ロードスター RFは、初めて写真を見た時から「なかなかカッコいいじゃないか!」と気になる存在でした。何より気になったのは、カタログにも謳われている“ファストバック”と呼ばれるデザイン。
これは、キャビン上部からリアエンドに向かって、なだらかに傾斜するルーフラインを持つスタイルで、スポーツカーとしては古典的なフォルムでもあります。確かにRFを前方から眺めると、典型的なファストバックなのですが、実車の周囲を回ってみると、そのエクステリアが実に巧みな筆さばきで描かれていることに気づきます。
全体的なカタチとしては、古典的なロングノーズとコンパクトなキャビン、これをファストバックスタイルでまとめ上げています。しかし、後方から眺めると、絞り込まれるように収束するルーフとリアピラーのシャープなライン、張り出したリアフェンダーからトランク部分へとつながる立体的な面構成…など、ただの古典とは一線を画す、現代的でクリーンなスタイルを実現しています。
また、眺める角度によっては、力強くも、繊細にも映りますが、どこから見ても破綻のない二枚目なたたずまいに「マツダ、やるなぁ…」と、そのデザイン力に感心させられるのですが、これはまだRFの魅力の序章に過ぎません。
ロードスター RFのハイライトといえば、リトラクタブルハードトップと呼ばれる電動開閉式のルーフ。オープン時はルーフ上部とリアウインドウがキャビン後方に格納されますが、そのメカニズムが実によくできているのです。
ルーフの開閉動作は、大きく3つのパートに分かれます。開く時は「リアピラー部が一体で後方上部へと持ち上がり」、「ルーフとリアウインドウが3分割されて“くの字”に畳まれ」、「再びピラー部分が降りてくる」という流れで、クローズする際はその逆の動作となります。
この開閉アクションですが、ある動作が完了する前に次の動作がオーバーラップしてスタートすることで、世界最短となる“約13秒”での開閉を実現しています。急な降雨にもすぐに対応できる、といった実用面でのメリットはもちろんですが、流れるように行われる一連の開閉アクション、その美しい所作も、RFの見どころといえるでしょう。
さて、今回はスポーティグレード「RS」のMT車に加えて、上質な装備にこだわったグレード「VS」のAT車という、2モデルに試乗しましたが、各々、なんとも悩ましい魅力をたたえていました…。
RFのエンジンは、全モデルとも排気量2リッターの直列4気筒DOHCで、最高出力は158馬力、最大トルクは20.4kg-mというスペック。1.5リッターのソフトトップ仕様に比べると、車重は約80kgほど増えていますが、プラス27馬力、プラス5.1kg-mという値は、それを補うには十分といえるでしょう。
ただし、1.5リッターの“トップエンドまで回して楽しむ”というキャラクターとは異なり、“低中速からトルクを生かした走りを楽しむ”という印象です。では、面白みに欠けるのか? というと、そんなコトはなく、スロットルペダルの動きに呼応するリニアな車速の伸びは、2リッターならでは。プラス500ccの余裕をしっかり感じられる味付けとなっています。
最初にコクピットに収まったのは、スポーティグレードのRSで、トランスミッションは6速MTのみの設定です。ビルシュタイン製のショックアブソーバーが採用されるほか、シートもシェイプの深いレカロ製が備わるなど、スポーツカー好きの趣味心をくすぐる装備も魅力です。
走り始めて真っ先に感じたのは「ガッチリ、たくましいな」ということ。ソフトトップのボディもしっかりとしていますが、RFでは増加した重量が重厚な乗り味を演出する一助となっているようです。足まわりも、ソフトトップ仕様より1インチ大きい17インチタイヤが標準となりますが、ビルシュタイン製ショックアブソーバーの動きはしなやかで、高速の目地段差でも不快な振動がシートやステアリングに伝わることもありませんでした。また、ルーフを閉じた状態では、車外からの雑音が大幅に遮断されることも、静粛性の向上だけでなく、剛性感という点において、いい方向に作用しているのは間違いないでしょう。
ちなみに、オープン状態ではリアウインドウも格納されるため、ドライバーの顔周辺ではしっかりと風の流れを感じます。しかし、タウンスピードから法定速度で走る高速道路では「やっぱりオープンはこうでないとね」という程度で、不快な風の巻き込みや耳障りな風切り音などはありませんでした。
ドライブしてひとつだけ気になったのは、冷間時にシフトレバーのタッチがやや渋いかな、ということ。もちろん、始動直後の数分間だけ慎重な操作を心掛ければ、今日のMT車の中では群を抜くカチッと節度感のあるシフトフィールを楽しめますから、エンジンとトランスミッションを労わるためにも、ムリせず各部が暖まるの待ちましょう。
続いて乗り込んだのは、赤褐色に染められた上質なナッパレザーを使用したシートなど、上質さにこだわったVSの6速AT車です。
“マシーングレープレミアムメタリック”のボディカラーは、先に試乗したRSと同じですが、高級グランツーリズモを思わせるこのインテリアカラーも、RFの個性的なデザインと調和が取れているのではないでしょうか。「デミオ」や「CX-3」しかり、こうした大人の心をくすぐるコーディネートは昨今のマツダの得意ワザですが、RFも「お見事!」とばかりに、ついニヤリとしてしまいました。
街中から高速道路までドライブしての印象は、結果からいえば、こちらも「お見事!」。トルクコンバーター式のATと聞くと、ダイレクト感に乏しいのでは? という印象をお持ちの方も多いかと思います。しかし、クルマまかせの変速でもなかかなの切れ味ですし、ステアリングに備わるパドルスイッチによる変速では、タイムラグや滑りを感じることなく「スパッ!」と気持ちのいいシフトチェンジが可能です。
ちなみに、100km/h巡航時の回転数は、MT車が約2450回転なのに対し、AT車では1750回転ほど。そこからの加速ではMT車が勝りますが、巡航中の静粛性や快適性はAT車が有利という感じです。つまり、常にスポーツカーらしいドライビングを楽しみたいならMT車、グランツーリズモとして長距離クルージング、そして、時にはワインディングも楽しみたいという向きにはAT車がオススメ、といったところでしょうか。
「スポーツカーはMT車でしょ!」というのも、ひとつの真理だと思います。筆者個人も、ソフトトップ仕様より骨太になったロードスターの走りを、よりダイレクトに感じるならMT車がベターだと思います。しかし、リトラクタブルルーフと2リッターエンジンにより、シチュエーションを問わず“快適性”と“トルクフルな走り”を手に入れたことで、ATもより魅力的な存在と映りました。「AT限定免許だから仕方なく…」という消極的な理由で選ぶのではなく、MT免許の方も一度試して損がないのが、ロードスター RFのAT仕様だと思います。
<SPECIFICATIONS>
☆RS
ボディサイズ:L3915×W1735×H1245mm
車両重量:1100kg
駆動方式:FR
エンジン:1997cc 直列4気筒 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6速MT
最高出力:158馬力/6000回転
最大トルク:20.4kg-m/4600回転
価格:373万6800円
<SPECIFICATIONS>
☆VS
ボディサイズ:L3915×W1735×H1245mm
車両重量:1130kg
駆動方式:FR
エンジン:1997cc 直列4気筒 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6速AT
最高出力:158馬力/6000回転
最大トルク:20.4kg-m/4600回転
価格:359万6400円
(文&写真/村田尚之)
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