例えば、駆け出しの(多くの場合)懐に余裕のないカメラマンが仕事用のクルマを選ぼうとすると、それはもう(今でも)、レガシィ ツーリングワゴン一択なのです。「無理なく機材が積めて」、「ほどほどのサイズで」、「ロケハン、撮影で不整地を行くかもしれないので、できれば4駆」、その上「中古車のタマ数が豊富で」、「運転がそれなりに楽しい」…と並べていくと、必然的にレガシィ ツーリングワゴン(の中古車)に至るわけです。
そんな事情は、実質的な後継モデルたるレヴォーグも同じで、新車でも277万5600円(1.6GTアイサイト)で、基本的な要件を満たせます。クルマ好きの方は、フォルクスワーゲン「パサート オールトラック」、アウディ「A4 アバント クワトロ」などの値札を思い浮かべてみてください。スバルなら、同等かそれ以上の性能を持ちながら、「実質半額!」といっても過言ではありません。
…と、「コストパフォーマンスの話ばかりされるのは心外」とばかりに、スバルが本気を出して「高級感を注入!」したモデルが、2016年に登場した「レヴォーグ STIスポーツ」です。
専用グリルやバンパー、アルミホイールなど、特別なパーツを装着し、内装にもボルドー&ブラックという地味派手な本革仕様がおごられ、ほかのグレードとの差別化が図られます。
それ以上にスペシャルなのが、泣く子も黙るスポーティなSTIブランドを冠しつつ、過剰なスポーツ性を封印して、スムーズな乗り味を実現したアシまわり。適度に締まっていて、それでいて路面の凹凸をしなやかにいなして乱れを見せない。クルマでの移動距離が長い人ほど、そのありがたさを痛感することでしょう。
そんなレヴォーグ STIスポーツを仕事用に乗りこなす自分を夢見て“いつもの”撮影機材を積んでみました。国内線の機内に持ち込み可能なカメラバッグ、3段の脚立、長さ120cmのライトスタンドバッグ、三脚、レフ板セット、ふたつの大型ストロボ、そして、メイクさんが持参するバッグを模したトラベルケースです。
リアゲートを開けると、いかにもワゴンを作り慣れたメーカーらしい、シンプルな荷室が広がります。さっそくメジャー片手に実測してみますと、主要部分の荷室の横幅は137cm。十分な幅があり、長いライトスタンドバッグを余裕で置けます。後席背もたれ背面までの奥行きは107cmで、ジャーマン御三家のA4 アバント(106cm)、BMW「3シリーズ ツーリング」(102cm)、メルセデス・ベンツ「Cクラス ステーションワゴン」(98cm)のいずれをも上まわります。
荷室カバーまでの高さは42cm。フロア下に4WD機構を持ちながら、標準的な天地を確保しています。さらに、応急用のテンパータイヤを廃することで、床下に深さ10cm/22cmほどの、実用的な収納ペースを作り出しています。仕切り板で広さを分けられる、細やかな気遣い付き。もしカメラカーとして使うなら、撮影車が汚れた時に使う簡単な洗車キットなどを積んでおきましょうかね。
リアシートは6:4の分割可倒式で、荷室側からも倒すことが可能。背もたれの角度は3段階に調整できるので、荷室容量を微妙に変えられます。
あえて難点を述べると、スキー板などを貫通させて搭載するセンタースルー機構が、リアシートにないこと(アームレスト部分だけを倒すこともできない)。
それと、荷室カバーと後席背もたれの間にすき間を埋めるシートがあるのですが、それを留める機構が簡易的すぎる、といったことでしょうか。左右両端の小さなゴムパッドを、突っ張り棒の要領で外側に押しつけて固定するだけなので、背もたれの角度を調整するたびに外れやすい。この部分のシートは、荷室にこもるノイズがキャビンに入ってこないよう遮断する役割も期待されるので、今後の改良に期待したいところです。
重箱の隅をつつくと要改善点も見つかりますが、レヴォーグ STIスポーツは、総体的には理想的な仕事グルマです(もちろん、レジャーにもお使いください)。前出の荷物を余裕もって飲み込んで、なおかつ、スタッフの手荷物を入れるスペースも残ります。長距離の移動時は乗員の居住性の高さも大事ですから、キャビンを広く使うためにも、荷室の余裕はありがたいですね。
レガシィ ツーリングワゴン同様、レヴォーグも職業カメラマンの定番になりそうです。なろうことなら、STIスポーツが理想ですが、貧乏性のカメラマンとしては(←ワタシのことです)、「ちょっと贅沢過ぎるかなぁ…」ともったいなく感じてしまうのが、難点といえば難点かも。
高い機能性を実現しつつ、「動」「静」とも品よくまとめられたレヴォーグ STIスポーツ。1.6 STIスポーツ アイサイトが348万8400円。2.0 STIスポーツ アイサイトが394万2000円です。
<SPECIFICATIONS>
☆1.6 STIスポーツ アイサイト
ボディサイズ:L4690×W1780×H1490mm
車重:1550kg
駆動方式:4WD
エンジン:1599cc 水平対向4気筒 DOHC 直噴ターボ
トランスミッション:CVT(リニアトロニック)
最高出力:170馬力/4800〜5600回転
最大トルク:25.5kg-m/1800〜4800回転
価格:348万8400円
(文&写真/ダン・アオキ)
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