モータースポーツやスポーツカー好きにはお馴染みかと思いますが、ニスモとはニッサン・モータースポーツ・インターナショナルのこと。その名のとおり、日産自動車のワークスチームとしてモータースポーツ活動を行っていますが、公道仕様のコンプリートカーやチューニングパーツの開発なども手掛けています。近年では「フェアレディZ」や「マーチ」などをベースに、ピリッと辛口な走りとスタイルに仕立てた「ニスモシリーズ」の開発も行っており、スポーツドライビング派から注目を集めています。
現行型ノートにも、以前からニスモ仕様が設定されていましたが、ノートのマイナーチェンジとe-POWERの登場に伴い、2016年12月にマイナーチェンジを実施。併せて「ノート e-POWER ニスモ」もデビューを飾りました。
ニスモと聞くと、その心臓部が気になる方も多いと思います。駆動用の動力源は、日産「リーフ」と同じEM57モーターが担っており、発電用に1.2リッターの直列3気筒HR12DE型ガソリンエンジンを搭載しています。モーターの最高出力は109馬力、最大トルクは25.9kg-mというスペックですが、これはノート e-POWERのノーマルモデルと同じ値です。
しかし「残念…」なんて、答えを急いではいけません。ノート e-POWER ニスモには数々の特別装備が与えられていますが、そのリストには“専用チューニングコンピューター”も含まれているのです。これにより、電動駆動の特性を活かした、どこからでも瞬発力の高い加速フィールを実現しているとのこと…。これはちょっと期待できそうです。
もちろん、基本的な構成が同じノーマルのノート e-POWERも気になる、という方もいるかと思います。以前の試乗レポートではメカニズムも含め、詳細にレポートしておりますので、そちらもご覧いただければ幸いです。
さて、初対面となったノート e-POWER ニスモですが、その佇まいは「フェアレディZ ニスモ」や「ジューク ニスモ」など、一連のシリーズに通じる凛々しさとたくましさを備えたもの。
具体的には、フロントのLEDデイライトを囲むように張り出したフロントバンパー、イメージカラーであるレッドをアクセントに用いたエアロパーツやミラーなど、専用パーツによる演出が施されています。もちろん、これらは飾りではなく、レース活動で培ったノウハウが投入されたもので、空気抵抗を増やすことなく、適切なダウンフォースが発生するよう設計されています。
グッと迫力を増したエクステリアに負けず、インテリアもまたスポーティな仕立てとなっています。試乗車には、オプションのレカロ製スポーツシートが装着されており、こうした印象がより強く感じられたのも事実ですが、オリジナル状態もあなどることなかれ。
サイドサポートの張り出したスエード調スポーツシートのほか、赤いセンターマークがあしらわれた本革・アルカンターラのステアリング、アルミ製ペダルやフットレストが備わるなど、ニスモのDNAを感じさせる特別パーツがズラリ。さらに、エアコン吹き出し口やメーター中央部のリングなどにレッドの装飾が施され、ドライバーズシートに座るだけでも気分が高まります。
とはいうものの、典型的な旧人類である筆者は、“EVやe-POWER=エコカー”という固定概念でガチガチ。走り出すまでは、なんだか食べ合わせの悪いコース料理といいますが、e-POWERとスポーティさは共存できないのでは? と思っていました。しかし、結論からいってしまえば、そんな想像は全くの杞憂で、むしろ、e-POWER ニスモの巧みな味付けに感心させられた、というのが試乗後の感想です。
まず、スタータースイッチを押すとエンジンが掛かりました。一般的なガソリン車では当たり前の反応ですが、カタログだけでは“海のものとも、山のものとも判断できず…”という状態だったので、ひと安心。このe-POWERには、3つのドライブモードが用意されており、センターコンソールのスイッチで切り替え可能ですが、その違いは加速のほか、回生ブレーキの利き具合にあります。各々の設定はというと…
・ノーマルモード:通常の加速/通常の減速(回生ブレーキ弱め)
・Sモード:強力な加速/強めの減速(回生ブレーキ強め)
・ECOモード:緩やかな加速/強めの減速(回生ブレーキ強め)
