実車と対面して真っ先に感じたのは、スポーティさとフォーマルさを巧みに兼備した、エクステリアデザインのエレガントさ。と、同時に「あれ? この顔つきはどこかで見たような…」という印象を抱きました。
そう、5シリーズと並び、BMWの基幹モデルである「3シリーズ」、「7シリーズ」と同様、フロントのキドニーグリルとヘッドライトとがつながったのです。「こうなると、一見しただけでは3シリーズと区別がつかないのでは?」と、気にされるオーナー予備軍もいらっしゃるかもしれませんが、そこは心配ご無用。全長4945mm、全幅1870mmという、先代比でプラス30mm長く、同プラス10mm拡大されたボディや、彫りの深い2本のキャラクターラインを設けた伸びやかなサイドスタイルにより、遠目にもミドルクラスサルーンらしい風格をしっかりと感じられます。
欲をいえば、5シリーズだけのディテールがあってもいいのかな、とは思いますが、レクサスをはじめ、後発ブランドが台頭しつつある昨今としては、無闇に冒険することなく、老舗プレミアムブランドとして製品イメージの統一を図ることも、欠かせないテーマなのでしょう。
もちろん、シャープな眼差しを思わせるヘッドライトの意匠からはBMWらしさを感じますし、美しいルーフラインもスポーティさを上手くアピール。「さすがBMWだな」と十分納得できる、品格漂うスタイルを成立させているのは間違いありません。
インテリアの仕立ても、凛々しさが増した外観にふさわしく、上質かつモダンにまとめられており、レザーやウッド、光沢を抑えたクロームといったマテリアルの使い分けも、実に洗練されています。
また、些細なことではありますが、レバーやスイッチなどの視覚から受ける印象と、実際の感触や操作感にズレがないのも、さすがBMWといったところ。一見するとキラキラ豪華なパーツなのに、触れるとなんともプラスチックっぽい…、なんていう見栄え重視の肩透かしは、新5シリーズには一切ありません。
さて、最初にキーを受け取ったのは、1995ccの4気筒ディーゼルターボエンジンを搭載する523d ラグジュアリー。もはやこのクラスともなると、ディーゼルユニットの“ノイズ”について語るのはナンセンスとばかりに、車内外とも十分な静粛性を実現しています。
しかし、BMWは完全なる無音を追い求めているわけではないようで、右足の動きに呼応して、軽やかでツブの細かいディーゼル“サウンド”がかすかに聞こえてきます。でも、音量そのものは極めて控えめですし、むしろ小さくハミングするような音質は心地よくもあります。雑味を取り除き、ドライバーにエンジンの状態をイイ音で伝える…、この辺りのBMWの絶妙なサジ加減には、思わず膝を打つ、という感じでしょうか。
この4気筒ディーゼルエンジン、最高出力は190馬力、最大トルクは40.8kg-mと、スペックは標準的ですが、8速ATとの相性が良好で、信号からのスタート時や中速域からの加速は、軽快にして伸びやか。先代比でマイナス60kgのダイエットを達成した1700kgのボディと、しなやかな足まわりも効いているようで、交差点の右左折においても、体感的にはひとクラス軽量なモデル乗っているかのように感じます。
しかし、誤解して欲しくないのは、“軽さ”は感じるけれど“安っぽさ”は一切ないという点。淀みなくあふれるエンジントルクと、トランスミッションのシームレスな変速マナー、こうした要素に、アルミやマグネシウムを各部に採用した軽量・高剛性ボディが一体となることで、軽やかで気持ちのいい走りを実現しているのです。こうした走行感覚の巧みな味つけは“走る・曲がる・止まる”のすべてに貫かれており、ステアリングフィールやブレーキのタッチも、“しっとり濃厚なのに爽やかなキレ”といった、ちょっとお高いドイツビールで感じられる風味のようでした。
一方、2998ccの直列6気筒ターボを積む540i Mスポーツはというと、BMWサルーンファンの多くが望むであろう、ひとつの理想形であると感じました。
今日、最高出力340馬力、最大トルク45.9kg-mという数字だけを見れば、横に並ぶクルマは少なくありません。でも「クルマってスペックだけじゃ判断できないよな」と、あらためて痛感させてくれるだけのパフォーマンスとクオリティを実現。さらには、BMWらしいサウンドの演出もありました。
