、あくまでも後ろから押されていくFR車的な感覚。そのため、コーナー入口で姿勢を整え、ヨー(回転運動)を生じさせてからアクセルを踏む、といったアクションをドライバーが上手にやってあげないと、うまく走ってくれないように感じた。
でもその分、一部の腕の立つドライバーにとっては、とても楽しめる特性に仕上がっている。徹頭徹尾、ビシッと安定しているのではなく、アクセル操作で車体の姿勢をコントロールする自由度、いい換えれば、ドライバーが手綱を握っている感覚が強いのが、雪上におけるF-PACEの個性だ。もちろん、最新モデルだけに安全デバイスはフル装備されているから、不意に滑り出して制御不能になるといった状況にはなりにくいので、ご心配なく!
対するレンジローバーは、どんな過酷な状況においても、抜群の走破力を発揮する。今回、レンジローバー用として、雪上のモーグルコースが用意されていたが、深いわだちなどにタイヤが入り込んでも、ストロークの長いエアサスペンションは可能な限り、路面をつかみ続けようとしてくれるため、難なく脱出できるのだ。
さらにレンジローバーには、草地・砂利・雪・泥・わだち・砂地・岩場といった走行環境を絶えずチェックし、足回りなどのセッティングを自動的に最適化する“テレイン・レスポンス2オート”が搭載されている。今回のような“ちょっとヘビー”というレベルの路面状況ならば、正直、同機能はオートに入れっぱなしでも問題なく走破できてしまう。そのレベルの高さは、普通にスキー場の駐車場へ乗り付けるようなシーンくらいでは、決して使い切れないものだ。
でも、別荘を所有しているような人は、レンジローバーが誇る抜群の走破力の恩恵にあずかれるシーンがあるかもしれない。例えば、除雪されていない別荘地の道、おまけにそこが、急勾配だったとしたらどうか? 普通のSUVでは、スタックして動けなくなるかもしれないが、そんな過酷な状況でも、レンジローバーだったら楽に走破できる気がする。サスペンションがしっかり路面をつかむから駆動力が十分にかかるし、車高が高いから床面を擦る心配も少ない。
別荘の前までクルマを横付けできるか、100m手前で泣く泣く停め、荷物を抱えながら雪をかきわけて別荘を目指すか……、これは大きな違いだ。わずか100mとはいえ、オーナーならば「ああ、レンジローバーに乗ってて良かった」と実感できる瞬間だと思う。日常的なシーンにおいて、その4駆性能はオーバースペックかもしれないが、こうした極限の状況でこそ、レンジローバーは光り輝く。
レンジローバーのオーナーくらいなら、別荘を所有していても決しておかしくはない。そういった、どこまででも確実に、安全に、そして、快適にオーナーを運んでくれる頼もしさ、それこそがレンジローバーのすごさであり、個性だ。富裕層のライフスタイルには必要不可欠な性能を備えたレンジローバーは、まさに、ユーザーのライフスタイルを鑑みて、技術やクルマの開発を行っているように思える。だからこそレンジローバーは、世界の富裕層から支持され続けているのだろう。
今回、過酷な環境でドライブし、2台ともに魅力的に感じたのは、同じグループに属していながら、両モデルのキャラクターの棲み分けがきちんとできているからだろう。それぞれのブランドのイメージ、そして、その先にいるオーナーの姿までをも思い描き、技術やクルマ自体の開発を行っているように思える。F-PACEとレンジローバー、そして、ジャガーとランドローバー。それぞれが対極にいる存在だからこそ、互いに切磋琢磨できるし、その相乗効果で光り輝けるのだろう。
<SPECIFICATIONS>
☆ジャガー F-PACE 35t R-SPORT
ボディサイズ:L4740×W1935×H1665mm
車重:1980kg
駆動方式:4WD
エンジン:2994cc V型6気筒 DOHC スーパーチャージャー
トランスミッション:8AT
最高出力:340馬力/6500回転
最大トルク:45.9k-m/3500回転
価格:849万円
<SPECIFICATIONS>
☆ランドローバー レンジローバー オートバイオグラフィ
ボディサイズ:L5005×W1985×H1865mm
車重:2550kg
駆動方式:4WD
エンジン:4999cc V型8気筒DOHC スーパーチャージャー
トランスミッション:8AT
最高出力:510馬力/6500回転
最大トルク:63.8kg-m/2500回転
価格:1676万円
(文/岡崎五朗 写真/&GP編集部)
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