という仕様になっています。つまり、ノーマルモード以外では、アクセルペダルの操作だけで加減速を自在にコントロールできる“ワンペダル”でのドライブも可能なのです。もちろん、いずれのモードでも、急減速にはブレーキ操作が必要ですし、停車中も安全のため、ブレーキペダルを踏むことをお忘れなく。また、ノーマルモードでも、シフトのセレクトレバーでDとB、ふたつのモードが設定されており、Bを選ぶと回生ブレーキがやや強く利くようになっています。
さて、まずはノーマルモードで走り出しますが、上手いなと感じたのは、静粛性のサジ加減。e-POWERはバッテリーにたっぷりと充電された電力でモーターを駆動するわけではなく、バッテリーはバッファー的な役割で、適宜エンジンにより発電することで、充電と走行用電力をまかなうシステムです。それゆえ、エンジンは始動と停止を繰り返しますが、エンジンが掛かっている時も、モーターだけで走行している時も、音圧の変化が“程よく”コントロールされているのです。つまり、走行中は無音ではないけれど、エンジンのオン/オフや、モーター音が、人間の感覚とズレて気になってしまう、といったコトがありませんでした。
このように、人の感覚とのリンクが巧みだなと、より強く感じるのは、Sモードをセレクトした場合でしょう。その加速は電気モーターならではのもので、強力なトルクを活かし、グイグイと速度を増していきます。市街地での加速感やペダル操作に対する反応は、過給中の2リッターターボもかくや…、という勢いですが、何より面白いのは、アクセルペダルのオン/オフに合わせ、エンジン回転が変化すること。あくまでエンジンは発電用の装置ではありますが、こうした制御が行われることで、ドライバーが“操っている”感覚が明確に得られるようになっています。この辺りは、専用チューニングが施されたコンピューターのセッティングあっぱれ、といったところでしょう。
ちなみに、スポーティさがウリのニスモ仕様ゆえ“ECOモードはなんのためにあるの?”と思われるかもしれませんが、街中やツーリング時のワンペダルドライブ用と思えば、かなりありがたい存在です。当初は、Sモードの加速感との落差に少々驚きましたが、渋滞中のゴー/ストップなどは、穏やかな加速と強力な回生ブレーキにより、ほぼ右足だけの操作でストレスなく進むことができました。
さらに、e-POWER ニスモの魅力として、補強が施されたボディと専用サスペンションの出来の良さも忘れてはいけません。特に、ボディには入念に手が加えられており、フロントとリアのクロスバー、サスペンションメンバーステーなどの補強のほか、フロントスタビライザーの強化なども行われています。
実際、ボディの剛性感は、同クラスのコンパクトカーの水準を大きく凌いでおり、フロアや足まわりのガッチリ感は、スポーツカーと比べても遜色ありません。コンパクトな5ドアボディを見てしまうと、いにしえのホットハッチ的な軽快で俊敏な走りを想像してしまいますが、e-POWER ニスモのシャーシは、どちらかといえば、重厚にしてしなやかなセッティングとなっています。ステアリングの操作感もリニアではあるものの、しっとりとした感触で、タイトコーナーが続く林道をラリーカーのように攻める! というよりも、高速道路のコーナーやスピード域の高いワインディングロードで本領を発揮するタイプの味付けとなっています。
ともあれ、当初の不安はどこへやら。すっかりニスモならではの走りに魅了されてしまったわけですが、これもe-POWERの自然な走行感覚があってこそ。いや、正確には、最初こそエンジンのオン/オフや、ワンペダルでの操作に戸惑いを覚えたのも事実ですが、それも1時間ほどですっかり馴染んでしまう程度のこと。確かに「これは未来の電気自動車だ!」という“特殊な感覚”こそ味わえませんが、ガソリンエンジンのスポーティモデルから乗り換えても違和感のない走り、そして、ニスモならではの“特別な演出”は、ぜひ一度、味わってみるべき、と断言できる仕上がりです。
<SPECIFICATIONS>
☆e-POWER ニスモ
ボディサイズ:L4165×W1695×H1530mm
車重:1250kg
駆動方式:FF
エンジン:1198cc 直列3気筒 DOHC
エンジン最高出力:79馬力/5400回転
エンジン最大トルク:10.5kg-m/3600~5200回転
モーター最高出力:109馬力/3008~10000回転
モーター最大トルク:25.9kg-m/0~3008回転
価格:245万8080円
(文&写真/村田尚之)
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