【オトナの社会科見学】日産GT-Rの精緻さは人の“手ワザ”から生まれていた!

“アルティメイトシャイニーオレンジ”に塗られた「GT-R プレミアムエディション」を受け取ります。

ドアパネルに埋め込まれた格納式のドアノブを引くと“カコッ”と弾けるようにドアが開きますが、その音は高級車的な重厚さとは異なり、開閉も重さを感じることはありません。

しかし、シートに収まり、ドアを閉める瞬間、手に伝わってくる剛性感は“このクルマは特別なのだ”と教えてくれるようです。ドアとラッチの正確無比な噛み合い、ドアシールの密着感など、些細なことではありますが、その感触と車内の密閉感から「やはり300km/h級の高性能車は違うな」と感じさせられました。

ひと呼吸置き、スタータースイッチを押してエンジンを始動させますが、いにしえのスーパーカーのように、特殊な儀式など必要ありません。一瞬、ドンッとばかりに低めの雄たけびを上げますが、最高出力570馬力の3.8リッターV6ツインターボは、ラフな振動など感じさせることなく、アイドリングを開始します。

準備を済ませ、ゲート式シフトレバーで、自動変速モードである“A”を選んでパーキングから走り出します。と、ここまでの運転操作は、一般的な乗用車と全く同じ。そうして大通りに出ると、オレンジメタリックのGT-Rはやはり人目を惹くようで、信号待ちの時など明らかに人の視線を感じます。

走り出して数分後、高速道路へと上がりアクセルペダルに力を加えると、即座にエンジンから重厚で金属的なV6サウンドと、リアシート周辺から“カチャン”、“カタッ”とトランスアクスル構造のギヤボックスが発する音が聞こえてきます。

とはいえ、こうした作動音が、同乗者との会話やオーディオの音を邪魔するようなことはありません。むしろ、クルマが発するこうしたリニアな反応は、まるでクルマの鼓動のようです。以前のGT-Rは、エンジンやギヤボックスなどから、少なからず“ガチャガチャ”とメカニカルな音が聞こえていたのですが、’17年モデルではそうした各部の作動音から雑味が取り除かれ、音量も抑えられています。

東北自動車道に入ると、再びテストドライバー氏の話を思い出しました。サスペンションにはモード切り換え機能が備わっていますが、高速道路でのそれは「ぜひコンフォートモードにして走って欲しいんです」というひと言。今こそ絶好のチャンスとばかり、スイッチをノーマルからコンフォートに切り換えます。

本音をいうと「そんなに違いはないだろうし、果たして、そもそも違いが分かるのか?」と思っていたのですが、高架の継ぎ目の段差や路面補修の目地段差を通過すると、違いは歴然! “トン”、“コトッ”とタイヤが音を発しますが、シートやフロアに振動が伝わることはありません。

もともと、ノーマルモードでの乗り心地も、オーバー500馬力級のスポーツカーとしては最高レベルの快適さではありますが、コンフォートモードはさらに一枚上手、という感触です。音はすれども、不快な振動や衝撃はなく、しかし、ステアリングの感触や反応、車両の安定性が悪化することもありません。サルーン的なゆったり感とは異なりますが、市街地から高速道路をひたひたと巡航するためのモード、としては最適だと思います。

ちなみに、100km/h巡航時のエンジン回転数は、6速で2100回転ほど。望めば一瞬で200km/hを超えることも可能なGT-Rですが、流れる景色を楽しみながら、かすかに聞こえるVR38DETTの硬質なビートをじっくり堪能します。風切り音などの雑音もなく、路面の変化や横風といった外乱にもビクともしない直進性などを体験し「GT-Rってクルージングにも向いているんだな」と感心しきりだったのであります。

「コイツならどこまででも走っていけそうだ」と思った矢先ではありますが、ゴールは訪れるもの。神奈川県の横浜から休憩をはさみつつ約3時間。GT-Rの生まれ故郷、栃木工場に到着です。

【次ページ】多くの“人の手”による作業からGT-Rは生まれる

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