プリウスPHVは“普通”のハイブリッド車である「プリウス」と比べ、容量比で約10倍のバッテリーを積み、外部からの給電に対応したクルマです。
満充電の状態なら、68.2km(カタログ値)までEV走行、つまり、ガソリンエンジンを使わず、電気モーターだけで走ることができます。この数値は、日本の場合、約8割のユーザーの行動範囲をカバーできる航続距離、なのだとか。つまり、8割ほどのプリウスPHVオーナーは(充電さえしておけば)、愛車を“ピュアEV”として使うことができるわけです。
ご存じのように、ハイブリッド車である“普通”のプリウスも、時には“余技”として、電気モーターだけで走れます。早朝、ご近所の人たちに気兼ねなく、ガレージからクルマを出すのに便利な“EVモード”ですね。でも、メインはあくまで、エンジン+電気モーターによるハイブリッド走行。“THS II(リダクション機構付き)”ことプリウスのハイブリッドシステムは、ガソリンエンジンと電気モーター、バッテリー、そして充電機の、有機的な結びつきが“キモ”です。
一方、プリウスPHVは、EV走行がメイン。これまで電気モーターが苦手としていた高速走行も見事に克服し、135km/hまでEV走行のまま駆け抜けられます! EV走行のまま家を出て、市街地を行き、そのまま高速道路へ駆け上がってドライブを続ける、なんてこともできるんです!!
もちろん、センターコンソールにある“HV-EV”ボタンを押すことで、ガソリンエンジンを用いたハイブリッド走行に切り替えることも可能ですが、プリウスPHVの場合、むしろこちらの方が“余技”。極端ないい方をすると、プリウスPHVのハイブリッドシステムは、バッテリー残量が寂しくなった時に、さらに走行距離を延ばすための“エクステンダー”。はたまた、たまに長距離ドライブを楽しむための保険…それくらいのつもりで考えていないと、プリウスPHVを所有する意味はない、のかもしれません。
プリウスとプリウスPHV、両車の中堅グレードである「A(標準仕様)」を例にとって、ハイブリッド走行時の燃費(JC08モード)を比べると、どちらも37.2km/Lで変わりません。当たり前のことながら、プリウスPHVは大きなバッテリーを前もって充電してEV走行することで、価値が飛躍的に高まるのです。
バッテリー容量以外では、プリウスPHVとプリウスの、機構面での違いは大きくふたつ。ひとつは、プリウスPHVには外部からの給電に対応するために、充電装置が追加されていること。プリウスPHVは、100V電源(6A/充電時間は約14時間)、200V電源(16A/同約2時間20分)のほか、急速充電にも対応しています(約20分で約80%まで充電)。
そして、もうひとつの違いは、EV走行時にクルマを動かすモーターがふたつになったこと(“デュアルモータードライブ”)。正確には、従来の駆動用モーター(72馬力)にプラスして、これまでジェネレーター(発電機)として用いていたデバイスを、走行用モーターとしても使えるようにしています(31馬力)。結果、ガソリンエンジンの力を借りる必要が減り、EV走行がグッと力強くなったのです! ちなみに、1.8リッター直4エンジンのアウトプット(最高出力98馬力/最大トルク14.5kg-m)は、プリウスとプリウスPHVとで共通です。
さて、気になるプリウスPHVの価格ですが、単純比較で、“普通”のプリウスよりざっと60万円〜130万円ほど高くなっています。急速充電機構をオプションとしたベーシックな「S」が326万1600円から。中堅の「A」が380万7000円から。カラーヘッドアップディスプレイ、本革内装などをおごった豪華版「Aプレミアム」が422万2800円。助手席回転チルトシートを装備したウェルキャブ仕様も342万9000円から用意されます。
当日、試乗用に用意されたのは、最上級のAプレミアム。エンジンに火を入れ…ではなく、電源を入れて走り始めると「オッ!?」、意外と“ゲインが高い”。ステアリング操作に対する反応がハッキリしていて、なかなかスポーティです。