エンジンを始動させ、ゆるゆると走り出す…という領域では、車内に聞こえてくるのは直6エンジンが発するかすかな低音のみ。そこからタウンスピードで流す限り、静粛性はクラストップレベルにあるといえるでしょう。しかし、アクセルペダルを大きく踏み込めば、金属的でビートの効いたサウンドを奏でつつ、背中で車速の伸びをしっかりと感じられるほどの加速を披露してくれます。
もちろん、ただ暴力的にスピードが伸びるということはなく、ドライバーのスロットル操作に対し、加速感とサウンドの連携が実に秀逸なのです。サルーンといえば“無味乾燥、エンジンの個性などどこへやら”といったクルマも少なくありませんから、新5シリーズはこうした基本的な味わいだけでも、十分に“買い”といえる存在なのは間違いないでしょう。
と、ここまで書いてきて、新5シリーズのもうひとつのハイライト、というのもいかがかと思いますが、BMW最新の“運転支援システム”についてもご紹介しておきましょう。
BMWオーナーにはすでにお馴染みの“ドライビング・アシスト・プラス”ですが、今回のモデルチェンジに当たり、大幅な機能強化が図られました。新型では、ルームミラー内に2基のステレオカメラを内蔵し、さらに、ミリ波レーダーセンサーを前方に3基、後方に2基装備。急停止や飛び出しを検知した場合のサポートだけでなく、部分自動運転も可能となりました。
このドライビング・アシスト・プラスを構成する機能としては…
1.ステアリング&レーン・コントロール・アシスト
2.アクティブ・サイド・コリジョン・プロテクション
3.後車追突警告
4.クロス・トラフィック・ウォーニング
5.ACC(アクティブ・クルーズ・コントロール)
6.レーン・ディパーチャー・ウォーニング
7.レーン・チェンジ・ウォーニング
8.前車接近警告機能
9.衝突回避・被害軽減ブレーキ
10.アクティブ・プロテクション
となっており、このうち、1から4が新たに搭載された機能となります。
中でも“ステアリング&レーン・コントロール・アシスト”は、車線と前方車両を検知し、車両が車線の中央付近を走行するよう、ステアリング操作のサポートを行う機能ですが、渋滞時には前走車を追従する機能も備えています。つまり、5の“ACC(アクティブ・クルーズ・コントロール)”と組み合わせることで、高速道路などではステアリングに手を添えているだけで、ほぼ自動で走行できる、ということになります。
また“アクティブ・サイド・コリジョン・プロテクション”は、車両側面の交通状況を監視。走行中の車線に他車が入ってきた時など側面衝突の危険性が高まった場合には、ステアリング操作に介入することで衝突を回避するなど、危険を避ける機能もかなり進んだシステムといえるでしょう。このように、多彩なドライビングアシスト機能が組み合わさることで半自動運転が可能となったのも新5シリーズの特徴ですが、これらは5シリーズに搭載されるアシスト機能の一部に過ぎず、標準装備リストには、現在思いつくかぎりの電子デバイスがズラリと並んでいます。
ドライビングをサポートする各種機能、高度な安全装備は、今日のクルマにとって欠かせないものであることは事実でしょう。その一方で、新5シリーズは操る楽しさも大きく向上しており、ひとたびドライバーズシートに収まってしまうと「ドライビングの楽しさを味わうことなく、機械に委ねていいのだろうか?」という気持ちになるのも事実です。アシスト機能が無粋に介入してこない点には、BMW一流のサジ加減を感じますが、今まで以上に「自分の意思でもっと走らせたい!」と強く感じたのも、また事実なのでした。
<SPECIFICATIONS>
☆523d ラグジュアリー
ボディサイズ:L4945×W1870×H1480mm
車重:1700kg
駆動方式:FR
エンジン:1995cc 直列4気筒 DOHC ディーゼル ターボ
トランスミッション:8速AT
最高出力:190馬力/4000回転
最大トルク:40.8kg-m/1750~2500回転
価格:745万円
<SPECIFICATIONS>
☆540i Mスポーツ
ボディサイズ:L4945×W1870×H1480mm
車重:1760kg
駆動方式:FR
エンジン:2997cc 直列6気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:8速AT
最高出力:340馬力/5500回転
最大トルク:45.9kg-m/1380~5200回転
価格:986万円
(文&写真/村田尚之)
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