アウトランダー PHEVは、いうまでもなく、三菱自動車が誇るプラグインハイブリッド車。同社では、特にプラグインハイブリッド“EV”と呼んで、EV(電気自動車)の側面を強調しています。
具体的には、ミッドサイズボディの床下に駆動用バッテリー(リチウムイオン電池)を並べ、フロントとリアに置かれたふたつのモーターがアウトランダー PHEVを走らせます。事前に充電を済ませておけば、60.8km(最上級グレードのSエディションは60.2km)まで、ピュアなEVとして走行可能。一方、バッテリーを使い果たして止まってしまう“電欠”の心配はいりません。
同車は、2リッター直4エンジンを搭載しているので、必要に応じて発電機を回して駆動用の電力を得たり、車内のバッテリーを充電したり、時にはエンジンが主役となってアウトランダー PHEVを走らせます。EV走行とハイブリッド走行を、上手に案配しているんですね。
とはいえ、せっかくプラグインハイブリッドEVを購入したのなら、できるだけ「EVとして走らせたい」と思うのが人間の心理というもの。電気自動車共通の美点として、アクセルペダルの踏み始めから力強く、スムーズな加速を得られ、かつ重めの車重を利して、しっとりとした乗り心地でクルマを走らせる特性があります。なろうことなら、無粋なエンジンにジャマされる(!?)ことなくEV走行を堪能したいと、オーナーの人が考えても不思議はありません。
ちょっとハナシはズレますが、純粋に効率を追求した場合、必ずしも「連続したEV走行がベスト!」というわけではないのです。もちろん、想定する走行距離によって結果は異なりますが、近所の買い物や近場の通勤に使うレベルだったら、重いバッテリーをたくさん積んでEVとしての航続距離を延ばすよりも、搭載するバッテリー量を減らして車重を抑え、その上でエンジンとの協業を増やして、バランスよく“最適解”を探った方が、結果的に環境に優しい場合が多いのです。EVとしての航続距離を、あえて26.4kmに抑えたトヨタの初代「プリウス PHV」は、そうした考えに則ったクルマでした。
ところが“商品”としてクルマを見た場合「エンジンが頻繁にかかるようなら、普通のハイブリッドモデルで十分」と感じる人が多数派でしょう。先日リリースされた新型プリウス PHVが、EVとしての航続距離を、アウトランダー PHEVのそれに近い68.2kmに設定したのは、そうしたユーザー心理をくみ取った結果です。航続距離が60kmあれば、日本の自動車ユーザーのほぼ8割をカバーできるといいます。
ですから、デビュー当初から60km余りの航続距離を謳っていたアウトランダー PHEVは、正鵠を射ていたといえます。さらに論を進めるなら、元々効率のよい小型車よりも、燃費の面で厳しい反面、スペースに余裕があるSUVにプラグインハイブリッドシステムを搭載した三菱自動車の判断は、論理的で正しいものでした。それが企業の体力や燃費偽装問題などで、いまひとつ販売が伸び悩んできたのは、ホント、残念なことです。クルマを売るビジネスって、難しいものですね。
さて、アウトランダー PHEVのマイナーチェンジの内容です。基本的なシステムに変更はありませんが、ソフトウェア面が刷新されました。従来の、エンジンとの協業でバッテリーの消費を抑える「バッテリーセーブモード」、充電を優先する「バッテリーチャージモード」にプラスして、エンジンの始動をできるだけ抑える「EVプライオリティモード」が設定されました。
シフトレバーの後方、トンネルコンソールに設けられた“EV”ボタンを押すと、アウトランダー PHEVは(ほぼ)ピュアEVに変身します。試しにアクセルペダルをあおって激しい加減速を行ってみても、エンジンはかからない。これには感心しました。ペダルを床までベタ踏みし、かつ数秒間経つと…、ようやくエンジンが目を覚まし、いわゆるハイブリッドモードに移行しました。なるほど、バッテリーの残量にさえ余裕があれば、アウトランダー PHEVは、実質的にEVとしてドライブすることが可能です。
今回、EVモードが新設されたのは、アウトランダー PHEVの輸出先であるヨーロッパ市場からの要望が大きな影響を与えたのだとか。ご存じのように、国内外を問わず、ハイブリッドモデルやPHEVを購入する理由として、「燃料代を節約したい」というよりも「エコに敏感な自分をアピールしたい」ことを挙げるユーザーは少なくありません。欧州では、二酸化炭素の排出量を抑えることが、いわばエリートの責務ともなっているのです。
せっかくアウトランダー PHEVを買ったのに、友人たちの前で、はたまた知人を乗せた際に「ブオーン!」とエンジンがかかっては興ざめ…。そんな意見が多く寄せられたといいます。こうした“微笑ましい見栄っ張り”を満足させるべく(!?)、EVボタンが新設されました。
新しい機能として、EV走行をメインに据えられた背景には、アウトランダー PHEVが市場に出て4年余り。ハード、ソフトの両面で、EVとして走らせるノウハウが蓄積された恩恵ともいえます。
併せて、駆動用バッテリーのマネージメントが、電力の“出し” “入れ”ともに見直されました。走行中は、これまで以上に余裕ある電力供給が実現され、つまり、エンジンの始動が抑えられ、一方、約80%までの急速充電時間が、およそ30分から25分程度に短縮されました。時間課金制の充電器を使用した際には、うれしい改良です。
マイナーチェンジの目玉としてラインナップされたSエディションは、478万9260円。ビルシュタイン製のダンパーをおごられた最上級グレードです。やや硬めの、スポーティな足まわりに対応するため、ボディ後端やリアゲート周囲に構造用接着剤を塗布し、ボディ剛性をアップしています。
フロントグリルやアルミホイールをダーククローム調にして外観をキリリと締め、さらに、ブラック塗装されたルーフをオプション設定しました。内装は本革仕様。各部に配されたシルバーパネルが、スポーティな雰囲気を盛り上げます。プラグインハイブリッドEVといえども「ガンガン走りたい!」。そんなアグレッシブなユーザー向けのスペシャルグレードです。
なお、冒頭に記したように、アウトランダー PHEV、アウトランダー両車で、先進安全装備が強化されました。従来、前方監視を担ってきたミリ派レーダーは、主に先行車追従式のクルーズコントロールとして従事するようになりました。そして新たに、単眼カメラとレーザーレーダーを組み合わせたユニットが、リアビューミラーの奥に装備されます。
新型は、より精細に前方の物体を観察できるようになったため、車両のみならず、歩行者も検知し、衝突の可能性が生じた際には警告し、必要なら自動ブレーキをかけるようになりました。そのほか、後方左右をはじめとする死角の警戒や、車線逸脱の警報、ハイ/ロービームの自動切り替えなども可能です。
プラグインハイブリッドモデルのトップランナーたるアウトランダー PHEV。この機会に、改めてチェックしてみてはいかがでしょうか?
<SPECIFICATIONS>
☆アウトランダー PHEV Sエディション
ボディサイズ:L4695×W1800×H1710mm
駆動方式:4WD
エンジン:1998cc 直列4気筒 DOHC
エンジン最高出力:118馬力/4500回転
エンジン最大トルク:19.0kg-m/4500回転
モーター最高出力(前/後):82馬力/82馬力
モーター最大トルク(前/後):14.0kg-m/19.9kg-m
価格:478万9260円
(文&写真/ダン・アオキ)
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