これは、試乗車がオプションの17インチホイールを装着していたため。タイヤサイズは215/45R17と幅広く薄いタイプで、ブリヂストンの「TURANZA(トランザ)」という、比較的パフォーマンス重視の銘柄を履いています。ホイール径を大きくした“見た目だけのスポーティ”ではないんですね。
ただし17インチタイヤを選ぶと、ハイブリッド走行時の燃費が37.2km/Lから30.8km/Lに、EV走行での航続距離が68.2kmから55.2kmに落ちます。スタイル&スポーティをセレクトする場合、ちょっとした覚悟が必要かもしれません!? ひるがえって、ノーマルの15インチ(195/65R15)モデルが、タイヤの銘柄を含め、いかにエコ走行に最適化されているか、という証でもあります。
プリウスPHVは、ハイブリッドモデルより150kgほど重くなっているので、サスペンションも相応に強化されていますが、開発当初からPHVモデルの追加が織り込まれていたので、土台となるプラットフォームは変わりません。
それでいて外観は、燃料電池車である「ミライ」のテイストを採り入れて、ハイブリッドモデルとの差別化を図っています。
先代のPHVモデルは、ハイブリッドモデルとほとんど違いのないそのスタイルが、いまひとつ人気が出なかった原因のひとつとされていましたから、新型は、ハイブリッドモデルとの差別化と、より先進的なイメージの取り込みを狙ったのでしょう。
内装では、縦長の11.6インチディスプレイが印象的。「S ナビパッケージ」以上のグレードに装備されます。
プリウスPHVの走りは、スムーズで力強いもの。高級感があります。ちょっと意地の悪いいい方をすると、コレは、大量のバッテリーを積んだ重いボディを、低回転域から途切れなく大きな力を出せるモーターで走らせる、電気自動車に共通するドライブフィールです。でも、プリウスPHVでは、いわゆる“電欠”(バッテリー切れ)を気にすることなく、また、ハイブリッドモデルのようにガソリンエンジンの介入で興を削がれることなく、EV走行を堪能できるのがいいですね。いかにも“次世代カー”に乗っている感じです。
プリウスが乗車定員5名の実用車であるとしたら、プリウスPHVは、贅沢にも、より余裕を持たせた4人乗りです。左右に分かれたリアシートに座っていると、これぞ「技術立国のポリシーから登場した新世代カー」と感慨を覚えます(ちょっと大袈裟)。
プリウスPHVには、単眼カメラとミリ波レーダーを活用した安全装備“トヨタ セーフティ センスP”を全車標準装備するほか、クルマ自体を電力供給源とする“EV給電モード”“HV給電モード”を使えば、新しいカーライフを楽しめます。トヨタスマートセンターとネットワークしてサービスを受ける“T-コネクト”も見逃せません。愛車の状態を、離れた場所で確認できるスマートフォン用アプリケーションも用意されています。
目に見える“先進性”をさらにアピールするには、ルーフに太陽電池を敷き詰めた“ソーラー充電システム”がオススメ(「S ナビパッケージ」と「S」にオプション装備/28万800円)。最大で6.1km分の電気が太陽光から得られます。
そうそう、プリウスPHVを自宅に迎え、お得に、かつ快適に使うには、200V電源の工事を検討した方がベターです。「せっかくPHVをわが家へ迎えるのだから、充電器の種類や設置場所は吟味したい」…。長屋住まいの身には、そうした検討を具体的にできる人たちが、ちょっぴりうらやましい…。
<SPECIFICATIONS>
☆Aプレミアム
ボディサイズ:L4645×W1760×H1470mm
駆動方式:FF
エンジン:1797cc 直列4気筒 DOHC
トランスミッション:電気式無段変速機
エンジン最高出力:98馬力/5200回転
エンジン最大トルク:14.5kg-m/3600回転
モーター最高出力:72馬力/31馬力
モーター最大トルク:16.6kg-m/4.1kg-m
価格:422万2800円
(文&写真/ダン・アオキ)
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